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「免疫を利用してがん治療に立ち向かう」—がんとの共存目指して(本庶佑 氏 / がん免疫治療法の発見で2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した)

2019.05.24

本庶佑 氏 / がん免疫治療法の発見で2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した

ノーベル・プライズ・ダイアログ東京2019「科学が拓く明るい長寿社会」から(3月17日)

がん治療のパラダイムシフトを起こす

本庶佑 氏
本庶佑 氏

 私たちは1992年に「PD-1」(T細胞と呼ばれる免疫細胞の表面にある分子)を特定しました。その後の研究で、PD-1は免疫システム(が過剰に働く際)のブレーキ(抑制)の機能を持ち、これが欠損している動物は(抑制が効かないので正常な細胞も攻撃してしまい、その結果)さまざまな疾病にかかるということが分かりました。(一方でがん細胞はこの抑制機能をうまく利用してがん細胞自身を攻撃しないようにしているので、)この発見を基にPD-1をがんの治療に使えないかと考え始めました。

 企業と(ヒト型の)医薬品を共同開発した結果、(免疫療法の)ニボルマブ(抗ヒトPD-1モノクローナル抗体医薬品)は、典型的な化学療法として使われているダカルバジン(抗がん剤)と比べてメラノーマ(悪性黒色腫)の患者に対して明確な(治療効果上の)違いを示しました。その後、アメリカ食品医薬品局(FDA)、日本の医薬品医療機器総合機構(PMDA)など、(ニボルマブは)世界中で12を超えるがんの免疫療法の医薬品として承認されております。

 これはまさにがん治療のパラダイムシフトを起こすと考えられています。それは健康な細胞に対する影響が理論上はないために副作用が少ないこと、さまざまな種類のがんに効くこと、その治療をやめても長期にわたって有効であることが理由です。(抗PD-1抗体による)治療が有効だった患者さんは治療をやめた後も再発しませんでした。その患者さんは5年以上の生存が記録されています。(この治療法は)なぜこれほど有効なのでしょうか?

将来はがんとの共存ができるようになるかもしれない

 がん細胞は常に変異しています。化学療法の場合、薬剤に対する抵抗力(薬剤耐性)を持つようになり、薬が効きにくくなります。しかし私たちは獲得免疫(感染した病原体を記憶することができ、次にその病原体に出会うと排除しようとする免疫)を持っています。ですから理論上は変異したがん細胞を(たとえ変異しても獲得免疫が病原体として記憶し認識することができるので)すべて特定できます。

 そこで、現在は1000以上の組み合わせで臨床試験が行われています。それは(PD-1やPD-1と同様に免疫細胞の表面の他の分子などをターゲットとした)免疫療法同士の組み合わせ、または化学療法、放射線治療などとも組み合わせています。このような臨床試験の結果がこれから数年で徐々に明らかになると思われます。

 現在はほとんどの場合、免疫療法はセカンドライン(二次治療)あるいはサードライン(三次治療)での治療となっているので、将来はより多くの患者が最初(ファーストライン)に免疫療法で治療を受けられるようになることを願っております。それによってがんを完全に消滅させることができないまでも、少なくともがんと共存できるようになるのではないでしょうか。つまり高齢化して、何らかのがんがあったとしてもそれは大きな問題にはならないでしょう。

本庶佑 氏(提供・ノーベル財団)

寿命が延びたのは獲得免疫のおかげ

 高齢化はDNA、タンパク質それから細胞のレベルでも起きてきますが、重要なのは体全体の加齢です。その中で免疫システムは最も重要な役割を果たしています。加齢によって免疫システムの機能が落ち、腫瘍に対する攻撃力が大きく損なわれるものの、これらはいずれも私たちの獲得免疫に依存しています。

 獲得免疫は脊椎動物の進化の過程で獲得したものです。獲得免疫の仕組みは脊椎動物が病原体から身を守るために進化しました。その結果、脊椎動物の寿命は飛躍的に伸びました。これは予想しなかったことですが、がん細胞も変異の蓄積で新しい異物となり、獲得免疫がターゲットとします。これは本当に幸運なことだと思っています。

(サイエンスライター 早野富美)

本庶佑 氏
本庶佑氏(ほんじょ たすく)

本庶佑(ほんじょ たすく)氏プロフィール
京都大学医学部卒業後、京都大学医学研究科博士課程修了。東京大学医学部助手、大阪大学医学部教授、京都大学医学部教授を経て、現在は京都大学高等研究院副院長・特別教授。免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見により、テキサス大学教授のジェームズ・P・アリソン氏と2018年ノーベル医学生理学賞を共同受賞。

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