インタビュー

第2回「患者とともにつくり上げた医療」(高倉公朋 氏,松岡瑠美子 氏 / 東京女子医大学長 | 東京女子医大教授)

2006.09.19

高倉公朋 氏,松岡瑠美子 氏 / 東京女子医大学長 | 東京女子医大教授

「たこつぼ型からトータル医療へ -患者のための医療『統合医科学』とは」」

松岡瑠美子 氏
松岡瑠美子 氏

医療に対する関心がますます高まっている。たこつぼ型からトータル、既製服からテーラーメードの医療へ。患者、社会の双方にとって理想的な医療を目指す拠点として国際統合医科学インスティテュート(IREIIMS)が発足した。
この大型プロジェクトを率いる東京女子医大の高倉公朋学長、松岡瑠美子教授に、新しい医療について尋ねた。

—松岡先生は、遺伝子に異常がある患者さんのカウンセリングを長い間続けてこられたということですが、それがどのようにして統合医科学に発展したのでしょう。

患者さんの悩みをどのようにしたら解決してあげられるだろうか。私の出発点はそこにあります。米国に5年間、留学し、22年前に帰ってきました。当時、米国では、遺伝子に傷があるのを見つけると、乳がんになりやすいので予防のため乳房を取ってしまう、といったことが行われていました。何の症状もない方に対してです。

こうしたことに疑問を感じ、真に患者さんのためを考えた遺伝子解析と病因の解明を、帰国してから始めたわけです。

遺伝子解析と併せて、患者さんのカウンセリングが大事だと気づき、8年ぐらい前から、カウンセリングの外来を開かせてもらいました。患者さんの方から、遺伝子解析をしてくださいといわれ、その結果は、カウンセリングという形で患者さんにお返しする、ということを続けてまいりました。そうしますと、自然に患者さんと一生の関係ができてくる、という感覚になります。

—遺伝相談といった部門はもともとなかったと思いますが、簡単につくれたのでしょうか?

主任教授が「ぼくの外来時間を半日お使いなさい。カウンセリングはした方がよい」といってくださったので始めることができました。現在、全国から600人ほど患者さんが集まるようになってきております。

ここには、同意を得て患者さんの血液から得られた4,000人分の細胞株が蓄積されています。単に数が多いだけではありません。それぞれの患者さんの病気の情報とリンクしている細胞株です。このような細胞株がこれほどそろっているのは世界でも珍しく、国の宝のようなものだと思っています。

1個の遺伝子の異常だけでなく、30個もの遺伝子に異常が見られる患者さんもいます。しかし、症状と遺伝子を調べてみると、重い症状の方もいれば、普通に過ごしている方もいることが分かってきました。遺伝子の異常だけでなく、周囲の環境が病気の発現を左右しているということを、患者さんから教えていただいたわけです。

このようなことを続けるうちに、遺伝子に異常がある患者さんでも、回復が見られることが分かってきました。こうした経験から、統合医科学という考え方が出てきたのです。ひょっとすると、日本人1億2,500万人すべての方々の病気の予防も、可能なのでは、と。

松岡瑠美子 氏
松岡瑠美子 氏

松岡瑠美子 氏のプロフィール
1972年横浜市立大学医学部進学課程卒業。79年ウィスコンシン大学心臓病理科研究員。81年ボストン小児病院(ハーバード大学医学部小児科)循環器科分子細胞生物学部門研究員。84年東京女子医科大学循環器小児科助手。2001年同大学先端生命研究所講師、同大学循環器小児科講師。2004年同大学遺伝子医療センター講師。05年同大学国際統合医科学インスティテュート特任教授。

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