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安全で持続可能なコミュニティとは(イアン・カフーン 氏 / 元英王立建築家協会 副会長)

2008.06.13

イアン・カフーン 氏 / 元英王立建築家協会 副会長

「防犯まちづくりと団地再生」国際シンポジウム(2008年4月25日、都市住宅学会防犯まちづくりシンポジウム実行委員会、建築研究所 主催)講演から

元英王立建築家協会 副会長 イアン・カフーン 氏
イアン・カフーン 氏

 1970年代以降、犯罪、犯罪の不安、反社会的行為が、英国の都市の多くの住宅団地で深刻な問題となった。こうした犯罪を防止するため環境デザインを用いた取り組みが行われ、効果を挙げている。

 1920年から80年代にかけて、英国の自治体は数多くの賃貸公共住宅を都市内に建設した。19世紀に作られ、もはや今の時代にはふさわしくなくなったみすぼらしい住宅を建て替えるためだ。人々は新しい住宅団地の広い住宅スペースと近代的設備に喜び、多くの場合、居住者たちの間には強いコミュニティ意識が育った。都市内部に土地は不足していたので、多くの公共住宅団地は高密度、高層にならざるを得なかった。

 しかしながら、70年代半ばから伝統的な重工産業の撤退によって都市内部は社会的経済的問題が噴出、ロンドン、リバプール、マンチェスター、バーミンガムといった大都市では80年代初めには暴動も相次いだ。この結果、住宅団地には失業者が集中し、犯罪、犯罪に対する不安、建物などの破壊、反社会的行為が増加、住宅団地の物理的な荒廃という状況が生まれ、人々、特に若くて技能を持つ人々の郊外への移住という現象を引き起こした。

 環境デザインによる犯罪防止(CPTED:Crime Prevention Through Environmental Design)は、そうした社会状況の中で出てきたもので、2004年に英政府によって示された環境デザインガイドは、犯罪防止が主目的に据えられている。

 CPTEDの考え方は、まず、住宅団地は規模が大きすぎず多様性を持つことが必要とされている。新しい市街地は3,000人から1万人の規模で、近隣住区は500人から1,000人。住戸クラスターは6戸以下が好ましく、10戸以上では隣人感覚が薄れる。住宅密度は1ヘクタールあたり50戸を最大とし、それ以上の密度になる場合は高層の集合住宅より、ハウジングヒル(丘状の地形に作られた接地型の集合住宅)とすべきだ。コミュニティの集合場所と若者のための施設が必要。住宅と環境の設計・管理・維持への住民参加が、住む場所への責任を育てる、といった指針が示されている。

 こうしたデザインガイドによって作られた住宅団地のよい例が、ダートフォードのイングレスパークなどに見ることができる。

 ただし、こうした英国の経験から得られた最も重要な教訓は、設計のみでは犯罪、犯罪に対する不安、反社会的行為という問題は解決できないということだ。必要とされているのは、物理的、環境的改善とともに社会的、経済的問題にも取り組むことである。これは、自治体、都市開発業者、警察、社会福祉士、計画立案者、建築家、さらにとりわけ住民の参加がなければできない。英国においては、いまや参加が持続可能なコミュニティを作るための核心とされている。それはまた、地域の人々が自分たちの居住区における犯罪と犯罪の不安に対処する重要な手段であるとも見られている。

元英王立建築家協会 副会長 イアン・カフーン 氏
イアン・カフーン 氏
(Ian Colquhoun)

イアン・カフーン(Ian Colquhoun)氏のプロフィール
英国の建築家・都市計画家、前リンカンシア・ハンバーサイド大学教授、元英王立建築家協会副会長。1999年には千葉大学の客員教授を務めた。英国で団地の再生や都市の再生に取り組み、近著「デザイン・アウト・クライム」(小畑晴治、大場悟、吉田拓生訳、鹿島出版会)では、人々が犯罪や犯罪の不安から解放されて、質の高い生活を送れるようになるためのコミュニティや住宅地の設計計画について豊富な実例を引いて解説している。その他の邦訳著書に「ハウジング・デザイン-理論と実践」「イギリス集合住宅の20世紀(ヨーロッパ建築ガイド)」(いずれも鹿島出版会)。

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