インタビュー

第1回「揺れ増大させる堆積層」(福和伸夫 氏 / 名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)

2011.06.17

福和伸夫 氏 / 名古屋大学大学院 環境学研究科 教授

「長周期地震動で揺れ心配な超高層ビル」

福和伸夫 氏

東日本大震災は、地震、津波に直撃された三陸地方や福島、茨城県にとどまらず、首都圏も大きな揺れに見舞われた。中でも超高層ビルの揺れを体験し、恐怖心を抱いた人も多かったと思われる。長い周期の地震波に高層ビルなどが共振し、大きな揺れに増幅する「長周期地震動」に対する備えは十分だろうか。福和伸夫・名古屋大学大学院 環境学研究科 教授に長周期地震動の恐ろしさと、必要な対策について聞いた。

―地震動の中でも、なぜ今、長周期地震動に対する警戒が必要とされているのでしょう。

地震の揺れにはいろいろ周期があります。ガタガタ揺れるもの、ゆったり揺れるものなどいろいろな周期の成分が混じっているのが地震の揺れです。その中で比較的長い周期で、長い間揺れ続けるのが長周期地震動です。この長周期地震動がたくさん出るのがマグニチュード8とか9の巨大地震です。大きな断層がずれて、ずれ初めからずれ終わるまで長い時間かかりますから、周期の長い波を長時間たっぷり出すのです。

このような揺れは、大都市圏のある大きな堆積平野でさらに大きくなるという特徴があります。揺れやすい地震波の周期というのがそれぞれの平野にあり、関東平野ですと8-9秒、濃尾平野では3-4秒、大阪平野では4-5秒です。この揺れを苦手とするのが超高層ビルです。

―平野ごとに揺れやすい周期が違うのはなぜですか。

軟らかい地盤がどれくらいの厚さで堆積しているかで決まります。地盤が薄ければ短い周期の揺れ、厚ければ長周期の揺れが大きくなります。皿の上にプリンを載せて揺らしてみることを想像してみてください。ブルブル揺れますがプリンの厚さが厚いと揺れの周期は長くなり、薄いと短くなります。また、ようかんですと変形しにくく周期がとても短くなります。堆積層の軟らかさと厚さで決まるのです。揺れが大きくなる周期が平野によって異なるため、それぞれの大都市における揺れやすい超高層ビルの高さも違ってきます。大体、超高層ビルの階数に0.1をかけた値が、大きな揺れをもたらす周期(秒)という計算が成り立ちます。8-9秒という関東平野の場合は、80-90階程度のビルが最も揺れやすくなり、3-4秒の濃尾平野では30-40階建てビル、4-5秒の大阪平野では40-50階建ての超高層ビルが一番揺れやすいと言えます。

周期の短い波は、すぐ減衰してしまいますが、長い波は遠くまで伝わるという性質があります。実際、2000年の鳥取県西部地震(マグニチュード7.3)で東京の超高層ビルが大きく揺れ、多くの人が地上まで下りたと報道されています。新潟県中越地震(2004年、マグニチュード6.8)でも、東京の超高層ビルがよく揺れてエレベーターのワイヤが切れたという被害も出ています。

―今回の地震では、これまで以上に超高層ビルが揺れたのでしょうか。

今回の地震は、ずれた断層が非常に大きく、断層の長さが400-500キロ、幅が約200キロといわれています。破壊が断層に沿って進む速さは1秒間に約2-3キロといわれていますから、揺れは200秒近くも続くことになります。さらに堆積平野というのは、堆積した地層がおわん状になっており、入ってきた地震の波はおわんの中で反射して外に逃げて行きません。また、直接やって来る波に加え、迂回(うかい)して回り込んでくる波もあり、揺れ始めてから止まるまでの時間が大変長いのです。10分以上揺れ続けることもよくあります。

今回の地震が起きた時、私は東京の青山にある23階建てのビルの15階で、建築設計の専門家たちに耐震化の話をしていました。大規模地震の際のビルの共振現象について「揺れが大きくなるまでに時間がかかり、大きくなった後で小さくなるまでにも長い時間がかかる」と話している時でした。携帯電話で送られてきた地震速報を見るとマグニチュードは7.9と表示されていました。7.9ならある程度で収まるだろうと思いましたが、実際には9.0でしたから揺れは長々と続き本当に怖かったですね。窓から見える外の高層ビルが大きく揺れるのを目の当たりにしました。受講者たちの顔も青ざめていました。

ただ幸いなことに、あまりに大きい地震だったため、最も揺れやすいビルの固有周期より、地震の震源から放出された地震波の周期がもっと長かったので、揺れの強さもある程度の大きさで収まりました。今回の地震で主として放出された周期は、数10秒という長さでしたから、これに共振現象を起こすビルとなると数百階建てということになります。東京の地盤の周期は8-9秒で一番揺れが大きいのは80-90階建てのビルです。40階付近は左右に2メートル程度は揺れ動いたようです」

(続く)

福和伸夫 氏
(ふくわ のぶお)

福和伸夫(ふくわ のぶお) 氏のプロフィール
愛知県立明和高校卒。1979年名古屋大学工学部建築学科卒、81年名古屋大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程前期課程修了。清水建設を経て91年名古屋大学工学部建築学科助教授。先端技術共同研究センター教授を経て2001年から現職。10年から名古屋大学減災連携研究センター教授を兼務。専門は建築耐震工学、地震工学、地域防災。5月に設立された中央防災会議・東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会の委員のほか、総合科学技術会議・学術会議・内閣府・国土交通省・気象庁・消防庁・原子力安全委員会の専門委員なども務める。

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