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育種という生物改造技術の意義再検討も(林 良博 氏 / 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授)

2007.03.12

林 良博 氏 / 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授

シンポジウム「未来を拓く人文・社会科学-イノチのゆらぎとゆらめき-」(2007年3月9日、日本学術振興会 主催)講演、パネルディスカッションから

 「家畜とはその生殖が人の管理下におかれた動物」という生物学的な定義通り、人びとは生殖をコントロールすることによって種々の品種を作出してきた。生殖コントロールが容易なイヌは400品種以上が、世界中で作出され、現在に至っている。

 手のひらに載る最も小型のチワワと、大型のイヌとは大きさで百倍もの違いがある。同じ種でこれほど大きさに幅がある動物はいない。育種によって、これほど多様なイヌができたわけだが、例えばブルドックは、寿命が8歳くらい。平均的なイヌに比べると寿命が短い。ゴールデン・レトリーバーは、40%が遺伝疾患を持っている。

 ゴールデン・レトリーバーは、200年ほど前に英国の貴族が「黄金の毛をなびかせて走るイヌがほしい」と思って、1代でつくりあげた。国家的プロジェクトではなく、個人が勝手にやったということで、倫理的な問題は問われないかもしれない。しかし、われわれの研究は、公的なサポート(研究費)でやるわけで、国民がそういうことをやってほしくないと思うことができるのかどうか。

 育種によって、農民が戦後、苦しい農作業から解放されたといった良い面があるのは事実だが、現在は生命に対していじりすぎているのではという恐怖が、日本では強まっているのではないだろうか。

 多様な品種は、育種家たちの努力の結晶ともいえるが、遺伝子操作によって想像を超える新品種の作成が可能になった現在、古典的育種の意義を再検討する必要があるだろう。

林 良博(はやし よしひろ)氏のプロフィール
1946年広島県生まれ、69年東京大学農学部卒業、75年東京大学大学院博士課程修了、84年東京大学医科学研究所助教授、90年東京大学農学部教授、2004年東京大学理事・副学長、2005年から現職。96~99年、東京大学総合研究博物館長併任。日本学術会議会員。専門は、動物資源科学、獣医解剖学、寄生虫学、人と動物の関係学。

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