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無駄とゆとりを科学する -真の効率化とは

東京大学 先端科学技術研究センター 教授、NPO法人ムダどり学会 会長 西成活裕 氏

掲載日:2010年7月20日

講演会(2010年6月24日、科学技術振興機構 主催)講演から

東京大学 先端科学技術研究センター 教授、NPO法人ムダどり学会 会長 西成活裕 氏

西成活裕 氏

 

ムダどり学会というNPO法人を昨年、立ち上げた。中小企業の方を中心に主婦も含め300人くらい会員がいる。

どうして無駄か、無駄じゃないかという争いが起こるのか、3、4年ほど分析をしてきた。争いが起きるのは、無駄の定義をしていないからだ。それでは帰納法的に理論をつくろうと、無駄の例をたくさん分析している。500くらい例を集めたが、けんかしている当事者の間では2つのことがずれていることが分かった。目的と期間。この認識がずれている。ある人はある目的でこれを評価しており、別の人は別の目的で評価している。そうすると、ある目的では有用だが、ある目的では有用でないということが起こる。

もう一つの期間についていうと、世の中無駄なものは何もないと言う人がいる一方、世の中無駄だらけと言う人もいる。これは期間が違うことによると言ってよい。無駄なものなんて何もないという人は期間を無限に設定している。無駄なものだらけという人は、多分1週間とか1日というように期間の設定が短い。その期間の中で役立たないと無駄だとなる。どの期間で評価するかを決めない限り、無駄かどうかは決まらない。

今、東京大学の濱田純一総長がアクションプランというのをつくって、目的、期間を設定している。それに沿って今われわれも動いているが、このようにきちんとした設定がないとうまくいかない。

政府の事業仕分けも同様だ。まず期間を短期と中期と長期に分けてカテゴリごとに仕分けないと絶対に無駄は判定できない。例えば教育と、イベントやベンチャーの話を一緒にできないわけだ。教育の効果は20年先に出てくる。今、教えている学生が非常に頑張って将来例えば外交官で活躍して世界の戦争を解決したとする。これは20-30年後のことで、それが教育の成果だ。短期的な視点では絶対に計れない。だから期間を3つくらいのカテゴリに分けて、その中で仕分けをしていくのが正解だと思う。

研究開発に関しては、私の経験で言えば7年だ。大体同じテーマだと7年で陳腐化する。それより長くなると細かい研究に入ってしまう。あまり短い期間だと小さな成果ばかりの研究になってしまうが、7年以上となると人間の研究のライフサイクルを考えると持たないのでは、というのが私の感じだ。

では無駄をどうやって見つけるかだが、これがなかなか難しい。コンサルタントの友人と一緒に、あるいは自分自身でいろいろな会社で無駄をどうやって見つけるかということをやっている。まず鉄則は細かく分けること。分けたその区間、区間では無駄が見えやすくなるからだ。時間や空間で分けて1個1個無駄をとっていくと、全部の無駄がとれるのではないか、というのが最初の発想だ。

ただし、これをやるコンサルタントは実は二流。というのは、部分部分を最適化していっても全体の最適化になるかというと、世の中はそうはならないからだ。要するに部分最適と全体最適がずれる。ここがみそだ。一流のコンサルタントは全体最適を考えた上でやる。例えばマラソンで最後にゴールインすれば途中寝ていてもよく、全部一生懸命走る必要はない。部分最適は全部の区間を一生懸命走るようなものだが、マラソン選手に聞くとそんな練習などだれもやってない。自分の得意なところ、例えば上り坂だけ鍛えれば、あとは何とかなる。そういう練習をやっている。それが全体最適だ。

組織も同じで、人間を集めるだけでは駄目。1人1人集めて足し算しても部分最適にはなっても、全体最適にならない。

よく生産性向上ソフトとか、私のところにもたくさん売り込みに来るが、大体信用していない。部分最適はうまいが、全体最適は全然できていないからだ。なぜかというと全体最適というのは矛盾した要素がたくさんある。それをコンピュータで解けと言ってもなかなか難しい。人間は矛盾だらけで、矛盾を抱えて生きているから、人間しか矛盾は解けない。全体をバシッと最適化していける人は、どこかで落としどころをつける。そうでもないと組織の無駄どりはなかなか難しい。皆、違う要求をしてくるのだ。それを解くのはやはり人間、最後は人間のコミュニケーションしかないと思っている。

製造業での全体最適化ということでは、トヨタ生産方式が日本では非常に有名だ。ただマニュアル通りやってもまずうまくいかない。そういう失敗例をいっぱい見てきた。特にこれを事務でやろうとして昨年、私自身もうまくいかなかった。事務にそのままトヨタ生産方式は使えない。

濱田総長の特命を受けて東大の財務事情をよくしようと今やっている中で、実は一番問題は人だ。改善のモチベーションが低いとうまくいかない。ひとりひとりまず工夫しようとしないとダメで、計画性が必要だ。お互い助け合いも不可欠で、現状では個人経営になってしまっている。

ドラッカーは、他人の時間を無駄に費やしている部分がある、ということを言っている。間接部門や事務の方を何十人とヒアリングしたが、今の仕事で他人に回せる仕事はないか聞くと「いや、専門性が高いから回せない」という答えが返ってくる。実はそんなことはないのだ。歯医者の仕事だって、分析してみたら手術のような専門性の高い作業でも、医師しかできない仕事には全体の時間のわずか8%しか割いていない。手術の92%は医師以外でもできる仕事ということだ。だから、意外に思い込みがある。本当にできないところはやらなければいけないけれど、それ以外のところは他に割り振らないとやはり負荷がどうしても偏ってしまう。

もう一つ大事なことは、利他主義だ。他人のためにと思うと結局それが回り回って跳ね返ってきて、みんなよくなる。碁をやる人なら分かりやすい利他行動の例がある。終局後に白と黒の石を片付ける時、早く済ませる方法は何か。普通は自分が白だったら白を集め、相手は黒を集めるだろう。そうではなく2人でまず白だけを集め、残った黒をザーッと碁笥(ごけ)に納める。これが一番早い。つまり2人で協力をして1つのことをやった方が早くできる。これはまさに自分だけのことを考えていたら駄目という例だ。

短期的視野、長期的視野、部分最適と全体最適、利己と利他。キーワードはこの3つだ。このバランスが根本として大事で、それから無駄ということを考えていくべきではないかと思っている。

東京大学 先端科学技術研究センター 教授、NPO法人ムダどり学会 会長 西成活裕 氏
西成活裕 氏
(にしなり かつひろ)

西成活裕(にしなり かつひろ)氏のプロフィール
茨城県立土浦第一高校卒。1990年東京大学工学部航空学科卒、95年東京大学大学院博士課程修了、工学博士。97年山形大学工学部機械システム工学科助教授。龍谷大学理工学部数理情報学科助教授、ケルン大学理論物理学研究所客員教授などを経て、2005年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻教授。09年から東京大学先端科学技術研究センター教授。専門分野は理論物理学、渋滞学、無駄学。著書に「シゴトの渋滞、解消します! 結果がついてくる絶対法則」(朝日新聞出版)、「無駄学」(新潮社)、「車の渋滞、アリの行列」(技術評論社)、「渋滞学」(新潮社)など。歌手として小椋佳が作詩作曲したシングルCD「ムダとりの歌」も出している。

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