ハイライト

コミュニケーションはシンプル、的確、真摯な表現から(犬伏由利子 氏 / 消費科学連合会 副会長)

2008.03.07

犬伏由利子 氏 / 消費科学連合会 副会長

シンポジウム「原子力コミュニケーションのあり方を問う-社会と原子力界との相互信頼を求めて」(2008年3月4日、日本原子力学会シニアネットワーク連絡会 主催)講演から

消費科学連合会 副会長 犬伏由利子 氏
犬伏由利子 氏

 消費科学連合会は「すべての消費者が健全な消費生活を営めるよう、科学的視点の下に消費者運動を推進するとともに消費科学(思考)の啓蒙を行う」ことを目的としています。加盟団体数35、会員約6,000人、全国通信調査員1,000人から成り、今年で42年目を迎えました。

 エネルギー問題をはじめ自然や社会の環境浄化のための行動を起こすことも運動目標の一つに掲げており、当然、原子力にも大きな関心を抱いております。温暖化と省エネルギーが喧伝されているいま、私たちの暮らしを考える上で、火力・水力・自然エネルギーによる発電と原子力発電との違いにも関心を払わざるを得ません。エネルギー源を比較する際、事故率が高いか低いかということがよく言われますが、リスクの大きさについても事故率以上に重視せざるを得ないと考えております。

 原子力について考える場合、消費者が情報を入手する手段は、テレビ・新聞などによる報道と、電力会社など事業体による広報とがあります。視聴率競争などに左右される可能性がある報道、安全性をことさら強調しがちな広報をどう受け止めていいのか、設計や技術の安全性はだれが担保してくれるのか、という難題を消費者は突きつけられているわけです。

 以上のような立場に置かれている消費者としては、以下のようなことを当事者の方々に求めたい、と考えます。

 いま国は、地震に対して防災から減災に対応策を方向転回したと聞いています。その考え方がこの原子力発電に関する諸問題にもあってよいのではないでしょうか。設計・立地の段階および事故時における広報などに関しては国がもっと関与し、「公共性」を担保するシステムづくりを考えてほしいと思います。

 フィード・フォワードという言葉があると聞きました。これはさまざまなリスクに対してその解決方法をあらかじめすべて列挙した上で、リスクを最小にする最善の対策を決めておくものと理解しています。この考え方は安心に直結するもののように思えます。

 国民がもっとも知りたい安全性あるいは危険性を国の立場から即時にしっかりと事実を広報するシステムが確立されることこそが、一方通行の情報の垂れ流し的報道のあり方にも変化を与え、私たち一般生活者もそれなりに考え、理解した上でしっかりと取捨選択することができるのではないでしょうか。

 責任の所在を明確にすることで、責任回避の立場からさまざまな規制をかけるのではないかという杞憂も当然考えられますが、そこにこそコミュニケーションという手段が効を奏するようになるのではないでしょうか。コミュニケーションとは、世代、立場、情報の量的格差を縮める場の設定を数多く持つことによって効を奏するものと考えます。

 さまざまな集団や格差を越えて理解し合える最大の要素は、シンプルであること、単純・的確そして真摯な表現がまずあるべきだと思います。その上で生じるさまざまな疑問に丁寧にわかりやすく解説する。そうしたプロセスの上に乗ってはじめて専門家集団と一般生活者とのコミュニケーションは成り立つのではないでしょうか。

消費科学連合会 副会長 犬伏由利子 氏
犬伏由利子 氏
(いぬぶし ゆりこ)

犬伏由利子(いぬぶし ゆりこ)氏のプロフィール
1991年から現職、同年から(財)消費科学センター理事。消費科学センターの「消費者大学講座」などを通し、考える消費者、科学する消費者を育成する努力を続けている。

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