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コラム - インタビュー -

第1回「イノベーションは創造的破壊」

内閣特別顧問・イノベーション25戦略会議座長 黒川 清 氏

掲載日:2007年4月18日

「真善美への情熱-イノベーションの源」

世界中が政策のキーワードを、科学技術からイノベーションへとシフトしてきている。日本でも、安倍首相の肝いりで「イノベーション25」の検討が進んでいる。いま、なぜイノベーションなのか。イノベーション25戦略会議の座長を務める、黒川 清・内閣特別顧問に聞いた。

- イノベーションの定義は、人によってずいぶん違うようですが。

黒川 清 氏

黒川 清 氏

 

もともとイノベーションというのは、シューンペーターが20世紀の初めに提唱した考え方です。社会でも会社でも、ある程度成長すると必ず保守的になり、守りの精神、姿勢になり勝ちです。長い目で見るとこれでは成長を持続させることは難しくなります。そこで、「創造的破壊」イノベーションを繰り返し起こさないと成長を持続させることは難しい、という経済学のセオリーなんです。

イノベーションというと、多くの人が技術革新と思いがちですが、それはイノベーションのほんの一部でしかありません。また、トヨタの看板方式とかジャスト・イン・タイム、またキヤノンのセルなどは、研究開発からマーケットに出すまでの、従来の産業構造の中でのリニアモデルでの段階的なイノベーションです。多くは「改善」ともいえます。

イノベーションは、成長し、ある程度保守的になる状況で、それを中(「in-」)から壊す結果としてあたらしい価値、製品、サービスなどが出てくる。つまりそういう壊す人が出てこない社会、企業は駄目になるということです。

安定したというのは、大きな会社も社会もそうですが、壊す人すなわちイノベーターは必ずその時代のマイノリティです。何かやるということはニッチ。だけれども、それがマジョリティになっていくプロセスが、常に経済を成長させるわけです。同じことが続いていくわけではない。それがイノベーションです。

- 最近、いろいろなところでイノベーションという言葉を聞くようになりましたが。

90年代、特に冷戦後のグローバルな時代は「これからは科学技術の投資が大事だ」ということで、日本でも科学技術基本法ができました。さらに95年から科学技術基本計画がつくられてスタートしたわけですが、当時はみんな、科学技術は将来への投資で、それが経済を牽引していくと言っていた。その時にはイノベーションという言葉はあまり使われませんでした。

ところが最近になって、EUではリスボン戦略(2000年3月採択)で、アメリカでは競争力評議会が2004年11月に公表したパルミサーノ・レポートで、イノベーションという言葉が出て来る。それまで科学技術への投資といっていたのが、なぜ突然イノベーションなのか。要するに、科学技術の投資とイノベーションは何が違うのかを、考えなければなりません。

経済学者のリチャード・ネルソン(昨年本田賞受賞、コロンビア大学教授)が2006年に出版した「The Oxford Handbook of Innovation」に非常に面白いグラフが載っています。社会科学分野の学術論文で、タイトルにイノベーションという言葉を使っているのがどのくらいあるのか。1970年から95年まではほとんど増えていない。ところが95年を境に突然増えている。それはなぜかと考えることが大事なことです。

(続く)
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(科学新聞 中村 直樹)

黒川 清 氏
黒川 清 氏
(くろかわ きよし)

黒川 清(くろかわ きよし)氏のプロフィール
1962年東京大学医学部卒、69年東京大学医学部助手から米ペンシルベニア大学医学部助手、73年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部内科助教授、79年同教授、83年東京大学医学部助教授、89年同教授、96年東海大学医学部長、総合医学研究所長、97年東京大学名誉教授、2004年東京大学先端科学技術研究センター教授(客員)、東海大学総合科学技術研究所教授等を歴任。この間、2003年日本学術会議会長、総合科学技術会議議員に就任、日本学術会議の改革に取り組むとともに、日本の学術、科学技術振興に指導的な役割を果たす。06年9月10日、定年により日本学術会議会長を退任、10月、内閣特別顧問に。

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