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クラウドで科学技術のパラダイムシフトを

マイクロソフト社 副社長 ダニエル・リード 氏

掲載日:2010年10月11日

講演会「マイクロソフト社の“アカデミッククラウド戦略”」(2010年10月1日、科学技術振興機構研究開発戦略センター 主催)から

マイクロソフト社 副社長 ダニエル・リード 氏

ダニエル・リード 氏

 

クラウドで科学技術のパラダイムシフトを

第4のパラダイム

計算機科学者に対する“問い”は、いつの時代も変わらない。「人々の生産性をいかに引き上げられるか?」だ。“答え”は時代によって変わる。

科学のパラダイムは、実験、理論、シミュレーションの時代を経て“第4のパラダイム”を迎えようとしている。これは、計測機器や情報技術の発展によって可能になった大量のデータによって駆動される新しい科学(データ中心科学)だ。近年のゲノム生物学、気象学、天文学、素粒子物理学など、多くのデータの中から新しい発見を生み出そうとする科学は、計算機能力の発展によって支えられてきている。

しかし、現在、高性能計算機のユーザはごく一部に限られている。もっと多くの科学者に計算機資源へ簡単にアクセスできる機会を提供し、空間やエネルギーと同じように計算機資源を研究の基盤にしていきたい。

 

複雑化するアプリケーション

パソコンや記憶装置のコストはどんどん下がっているが、アプリケーション開発のための人件費は高騰している。現在、複雑な学際領域で用いられるアプリケーションは通常数百万行のコードからなると言われている。このようなプログラムを一つのグループでつくることは実質的に不可能だ。一方で、複雑なモデルを使って、大規模なデータの計算処理を行う研究の要請は年々増大している。多くの研究者はコミュニティのメンバーと協力的な研究を行うため、成果を共有する必要が出てくる。

 

一つのラボでは支えきれない計算機資源

科学を支える計算機の高性能化と大型化はますます進んでいる。現在マイクロソフト社が運営する高性能計算機の施設は、フットボールコート10面分以上の広大な土地と、メガワット級の電源施設を併設しなければならないほど大きな電力を消費する。またコントロールセンターでは、一施設あたり50人から100人のスタッフによる管理が必要になっている。このような施設を一つのラボで保有することは事実上不可能だ。この状況は、粒子加速器を用いた素粒子物理実験とよく似ている。

マイクロソフト社は、大型の計算機資源をネットワークを通じて自由自在に使いこなす技術(クラウドコンピューティング技術)の研究開発を進めるのと並行して、世界中のアカデミアにこの計算機資源や有効なツールの提供を開始した。このプロジェクトを通じて、高性能計算機資源を基盤としたデータ中心科学の発展に貢献しつつ、新しい科学技術のパラダイムシフトを起こしていきたい。

 

セキュリティの問題

一つの実験設備にすべてを委ねることに危険性を感じる人もいるだろうが、事故は大きな設備でも小さな設備でも起こりうる。自分で管理していた計算機にトラブルがあった時、その対処に研究者が忙殺されるリスクは大きい。飛行機と自動車と、移動手段としてどちらが安全か? 現実には、飛行機の方が安全なのだ。飛行機事故は大きなニュースになるが、日常的に起こる自動車事故はニュースにならないだろう。十分に管理された大型研究施設は、個人により不安定な管理がされた研究施設と比べて格段に安全である。もちろん、こうした計算機施設を安全に運転する方法論も、日々の研究開発によって進展している。

計算機資源の集中化は、電力供給や冷却の関係で一カ所にインフラを集めたほうが有利なために起こっている必然的な現象だが、情報システムの集中化と分散化は時代とともに、振り子のように変遷する。最初のメインフレームコンピュータは集中システムだったが、グリッドコンピューティングなどが流行して計算機環境は分散した。そして現在また集中化してきている。この傾向はまた数年たつと変化する可能性がある。

 

クラウドコンピューティングの次のフロンティアは?

私たちが計算機や情報を届けられているのは、世界の中でも裕福な部類に入る10億人程度にすぎない。エネルギーもインフラも持たないそれ以外の人々に情報を届けることが、次の研究開発のフロンティアになるかもしれない。

(科学技術振興機構 研究開発戦略センター 嶋田一義)

マイクロソフト社 副社長 ダニエル・リード 氏
ダニエル・リード 氏
(Daniel A. Reed)

ダニエル・リード(Daniel A. Reed)氏のプロフィール
1983年パデュー大学計算機科学科卒。米科学財団(NSF) Tera Gridプロジェクトのチーフアーキテクト、イリノイ大学アーバナシャンペン校計算機科学部長、ノースカロライナ大学教授(学長のシニアアドバイザー)などを経て現職Corporate Vice President(Technology Strategy and Policy), Microsoft Corporation。大統領科学技術諮問委員会(PCAST)メンバーなどの政府アドバイザリー委員を歴任。米国ネットワーキングおよび情報技術研究開発プログラム(NITRD)の戦略文書“Leadership Under Challenge: Information Technology R&D in Competitive World.”の共同著者でもある。現在、マイクロソフト社の副社長として、マイクロソフト社の技術開発戦略のビジョンづくりと戦略策定を主導。また、クラウドコンピューティング事業を推進する“extreme Computing Group”も率いる。

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