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「原発しかない」がワシントンの常識(日高義樹 氏 / ハドソン研究所・首席研究員)

2007.11.16

日高義樹 氏 / ハドソン研究所・首席研究員

第2回原子力機構報告会(2007年10月25日、日本原子力研究開発機構 主催)特別講演から

ハドソン研究所・首席研究員 日高義樹 氏
日高義樹 氏

 米国が一番困っているのは、長い間安い石油でやってきたのが、いまやエネルギーの生産量と消費量にマージン(差)がなくなってしまっているということだ。今世界の人々は掘り出した石油をその日のうちに消費している。少しでも状況が変わると、石油価格はめちゃくちゃに上がる恐れがある。

 米政府は、イランが核装備をやめない限り、イラク支援をやめない限り、イランの原子力施設を爆撃するほかないというところに来ている。爆撃をやめればイランが中東を占拠して、さらに混乱が予想されるし、また、イランを爆撃すれば、イランはサウジアラビアに報復し、クウェートに攻撃を仕掛けるだろうと米国は考えている。そうなると石油価格は2〜3倍に上がるだろう。

 ブッシュ大統領は、新しいエネルギー法案を議会に提出、議会もこれを認めた(編集者注:ブッシュ大統領は2005年8月8日に署名)。その骨子は原子力とエタノールである。エイブラハム前エネルギー長官に聞いたところ、繰り返し主張していたことは、原子力発電の技術は通信が新しくなったように、全く新しいものに変わった、ということだった。今許可を出そうとしているのは第3世代の原発で、これが第4世代になれば技術はさらに飛躍的に向上する。超高温のガスで簡単に水素をつくり、それで自動車も動かせる。新しい時代に入った、ということだ。米国は原発の許認可年限を40年にしているが、これは決めた当時、他の許認可も考えて40年と区切っただけ。これを50年、あるいは80年,100年に延ばすことが検討され始めている。安全技術を考えると、100年という期限を切ることすらおかしい、とエイブラハム前長官は言っていた。

 米国内のある試算を使った議論では、現在、原子力発電のコストは安いものではない。1キロワットあたりの発電コストは6.7セントとされており、石炭、天然ガスの方が安い。原子力の方が高い理由は、立地と廃棄物処理のせいだ。一方、二酸化炭素(CO2)の排出に対し、税金をかけるようになると石炭による火力発電のコストは1キロワット当たり9セントと、原子力発電コストより高くなるとも言われている。CO2排出も高くなり、石油も高くなるとなれば、原子力発電しかないという状況になっている。私どもの研究所の世論調査では、化石燃料の値段から来ている懸念は日本ほど一般化してはいないが、地球の温暖化を心配するなら原子力発電を素通りすることはできない。原子力発電しかないというのが、ワシントンの政治家の常識となっている。

ハドソン研究所・首席研究員 日高義樹 氏
日高義樹 氏
(ひだか よしき)

日高義樹(ひだか よしき)氏のプロフィール
1935年名古屋市生まれ、刈谷高校、東京大学英文科卒業後、59年NHK入社、外信部、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長理事待遇アメリカ総局長を歴任、NHK審議委員を最後に退職後、ハーバード大学客員教授勤め、現在は同大学タウブマン・センター諮問委員。全米商工会議所会長顧問も。「アメリカの新国家戦略が日本を襲う」(徳間書店)など著書多数。テレビ東京の番組「日高義樹のワシントンリポート」に毎月1回登場。

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