サイエンスポータル SciencePortal

コラム - ハイライト -

科学者の社会契約-持続可能な地球にする責任

米海洋大気局(NOAA) 局長、米商務省次官 ジェーン・ルブチェンコ 氏

掲載日:2011年11月9日

学術フォーラム「21世紀における科学と社会の新しい関係」 (2011年11月7日、日本学術会議主催)基調講演、質疑応答から

米海洋大気局(NOAA) 局長、米商務省次官 ジェーン・ルブチェンコ 氏

ジェーン・ルブチェンコ 氏

 

私は、海洋生態学者として世界中の海岸を訪れた。同じ場所に何年か後に行って生態系の変化に気付いた。サンゴの白化をはじめ、変化は北極、南極の海の生態系にも及んでいる。こうした変化に懸念を抱くのと同時に、同僚も目の当たりにしている変化が政策担当者や公衆に理解されていないことが心配になった。科学者は、政策担当者、公衆とこうした知識を共有することが必要ではないか、と関心の対象が変わり始めた。

研究者を志した時、基礎か応用か、どちらかを選べ、と言われたことがある。その時は、応用はフロンティアではないと思った。しかし、人々が意思決定する際に必要な知識を科学者が提供する。それも警鐘を鳴らすだけでなく解決策も示すことの大切さに気付いた。科学者が知識をどんどん深めることが社会のプラスになるためには、知識をきちんと伝える責任が科学者にはあると考え、「科学者の社会契約」(注)という新しい概念に至った。

科学者が提供する知識とは、政治家が経済など他の要素も考慮して、よりよい決定を下せるのに役立つ情報だ。科学者が社会に指示を出してはいけない。世界がどのように機能しているか、地球の気候がどのように変わってきたか、未来を見越してある政策を選択すればどういう結果が予測されるか、といった情報を提供することが大事だ。政治家、公衆が理解できる形、信頼できる形、利用できる形で提供しなければならないから、科学者にはコミュニケーション能力も必要となる。

科学者は公衆の前で話すのを怖がる傾向がある。特定集団の権利擁護者とみられるのを恐れるためだ。私は、積極的に科学者に対するコミュニケーションの訓練にも関わってきた。その際「バイリンガル(2言語使用者)になれ」と言っている。科学用語だけでなく、普通の人にも分かる言葉で話せる人間になれ、ということだ。比喩もうまく使えるような巧みなストーリーテラー(語り手)になれるよう訓練した。科学用語も普通の言葉に変えて…。

また、コミュニケーションは双方向でなければならない。自分の知っていることを話すだけでなく、聞く耳を持たなければならず、質問にも丁寧に答える必要がある。政治家や産業界のリーダーたちが何を重要と思っているかも、きちんと聞かなければならない。科学者が重要だと思っていることと必ずしも同じとは限らない。その上で科学が役立つところは何かを考え、適切な助言をしていくことが大事だ。

私が海洋大気局(NOAA)局長に就任する際、「科学者の社会契約」の概念を政府機関で活用するよい機会だと思った。前政権では、報告書に科学論文を載せたにもかかわらず、事実が公表されなかったことがあった。オバマ大統領は、科学を正しい位置に戻したい。科学のインテグリティ(誠実さ)を回復したい、と語った。官庁に挑戦することを求めた言葉と理解している。NOAAでは、職員が科学を尊重し、自分の見解を自由にメディアに語ることができる。

気候変動、生物多様性の保全、窒素蓄積量の増大、海洋資源の枯渇など、社会が緊急に科学を必要としている問題は多い。公衆、企業も持続可能な社会を望んでいる。科学者も持続可能な社会を実現するために、さらなる努力、情報提供を求められている。

(注)ルブチェンコ 氏が1997年に米科学振興協会(AAAS)会長としてあいさつした中で明らかにした概念。科学者には新しい科学的発見を成し、それを社会と為政者に伝え、持続可能な人間社会を実現する責任がある、とした。

米海洋大気局(NOAA) 局長、米商務省次官 ジェーン・ルブチェンコ 氏
ジェーン・ルブチェンコ 氏
(Jane Lubchenco)

ジェーン・ルブチェンコ(Jane Lubchenco) 氏プロフィール
コロラド州デンバー生まれ。コロラド大学で生物学を学び、ハーバード大学で生態学博士号取得。ハーバード大学助教授、オレゴン州立大学准教授などを経て、1988年オレゴン州立大学教授。1989-92年オレゴン州立大学動物学部長も。95-09年オレゴン州立大学Wayne and Gladys Valley 教授(海洋生物学)。97年米科学振興協会(AAAS)会長に就任、会長あいさつの中で「科学者の社会契約」という概念を表明した。2002-05年国際科学会議会長も。2009年から現職。米科学アカデミー会員。多くの学術賞に加え、科学者と社会との橋渡しに多大な努力を払った業績に対し、科学技術の公衆理解の促進賞(AAAS)や公衆の科学理解賞(Exploratorium)受賞。2011年のブループラネット賞 (旭硝子財団)も受賞している。

ページトップへ