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コラム - オピニオン -

気をつけよう若い女性の『やせすぎ』

山形大学医学部 教授・附属病院 副院長 倉智博久 氏

掲載日:2008年10月23日

山形大学医学部 教授・附属病院 副院長 倉智博久 氏

倉智博久 氏

 

世の中「メタボ」です。今年からは健康診査項目にもウェストサイズの測定が加えられました。確かに「太りすぎ」が健康に良くないことは事実ですが、逆に、「やせすぎ」は健康に影響しないのでしょうか? 皆様の中には、「やせているのがかっこいい」、「何としてもやせたい、やせていたい」と思っておられる方も多くおられるのではないでしょうか?

これは、ファッションモデルの方などの体形を良いとする風潮の弊害です。しかし、皆様ご存知のように、ファッション界でも、「やせすぎ」の弊害が問題となり、一定以上のやせたモデルはファッションショーに出演できなくなってきていることからみても、「やせすぎ」にも重大な健康上の問題があるのです。

日本学術会議は、9月22日、公開シンポジウム「気をつけよう!若い女性の『やせすぎ』」を開催しました。さまざまな観点から「若い女性の『やせすぎ』にはどんな問題があるのか」について、三重大学産婦人科教授の佐川典正先生と大阪樟蔭女子大学人間科学部教授の甲村弘子先生のお二人に、さらに、若い女性の強い「やせ」志向が一因で起こる「食行動の異常」について、政策研究大学院大学保健管理センター教授の鈴木眞理先生、京都大学医学部附属病院探索医療センター教授の赤水尚史先生、国立成育医療センター内分泌・代謝科医長の堀川玲子先生の3人にお話していただきました。

「やせすぎ」の方には、月経異常(生理が不規則、さらに重症な場合は無月経)が起こりやすいのです。月経異常は多くの場合、排卵の障害が伴いますので、当然、不妊に結びつきます。さらに、「やせ」と「月経異常」は骨の量を低下させます。今、みなさんの骨の量が十分でないと、将来、あなたが、60、70歳になられたときに「骨粗鬆(しょう)症」となり、骨折を起こし、下手をすると「寝たきり」となる可能性を増加させます。

やせや肥満を表すのに、BMIという指標が使われます。これは、体重(キロ)を身長(メートル)の二乗で割った値です。やせの基準となる、18.5は、たとえば、身長が160センチの方でしたら、体重は約47キロにあたります。この身長、体重はいかがでしょう? 皆様、とくに、若い女性であれば「普通かな」と、思われる方も多いのではないでしょうか? 「さらにやせたい」と思う方もおられるかも知れません。これは、やはり、行き過ぎた「やせ志向」です。卵巣の機能や次に述べる妊娠・分娩に最も好ましいとされるBMIは22くらいです。これは、身長160センチの方でしたら、体重は約55キロにあたります。

「やせ」の問題は、あなたの健康の問題だけではすみません。あなたの子供の健康にも大きな問題を起こすのです。やせた女性からは、「低出生体重時」、すなわち、体重の少ない子供が生まれることが多いことが分かっています。体重が少ないということがその子の将来にどのような影響を及ぼすのかということは、最近まで、あまり知られてきませんでした。以前は、「小さめに生んで、大きく育てよう」が正しいと考えられていました。やせた女性には2,500グラム以下の低出生体重児ができやすいのですが、やせた方のほうが、安産ですので、私たちも、助産師さんたちも、妊婦の方に「妊娠中に体重が増えすぎないように」という指導を、熱心にいたしました。しかし、今は、「小さく生んで、大きく育てよう」は、断固間違いであると考えられています!

低出生体重児にはどんな問題があるのでしょうか? それは、その子が、成人した後に「生活習慣病が増える」という大問題があるのです! おそらく、母体内で栄養環境が悪い場合には、胎児はそれに適応して何とかエネルギーを体内に蓄積するようにプログラムされることが原因であると考えられています。これをBarker説といいます。低出生体重児には、将来、肥満、高血圧、糖尿病などが増加することが分かっているのです。

若い女性には強い「やせ」志向があり、これが一因で「食行動の異常」が起こることがあります。最近、摂食障害のある方が増えていることが指摘されています。これに対し、「摂食」をコントロールする生物学的機序も明らかとされ、本講座の主催者の1人である寒川先生が発見された、「グレリン」という胃で作られ、食欲を増加させる薬も、摂食障害の治療薬として開発されつつあります。

公開シンポジウムは、行きすぎた「若い女性の「やせすぎ」」に警鐘を鳴らすべきだと考え、日本学術会議内分泌・代謝分科会委員長の松澤佑次・住友病院院長と、寒川賢治・国立循環器病センター研究所所長の指導の下に、厚労省班会議委員長の小川佳宏・東京医科歯科大学教授と一緒に開催しました。

「やせすぎ」が若い女性の健康に重大な影響があるだけでなく、次世代を担う子供たちにも大きな問題が起こりうることを一般の方々に理解していただくのにお役にたてば幸いです。

 

山形大学医学部 教授・附属病院 副院長 倉智博久 氏
倉智博久 氏
(くらち ひろひさ)

倉智博久(くらち ひろひさ)氏のプロフィール
1976年大阪大学医学部卒、81年大阪大学医学部助手、84年米国立衛生研究所(NIH)研究員、88年大阪府立病院産婦人科勤務、96年大阪大学医学部講師、99年同助教授、2000年山形大学医学部教授、03年から現職。医学博士。専門領域は生殖生理・生殖内分泌学、女性内科学(中高年婦人科)、婦人科腫瘍のMRI診断。日本生殖内分泌分学会常務理事・評議員、日本受精着床学会理事、日本女性心身医学会理事、日本更年期医学会理事・評議員なども。編著書に「ここが聞きたい 産婦人科手術・処置とトラブル対処法」(医学書院)、「婦人科検査マニュアル データの読み方から評価まで」(医学書院)など。

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