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結果が保証されている研究では(マーティン・エバンス 氏 / 英カーディフ大学生物科学部長、ノーベル医学生理学賞受賞者)

2008.05.16

マーティン・エバンス 氏 / 英カーディフ大学生物科学部長、ノーベル医学生理学賞受賞者

国際シンポジウム「iPS研究が切り拓く未来」(2008年5月12日、科学技術振興機構 主催)基調講演から

米英カーディフ大学生物科学部長、ノーベル医学生理学賞受賞者 マーティン・エバンス 氏
マーティン・エバンス 氏

 (人工多能性幹細胞=iPS細胞に関する会場からの質問と、「若い人たちへのメッセージを」という要望に答えて)

 iPS細胞は、ヒトES細胞(胚性幹細胞)を得る方法を革命的に変えた。ES細胞は、胚から採るということで規制が厳しい。iPS細胞は、そこをピョンと飛び越えてしまった。今のところ倫理的な問題は限られている。安全性をどう確認するかが課題だろう。

 治療に応用するとなるとiPS細胞のバンクが必要になると思うが、数百人分の細胞があれば大半の患者には対応できるのではないか。もちろん患者自身からつくったiPS細胞を使うのはすばらしいことだが、費用と時間の問題が出てくる。

 再生医療の未来は明るいと思う。ひとつ心配なことを挙げれば、かつて遺伝子治療が初期の段階でフィーバーが起き、死者まで出た例がある。その結果、医学界が背を向けるということがあった。今、ようやくできるようになったが。同じことが起きるかもしれないので、治療に使うことを考える際には十分な安全性と効果の確認が必要だ。

 私は奥手の研究者だった。学生時代も、ポスドクの時も自由度があった。大学院生、ポスドクとして所属していた研究室は、研究資金が十分あった。十分な自由が与えられ、やりたいことを探求する環境にあった。

 昨今は、大学院生もポスドクもものすごく頑張って仕事をしている。学界で実績を上げていかなければならなくなっているため、結果が保証されているような研究をやる傾向がある。それではイノベーションは生まれない。

 上の者も、「2年間、論文が出ないではないか」などと若い人たちを怒ったりしてはいけない。文句を言ってはいけない。私は、上司の先生としてはよくないと言われたが、十分な自由度を若い人に与えたことでよかったと言われた。

米英カーディフ大学生物科学部長、ノーベル医学生理学賞受賞者 マーティン・エバンス 氏
マーティン・エバンス 氏
(Martin J. Evans)

マーティン・エバンス(Martin J. Evans)氏のプロフィール
1969年ロンドン大学ユニバーシティカレッジ博士課程修了、94年ケンブリッジ大学教授、99年カーディフ大学教授(哺乳類遺伝学)兼生物科学部長。マウス初期胚からさまざまな細胞に分化する能力を持つ胚性幹細胞(ES細胞)の樹立に成功した。現在、特定の遺伝子だけを機能停止させたノックアウトマウスが、遺伝子の働きを調べる研究や新しい薬品の開発などで重要な実験動物となっている。このノックアウトマウスの実現にエバンス 氏のES細胞研究成果が大きく貢献したことから、他の2研究者とともに2007年のノーベル医学生理学賞が授与された。サー(ナイト)の称号を持つ。

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