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エレクトロニクス産業の再建に向けて

科学技術振興機構 理事長 中村道治 氏

掲載日:2012年1月1日

ディペンダブルVLSI システムワークショップ2011/12PDF(2011年12月3日、科学技術振興機構主催)招待講演から

科学技術振興機構 理事長 中村道治 氏

中村道治 氏

 

日本経済の状況は、国内総生産(GDP)で中国には抜かれたが3位にある。しかし国民1人当たりで見ると17位で、国全体としての生産性の低さは明らかだ。全就業者人口に占める製造業の比率は約17%で、海外の生産が増えるに伴い減少傾向にあると言われている。しかしながら、製造業の大きな産業インパクトを考えると日本経済のかなりの部分は、何らかの意味でものづくりによって支えられていると考えてよい。

こういう状況の中で、例えば薄型テレビあるいはデジタルテレビが、最近はなかなか収益が出ないような構造になってしまった。太陽電池も日本が石油ショックの後、サンシャインプロジェクトなど長年かかって技術開発し、一時は事業的にもリードしたかに見えたが、最近はやはり中国などの過剰投資によってなかなかうまくいかない。新製品がコモディティ(日用品)化するのにかかる時間が非常に短くなってしまっているということを考えて、新しい研究開発のあり方を考えないといけないということだ。

基礎研究の成果を産業競争力に結びつけ、大きな産業を生み出すにはどうしたらよいかが問われている。科学技術イノベーションの総司令塔機能をきちんと強化して国全体での取り組みを強めようという論議を今、行っており、次の通常国会にそのための新しい法案を出す方向となっている。縮み思考でなく国を発展させるという前向きな議論に期待したい。

私自身は経団連の産業技術委員会の部会で、どうしたら日本の産業競争力を高められるかずっと考えて来たが、10年ほど前にナノテクノロジー・材料が将来の世の中を変えるという議論が生まれた。関係府省、大学の先生方と相談して、日本に本格的なナノテクノロジーの研究開発拠点をつくろうという結論に達し、産業技術総合研究所、物質・材料研究機構を中心とした「つくばイノベーションアリーナ・ナノテクノロジー拠点(TIA-nano)」として2年半前に正式にスタートした。

そこで材料、デバイス、製造、計測装置、さらにそれらを支えるナノサイエンスのテーマに取り組んでいるが、ナノテクノロジーの場合には将来社会に大きなリスクを及ぼさないという評価が重要であるため、社会的受容というテーマも加えている。

欧州、米国を見ると先にこうした拠点ができており、最近では中国の蘇州で巨大なナノテクノロジーの研究開発拠点ができた。必ずしも規模といい実績といい日本がリードできていると思ってはいないが、幸い日本にはナノテクノロジーの幅広い蓄積がある。また材料が伝統的に強く、グローバルな競争にも打ち勝ってきたという自負がある。

TIA-nanoが目指すべきは、課題解決型でありシステム志向であること、さらに独創性にこだわり、新産業創出を目指してチームワークで頑張ることだと思っている。2年半たって5カ年計画のどのぐらい達成できたか見てみた。1,000人ぐらいの外部研究者が最終的に関係すると想定しているが、約半分の500人ぐらいが今ここを使って研究開発を行っている。300社程度の企業に関係していただきたいと思っているが、現在、約60社がここを活用している。プロジェクトは30事業のうち約18事業まで達成できている。5年間の中期計画が終わる2014年度にはこれらを達成し、新しい産業を生み出していきたい。

私はつくばが、日本の半導体並びにナノシステムにかかわる研究開発事業化のネットワークのハブになることを期待している。例えば北九州ではシリコンシーベルト福岡プロジェクトが、既に10年の歴史を持つ。これは東アジアシリコンシーベルトを念頭に、福岡、北九州がその中核になるということで今、産学官挙げて頑張っていただいているということだ。こういう活動を含めて、全国のさまざまな関連拠点が、つくばとネットワークを組んで、最終的に新材料から新しいシステムを生み出し、新しいサービスをつくり出す動きに早く持っていきたい、と思っているところだ。

次に強調したいのが、災害が起こった後しなやかに強靭(きょうじん)に復旧するレジリアントエコノミー、強靱な経済ということだ。これは私がもう一つ関係している産業競争力懇談会の委員会で特にこの半年、研究してきた。産業競争力懇談会の中間報告 PDF では、危機対応能力の強化や、サプライチェーン(供給者から消費者までの流れ)あるいはビジネスコンティニュイティ(事業継続)のためのマネジメントシステムの強化がうたわれている。レジリアンス(回復力)は企業の価値であり、引いては国の価値であることを認識する必要がある。

半導体あるいはエレクトロニクスに関わる者は、2つの意味で今、レジリアントエコノミーに関係すると思っている。1つはやはりグローバルサプライチェーンをきちんとつくるということが、産業の再生あるいは国際的な信頼を獲得するのに非常に重要ということだ。

2つ目は、レジリアンスを実現する上で、情報通信や社会インフラがどうあるべきか、そのためにエレクトロニクスはどうあるべきかを考え、実行することで、エレクトロニクス産業の新しい事業機会になるということだ。コモディティ化回避の一つの解だと思っている。

日本のエレクトロニクス産業を再生するには、さらに多くのことを考えないといけない。この20年来大きな問題になっている税負担率もその一つだ。日本は相変わらず40%の法人税になっているが、多くの国は実質的に20%ないしそれ以下である。震災復興で今そういうことを言っておられる状況ではないが、いずれ企業の法人税負担の低減について国を挙げて議論する必要があると思う。

私自身、ナノテクノロジー・材料をベースにエレクトロニクス産業の再生を組み立てられないか、皆さんと議論してきたが、到達した結論はやはりシステム、サービスに結びつかなければいけないということだ。このために、全国のイノベーションクラスターを結びつけ、ネットワーク型の研究開発を強化していくのが要と思っている。

科学技術振興機構 理事長 中村道治 氏
中村道治 氏
(なかむら みちはる)

中村道治(なかむら みちはる)氏プロフィール
大阪府生まれ、大阪府立茨木高校卒。1965年東京大学理学部物理学科卒、67年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、日立製作所入社、中央研究所長、執行役専務研究開発本部長、執行役副社長、フェローなどを経て2011年10月から現職。理学博士。研究者としての専門分野は、光エレクトロニクス。分布帰還形半導体レーザなどの先駆的研究と光通信用半導体レーザの実用化に従事。経団連の産業技術委員会ナノテクノロジー専門部会部会長を務め、産学官でつくる産業競争力懇談会の実行委員長も。

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