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普遍性の高いものに目を向ける大切さ(滝 久雄 氏 / 株式会社ぐるなび 取締役会長、創業者)

2008.10.24

滝 久雄 氏 / 株式会社ぐるなび 取締役会長、創業者

討論会「会長 vs 学長 -20年後に東工大が世界のトップ10に入るには-」(2008年10月8日、東京工業大学グローバルCOEプログラム「フォトニクス集積コアエレクトロニクス」博士フォーラム 主催)講演から

株式会社ぐるなび 取締役会長、創業者 滝 久雄 氏
滝 久雄 氏

 普遍性が高いものほど勉強すればするほど蓄積も大きい。普遍性の高いものに目を向けないと、やったことが無駄になってしまう。特に普遍性の高いスキルあるいは感性のようなものは若いときに身につけないと駄目。40歳過ぎてからでは難しさが増すのではないか。

 一般的に、普遍性に関するフィーリングには誤りがあるのではないか。社会の成り立ちを支える技術はものづくりであり、技術というのは普遍性が高いものである。普遍性が高い技術を見つけて身につけておけば食いっぱぐれもない。こうした感覚がかつてわれわれに、またわれわれの親にもあったと思う。しかし、社会の中の個人から見ると実はこれは全くの誤りといえると思う。

 川は大きなものでも小さなものでも川に変わりはない、と疑いもなく思いがちだが、水から見たら違う。「行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず…」。有名な方丈記の冒頭部分だが、普遍性は「絶えず」と「本の水にあらず」というところにある。修士1、2年生のころは、研究テーマもさることながら、普遍性の高い研究手法とか研究テーマの選び方も身につけるべきだ。

 私は三菱金属(現・三菱マテリアル)をやめて起業を志したとき「法学概論」(尾高朝雄著)という本を一字一句分からないところは人に質問をしまくって読んだ。この1冊で大いに勉強になった。おかげで私は弁護士に使われることはなく、使う側だ。意外に思う人もいるかもしれないが、法というのは普遍性が非常に高い。民法の基本である所有権にかかわることなどローマ時代からほとんど変わっていないらしい。だから法学というのは一般的に勉強することに無駄がない。

 もう一つ普遍性が高いものとして、マネジメントがある。ドラッカーの「マネジメント」という本も読んだが、著名なコンサルティング会社の主任研究員に「マネジメントはドラッカーの前に人はなく、ドラッカーの後に人はない」と言われたことがある。「重要なのはたったこれ1冊か。早く言ってくれればいいのに」と思ったものだ。マネジメントも普遍性が高いということだ。ちなみにドラッカーはこれまで何度もノーベル経済学賞にノミネートされたのだが、後追いのジャンルである経済学での賞とみなし断ってきたそうだ。

株式会社ぐるなび 取締役会長、創業者 滝 久雄 氏

 法学やマネジメントに比べると、技術というのは普遍性が低い。研究する手法、技術を身につける手法は普遍性が高いが、テーマはよほど考えてやらないと、よほど早くやらないと危ない。技術は革新するからだ。とはいえ、それなら技術などやるのはやめた、と言われると困る。何といっても日本が世界に誇れ、強いのはものづくり。老舗企業が10万社、有限会社以上に限定しても1万社というのは日本しかない。米国人はマニュアルにあることしかしようとしない傾向強いが、日本人はちょっとでもよいものにしようという人間が多い。農耕民族の強みで、ものづくりには適している。

 ただし、今はものづくりで世界一だが、10年後、20年後も世界一でいられるかどうかは分からない。技術立国といいながら、気がつかないうちに世界一ではなくなってしまうリスクがある。理科に卓越した人材を育成できないと、ものづくり世界一のアイデンティティは失われるだろう。

 では、東京工業大学の皆さんはどうしたらいいのか。技術にしても研究にしても人間社会に進歩や潤いをもたらさないと、社会にもてはやされるような成果物にはつながらないということをよく考えてほしい。そのためには人と人間社会に興味を持たないといけない。

 最近、脳科学の重要性に関心を持っている。脳が活性化するのは、使命感を持つことだと考えている。日本のため、社会のためにトップリーダーになる。そうしないと日本が沈没してしまう。自分たちが結婚して子どもができたとき、その子どもたちが胸を張って頑張れるような社会をつくらなければならない。このような使命感を持って進んでほしい。そうすれば脳の吸収力もよくなり、吸収力がよくなれば脳は学習するから、研究能力も高まるはずだ。

株式会社ぐるなび 取締役会長、創業者 滝 久雄 氏
滝 久雄 氏
(たき ひさお)

滝 久雄(たき ひさお)氏のプロフィール
1963年東京工業大学理工学部機械工学科卒、三菱金属(現三菱マテリアル)入社、67年父の急逝で交通文化事業社(現NKB)を継承、88年NKB社長、96年NKBの事業として飲食店検索サイト「ぐるなび」開設、2000年株式会社ぐるなびに分社し会長兼社長、01年から現職。著書に「ぐるなび『NO.1サイト』への道」(日本経済新聞社)「貢献する気持ち-ホモ・コントリビューエンス」(紀伊国屋書店)など。

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