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農業は次世代に継承すべき産業(萬田富治 氏 / 全国大学付属農場協議会 会長、北里大学 獣医学部 教授)

2007.05.15

萬田富治 氏 / 全国大学付属農場協議会 会長、北里大学 獣医学部 教授

シンポジウム「食育の現状と大学付属農場等の果たすべき役割」(2007年5月11日、全国大学付属農場協議会、日本学術会議農学基礎委員会農学分科会 主催)基調講演から

 自給率は低下し、農業後継者は不足し、平成17年には全国で約38万ヘクタールに及ぶ耕作放棄地が出現した。林業でも人手不足が常在化し、国土は荒廃し、雑木林や竹藪が押し迫る里山での鳥獣害の報道は日常茶飯事の出来事となっている。このような荒れゆく国土・地域資源を保全するために、農業生産活動に大きな期待が寄せられている。

 最近では、安全・安心な食品に対する国民的関心が著しく高まり、地産地消・スローフードへの取り組みをはじめ、生産者・加工・流通・消費者との新たな連携が始まっている。国においても食品安全行政が推進され、消費者の視点に立った施策が強化されている。農政が大きく転換し、耕種農業と畜産との連携強化をはじめ、環境保全型農業の構築に向けたさまざまな施策が取り組まれている。しかし、依然として耕作放棄地は増加し、耕作面積や農家戸数の減少が続いており、食料の持続的生産と自給率の向上を達成することは厳しい見通しだ。

 一方、海外に目を転じると東南アジア連合(ASEAN)では、急速な工業化に伴い穀物輸入量が増加している。中国も2001年には世界最大の大豆輸入国となり、世界の穀物需給に大きな影響を及ぼしている。原油価格の高騰を受けて、世界市場における穀物需給のバランスが崩れつつあり、21世紀の半ばには遅かれ早かれ、環境、人口、食糧、化石エネルギーをめぐる状況はいずれも厳しいものとなることが予想されている。米国はバイオマス燃料を重視したエネルギー政策に転換した。農産物を持続的に確保するために、化石エネルギーの節減、資源循環による自然循環的農業を構築するための取り組みが国民的課題となっている。

 農業は工業と異なり、原材料を海外から輸入して成立する産業ではない。移動できない土地や大量の水、太陽エネルギーを原料とした自然循環的な生産様式を基本とし、次世代に継承すべき産業だ。このような実学の場として、これまで蓄積してきた大学付属農場の成果や理念をさらに広め、世の中に貢献するとともに、さらに農学の専門領域を越えて、体験学習、生涯教育、医療領域、社会科学、文学、芸術などとの交流を図ることを、今後の目標の視野に入れている。これらの諸活動により、地域固有の伝統や文化が大切に継承され、農業・農村に生活する人々を復権させ、国民・消費者の生活を豊かにし、世界に誇れる健全な国土・国民の醸成に寄与できると考えている。

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