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全人類の危機意識共有を(内田盛也 氏 / 日本学術交流財団 理事、先端技術産業戦略推進機構 顧問)

2008.04.04

内田盛也 氏 / 日本学術交流財団 理事、先端技術産業戦略推進機構 顧問

国際シンポジウム「地球温暖化と低炭素・循環型共生社会への道」(2008年3月7日、先端技術産業戦略推進機構 主催)報告から

日本学術交流財団 理事、先端技術産業戦略推進機構 顧問 内田盛也 氏
内田盛也 氏

 地球温暖化は、人類の生活・産業・社会へ強烈なインパクトを与えるものだ。産業革命以降の人為的温暖化を断ち切るには、全人類の危機意識の共有と、年月をかけたそれぞれの生活文化に対応した地道な努力しか道はない。わが国は、自然と季節に恵まれた国土と、優れた工芸、技能、技術、文化によって、世界で秀でた省エネルギー型経済国家を形成してきた。今、地球環境、自然の危機に直面する人類社会のために、次のことを提言したい。この提言は福田首相にも直接、伝える。

 まず、人類危機への共通認識が必要とされている。国際協力の下で全世界の人々に対して地球の実情とその根源についての科学知識と対応に向けたさまざまな取り組みのあり方を絶えず発信し、自助努力を鼓舞しなければならない。生活様式の大転換が求められる。未来社会を担う若者を中心に、文明史的変化に対応する意識を世界的に共有し、活用可能な知識・技術の交流の輪を促進しなければならない。

 地球温暖化防止の対応として、全世界の二酸化炭素(CO2)排出を2050年に1990年比で半減させるとする目標についての主要国共通認識は堅持しなければならない。専門家の中には、地球がCO2排出量を吸収する臨界点を超えることへの懸念が存在しており、科学的解析による追及の手を緩めてはならない。

 先進国は、累積排出責任により、CO2を2050年までに70〜90%削減し、一人当たりの年間排出量を2〜3トンとすることを目指す必要がある。途上国の森林破壊の防止対策、森林保護と炭素固定につながる産業と雇用拡大への自助努力を支援し、技術、人材育成、資本、通商、国家経営など幅広い国際協力を推進しなければならない。

 技術力の活用、普及のために、産業セクター別の削減を行い、低炭素型グローバル経済化を達成する。地域適合分散型エネルギーによる地域の低炭素・循環型社会の形成に尽力する。原子力、地熱発電、巨大水力発電など大容量発電への国際協力を進め、直流送電により大陸・海洋を横断する電気損失がほとんどない長距離伝送を実現する。輸送分野の省エネ・低炭素化に先端技術を適用し、陸・海・空輸送のベストミックスと商品情報活用による効率化を推進することも必要だ。

 人類が経験したことがない事態へのこれらの対応には、経済実利主義の広まりによる個人優先の風潮と、現実の場で必要とされる技術を有し、対応努力のできる人材の不足が最大の障害になると思われる。

 日本の本来の価値観を呼び起こし、産学協働により世界を展望した実践・挑戦型人材の育成を迅速に行うことを求めたい。

日本学術交流財団 理事、先端技術産業戦略推進機構 顧問 内田盛也 氏
内田盛也 氏
(うちだ もりや)

内田盛也(うちだ もりや)氏のプロフィール
1929年生まれ、53年東京工業大学卒、帝人(株)入社、新事業推進責任者として、アラミド繊維、先端複合材料、医薬、在宅医療など多数の新規企業化への創造開発を達成。中央研究所長、生産技術研究所長、常務・新事業推進本部長など歴任。93年科学技術庁参与などを務め、「科学技術基本法」の制定に尽力。1994~97年日本学術会議会員(第5部部長)。工学博士。専門は材料工学、科学技術戦略論、知的財産経営、生活情報論。「国際技術戦略」(有斐閣)、「産業技術大国日本の選択」(日刊工業新聞社)、「石油文明を越えて…歴史的転換期への国家戦略」(オフィスHANS)など著書多数。現在、(株)モリエイ代表取締役会長、工学院大学理事、日本工学会顧問なども。

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