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福島の経験世界と共有する責任(船橋洋一 氏 / 日本再建イニシアティブ 理事長、前朝日新聞 主筆)

2011.11.28

船橋洋一 氏 / 日本再建イニシアティブ 理事長、前朝日新聞 主筆

日本記者クラブ主催 記者会見(2011年11月29日)から

日本再建イニシアティブ 理事長、前朝日新聞 主筆 船橋洋一 氏
船橋洋一 氏

 4月にこの日本記者クラブで北澤宏一先生に講演していただいた。3.11の福島原発事故も、今までの日本の大きな事件と同様、また真実が分からないまま終わってしまうのではないか、と不安な気持ちを覚えた。当時、政府も事故調査をやるという話が出ていたが、政府の調査だけでよいのか、民間でやる必要はないのか、と考え、北澤先生に相談したのが、福島原発事故独立検証委員会をつくったきっかけだ。

 弁護士、原子力を研究している研究者、ジャーナリスト仲間とも相談した結果、財団をつくるしかないだろうということになった。一般財団法人日本再建イニシアティブは9月にできたばかりだが、既にその前から30人近いワーキンググループをつくり、調査、研究を始めている。北澤先生が9月30日に科学技術振興機構理事長を退任されたので、晴れて委員長に就任していただいた。

 民間ができることできないこと、強いところ弱いところ両方あると思うが、最も大きな強みは7人の委員の方々だと思っている。既に2回、委員会を開き、密度の濃い議論をしていただいている。私どもワーキンググループも議論で指摘されたことを宿題と受け止め、調査、インタビューに生かすという形で進めている。

 東日本大震災1周年の来年3月11日までに報告書を公表したいと考えている。同時に英語で来夏までに世界向けて発信したい。「真実 独立 世界」を標語にしており、海外の専門家にお願いして助言チームもつくっていただいている。福島の経験は世界と共有しなければならない。それが日本国民の責任と考えている。

 「原子力ムラ」という言葉がある。原子力安全・保安院、原子力安全委員会、文部科学省といった原子力関係の機関に原子力工学をやった人がいるのだろう。しかし、これらの人々を全部、原子力ムラという共通項でくくれるのだろうか。原子力ムラということでは何一つ説明できない。だれがだれとだれに、ということをきちっと抑えることが必要だ、と委員の先生方からも指摘された。その通りだと思う。一つ一つ検証したい。

 一つ言えることは、住民と自治体をどこに入れるかが、すっぽり抜けているのではないかということだ。住民参加型の独立検証チームということで情報を提供していただくためのチャンネルをウェブに設けた。既にいくつか情報をいただいている。住民の皆さんがどうしてこういう目に遭っているのか。どうしてまだ避難所などにいなければならないのか。どこでどういう間違いがあってこういう境遇になったのか。こうした疑問に答えるような検証にならないと意味がない。一つ一つだれが判断した結果なのかに迫りたい。単に制度、組織ではなく(だれかの)判断、政策の決断の結果なのだから。

 ワーキンググループの人間が、米エネルギー省のチュー長官、ポーネマン副長官にインタビューしてきた。インタビュー内容を読んで感じるのは、セキュリティという観点でももう少し原子力の安全を見ないといけないということだ。核保有国と非核保有国という出自の違い、進化の違いもあるかもしれないが、われわれはセキュリティの観点からは見ていなかった。このギャップに大きな課題があるのかなと感じる。どこまで検証の過程で解明できるか、取り組めるか分からないが、今までのインタビューの中から、その辺の視点でもやらなければいけないかと思う。

 これまでも日本は日中戦争、太平洋戦争についての検証をしていないが、福島第一原発事故に対しても同じようなショックを受けた。国会も事故調査委員会を設けたというのは素晴らしいことだ。福島原発事故についてはまだ何も分かってなく、これから力を合わせてやらなければならない。われわれの調査も解明できないことが相当出てくる可能性がある。それについては、「ここまでやったのだが、この点は分からなかったので、ぜひやってほしい」と国会の事故調査委員会にバトンタッチしたいとも考えている。

日本再建イニシアティブ 理事長、前朝日新聞 主筆 船橋洋一 氏
船橋洋一 氏
(ふなばし よういち)

船橋洋一(ふなばし よういち)氏のプロフィール
灘高校卒。1968年東京大学教養学部卒、朝日新聞入社。北京支局、ワシントン支局、経済部編集委員、ワシントン総局長などを経て2007-10年朝日新聞主筆。2011年9月から現職。海外にも取材活動を通じての広い人脈を持ち、著書も多数。「内部」でサントリー学芸賞、「通貨烈々」で吉野作造賞、「同盟漂流」で新潮学芸賞受賞。1986年に国際報道に貢献した記者に贈られるボーン・上田記念国際賞受賞。

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