インタビュー

第10回「講義4 目を見て会話すると脳が働く コミュニケーションと脳の活性化」(川島隆太 氏 / 東北大学 加齢医学研究所 教授)

2006.08.08

川島隆太 氏 / 東北大学 加齢医学研究所 教授

「道を拓く 脳のメカニズムに迫る」

川島隆太 氏
川島隆太 氏

脳の研究成果をもとにしたゲームの監修などでおなじみの川島隆太東北大学教授を迎え、脳のメカニズムに迫ります。

コミュニケーションを観点とした脳の働きとは?会話やコミュニケーションがもたらす脳の活性化についてお伺いしました。

—脳とコミュニケーションの関係は?

私たちの脳というのは、実は、コミュニケーションを巧みに行うことで前頭前野が発達してきたのではないかとという仮説があります。
我々人間のコミュニケーションというのは非常に多彩なコミュニケーションが可能で、たとえば言語を使った詳細な情報のコミュニケーション、これは我々人間だけにできる方法です。
その他に非言語のコミュニケーション、たとえば顔の表情とか声の調子、ゼスチャーによって自分自身の気持ちを相手に伝えるというコミュニケーション。こういうものがあります。
非言語コミュニケーションに関しては、ある程度、動物もやっていますが、人間はその中でも巧みにコミュニケーションができる動物です。そういうコミュニケーションという観点から脳の働きを調べていくと、さまざまな面白い事情がわかってまいります。

たとえば誰かと会話をしている時に脳が働くかどうか。
こういうことを調べたことがありますが、私たちの前頭前野は確かに誰かと会話をすることによって非常に活性化をする。
ただしこれは偶然の発見なんですが、視線をあてながら会話をした時と、視線を外した会話をした時を比べてみると、相手に視線を向けながら会話をしている時の方が、より前頭前野の活性度が両側で高まっているデータも出ています。
また電話を使って会話を行っている時の脳活動と比べた時には、左の前頭前野の働きは、ある程度、保たれているんですが、右の前頭前野の働きは少し下がりぎみになっていることもわかってまいりました。
これらの研究をたくさん通していく中で、実は私たちは前頭前野とコミュニケーションの関係について、今、ある仮説を持っています。

それは何かと言うと、多くの人にとって左の脳の前頭前野というのは言葉を介したコミュニケーションを司っているだろう。そして右の脳の前頭前野が非言語のコミュニケーションを司っているのではないか。だから電話で会話をした時には言語のコミュニケーションをしているから左の脳の前頭前野はたくさん働く。
ただし相手の顔や仕種が見えないですから、非言語コミュニケーションの脳の働きは下がったと考えることができる。
視線をしっかりあてている時には、相手の表情をつかむことができますから、非言語コミュニケーションの能力がさらに高まったと考えることができるのではないかと考えたわけです。

—会話によって脳を活性化させる方法は?

他者との会話の中で脳を活性化させるには、目を合わせて会話をすることが有効だと実験でわかりました。
相手の仕種からもたくさん情報が入ってくるからだろうと考えています。
またこれもほんとに偶然の発見なんですが、小さなお子さんに脳機能計測を試みたことがありますが、保護者の方と話している時には左右の前頭前野は大いに活性化するんですが、その子が知らない人と話をさせると左の前頭前野が少し働くだけだというデータも出てきています。
これも前頭前野のコミュニケーションに関する左右の機能差で説明がつきますが、おそらく自分がよく知った人からは相手の仕種等々からたくさんの情報をつかむことができる。
でも社会経験等の少ないお子さんですと、知らない人との間にはどうコミュニケーションをとっていいかわからない。だから言葉だけの表面的なコミュニケーションになってしまって、左の脳しか使ってないのかもしれないという仮説が見えてまいります。

いずれにしろ、言葉、会話を使った脳の活性化というのは、しっかりと実際に相手と会って、目と目を合わせて話をする。これがコツなんだろうということが最近脳研究から見えてきました。

—会話をすると脳のどこが使われるのですか?

実際に会話をしている時、話をする時、脳のどこが働くかという情報に関しては機能的MRIを使った研究で私たちはある程度のデータを持っております。
主に働くのは左の脳が中心的に働きます。
ただし実験の時に一方的にしゃべる時の脳活動を調べたために、言葉をつくりだす脳が働いたと考えているので、左に活動が寄ったのだろうと考えています。働く場所というのは、まず前頭葉の中では今、テーマにしている背外側前頭前野、それからその少し後方にあるブローカ領域という、言葉をつくりだす領域を含んでいる下前頭回と呼ばれている前頭連合野の一部が働きます。
その他に側頭連合野もたくさん働きます。
ここは主に聴覚の情報処理をしているところですが、自分でしゃべっても自分の声を聞きながら解析しているのではないかと考えています。また下側頭回と呼ばれている側頭葉の下面も働きます。
ここには最近の研究ではたくさんの語彙等の言葉の意味等が格納されている。同じように言葉の意味が格納されていると考えられている頭頂連合野も働くということで、実際に私たちがしゃべっている時には脳のたくさんの場所、少なくとも前頭葉、前頭連合野、それから側頭連合野、頭頂連合野という主な連合野はすべて使っていることが研究でわかっています。

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