コラム - ハイライト -

脳を育てるとは

ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー 茂木健一郎 氏

掲載日:2010年1月27日

財団法人マツダ財団講演会(2009年11月16日)から

ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー 茂木健一郎 氏

茂木健一郎 氏

 

脳というものは簡単に育ってくれるものではありませんが、どのようなことをしたら脳が成長するかということについてお話しします。

 

脳を育む方法

“脳を育む”というのは、“脳が学ぶ”ということです。僕は講演をするときは一秒目から場を楽しくさせることや、意味のある内容を話すことを考えています。このように“考えて(自分なりに)工夫する”ということが“学び”です。

みなさんは、社会的に権威のある医者や弁護士と街のギョーザ屋さんの仕事を比較した時、“学び”の質の違いがあると思いますか? 今の僕は優劣の差はないと思っています。それは、ギョーザ作りの仕事にも売れ行き状況や具の材料など“(自分なりに)考えて工夫する”ことが無限にあるのではないかと思うようになったからです。どんな仕事に就いていても、学んで成長できるし、逆にさぼることもできます。学ぶことが人生の一番の喜びであるならば、人生の充実は職業によって決まるのではなく、その人の姿勢が重要だと思っています。

 

脳の健康

「不確実なことが発生するのは楽しいと思いますか? それとも、不確実なことは(不安になるため)できれば避けたいと思いますか?」。脳が健康かどうかは、この質問に対する回答で分かります。

健康な脳というのは、“不確実なことが楽しい”と思える脳の部分が働いている状態と言えます。不確実なことが発生した時、私たちはそれに対応するために試行錯誤を繰り返します。その時、快感を得られるドーパミン(神経伝達物質)が分泌されるため、私たちはその行動を繰り返し行うようになります(強化学習)。このような理由から、ある程度不確実な状態のある方が、脳が学ぶ環境としては良く、不確実を楽しめる脳の方が学びや成長を受け入れられる健全な脳と言えるのです。

とはいえ不確実しかない状態はよくない状況です。確実なものの中に適度に不確実なものがある環境が良い状況ですので、そのような状況を意識的につくることが重要です。それは、例えば、自分が身を置いている企業や場所という確実なものから精神的に自立するとか、成功するか分からないものに挑戦するといったことでつくることができます。

 

見守る、見守られていることの重要性

生まれたばかりの赤ちゃんの脳は、周りのものすべてが不確実であるため、日々冒険しているような状態です。先ほど、不確実のみしかない状態はよくないと言いましたが、赤ちゃんは不確実しかない環境で目いっぱいはしゃいでいられます。これはなぜでしょうか。

赤ちゃんは生活する中で、“自分が触る”行為と“他人から触られる”行為が同時に起こるのが“自分の体”であることを学びます。赤ちゃんは親を“(常に近くにいる)確実なもの”と認識し、親という確実性を持つことによって、不確実な世界でのびのびとはしゃぐことができるのです。

赤ちゃんにとっての親の存在を、英国のジョン・ボルビーが唱えた“安全基地”にあてはめることができます。親から見守られているという安心感が赤ちゃんにとっての“安全基地”となり、赤ちゃんは安心して動けるのです。もしも親が見守っていなければ不確実しかなく不安で仕方がなくなり、動けなくなるでしょう。

安全基地になるためには、とにかく見ていること、見守っていることです。子供を育てるという観点から言えば、褒めるという行為も必要でしょう。褒められることによりドーパミンが分泌されるため、子供は褒められた行動を繰り返し行い、学習が強化されます。褒め方の基本は、“褒める時は褒めるべきところをその場で褒める”ということですから、これをやるためにもいつも見ていなくちゃできません。

子供を持つ親は、子供の脳を育てるために、いつも子供を見守って安全基地となり、子供が無秩序を楽しめるようにしていることが重要です。

 

(SciencePortal特派員 澤村 恵)

ソニーコンピュータサイエンス研究所 シニアリサーチャー 茂木健一郎 氏
茂木健一郎 氏
(もぎ けんいちろう)

茂木健一郎 氏(もぎ けんいちろう)氏のプロフィール
1981年東京学芸大学付属高校卒、85年東京大学理学部卒、87年東京大学法学部卒、92年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程博士課程修了、理化学研究所国際フロンティア研究システム研究員、95年ケンブリッジ大学生理学研究所研究員、97年ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー、98年から現職。2006年からNHKテレビ番組「プロフェッショナル仕事の流儀」キャスターを務める。「今、ここからすべての場所へ」(筑摩書房)、「脳と仮想」(新潮社)「あなたにもわかる相対性理論」(PHP研究所)、「脳とクオリア―なぜ脳に心が生まれるのか」(日経サイエンス社)など著書多数。

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