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世界潮流と日本の進路-21世紀に期待される科学技術外交-
第2回『技術による創生へのシナリオを』

日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏

掲載日:2009年4月10日

シンポジウム「新時代の科学技術外交」(2009年3月23日、科学技術振興機構 主催)来賓あいさつから

日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏

寺島実郎 氏

 

今、金融不安の中で学んでいることは、「実体性」と「自律性」ではないか。実体性というのは、マネーゲームの話はほどほどにして、そろそろ産業と技術の話を真剣にしようじゃないかという問題意識だ。自律性というのは、外部に依存して自分の国の運命を右往左往させられるということから脱却して、自らの運命を切り開く視点を持とうじゃないかという意味だ。

日本プロジェクト産業協議会の日本創生委員長として、シナリオのまとめ役をやっている。この協議会が今まで果たしてきた役割を客観的に言えば、どちらかというと大型公共投資の推進団体というか、東京湾架橋だとか本四架橋につながるような大型の公共投資をプロモートしていくような役割だった。ところが、今や大型公共投資の時代でもない。産業界として日本の産業の進路のシナリオを自らしっかり書いてみようじゃないかということから日本創生委員会がスタートした。ことし間違いなく腹をくくっておかなければいけないのは、日本の政治は一段と混迷を深めるだろうということだ。政治のガバナンスがないからこの国はだめだ、という議論にいつまでもつき合ってなく、経済人、産業人であるならば、産業と技術に視点を置いて、日本は一体どうしていくべきかというシナリオをはっきりと書き上げていく必要があるという問題意識で展開している。間もなく中間報告が出るが、既に進み始めていること、あるいはこれから進めるべきだと思うことを話したい。

私は今、宇宙開発と海洋資源開発の相関の重要性というものを非常に意識している。内閣府に宇宙開発戦略本部というのが、宇宙開発基本法に基づいてスタートしている。同時に、海洋基本法が成立して、総合海洋政策本部が内閣府にでき、動き始めている。重要なのは、この2つの法律は超党派の議員立法によって成立したもので、民主党も自民党も参加して、合意を形成してでき上がっていった法律ということだ。これから日本の政治が揺らごうが、日本として大きくこの流れをたどっていかなければいけないということについては合意が形成されているという一味違った意味がある。

宇宙開発戦略本部は3月初めに第5回目の会合を開いた。宇宙開発に関して悩ましいテーマについて一歩踏み込んだ合意形成を宇宙開発戦略専門調査会として仕掛けている。最終的には5月の宇宙基本計画というものにそれが収れんすると考えていただければいいが、1つの大変悩ましい論点が、有人宇宙飛行を日本はどうするかだった。これは今後の技術外交にも絡む。私は宇宙開発戦略専門調査会の座長としていろいろ議論したが、有人宇宙飛行に関して日本はこういう方向に進むべきだという大きな流れが見えてきたと思っている。日本は10年以内に二足歩行のロボットで月探査をやるという方向を目指そうじゃないか、という議論が最終的な局面に入ってきている。

人命を尊ぶ日本という文化の中において、命がけで人を月に送るだけの価値があるのかという議論が、当然のことながら存在する。ロボットの技術というのは日本の産業の将来あるいは世界の将来にとっても非常に意味がある。特に、少子高齢化社会に向かう日本において、例えば福祉ロボットとか介護ロボットにつながってくるようなロボット技術というのは大変重要だ。10年以内に日本は、インドや中国が人命をかけて突っ込んでいく月探査に、ロボットで鮮やかにクリアしてみせる。こうした目的意識をはっきりさせて、そこに日本の持っている産業技術、ロボット関連のさまざまな試みをしている人たちの技術の集約点を持っていくことは、研究開発の方向としても非常に興味のある展開ができるのではないか。

目的に対して非常に生まじめなものを持っているのが日本人の特色だ。宇宙開発に関連しても、有人飛行に関しても、日本らしいやり方をもって世界に向けて発信していく。ロボット技術こそ日本が最も世界の前に出ていて、これが日本の技術力を世界に対して強烈にアピールしていくときのシンボリックマネジメントになり得る。そのようなシナリオがあっていいのではないかという問題意識だ。政治的に最終合意が形成されて、やるんだというところまで行くのは大変だが、3,000億円ぐらいの枠の中でやっていた日本の宇宙開発予算を次年度に10.2%増やすという流れが形成できた。これだけでも大変なことだ。

もう1つ一歩ずつ前進しているということで申し上げたい海洋資源の探査に関係した技術として、準天頂衛星がある。これは日立が中心になって開発しているGPS(衛星利用測位システム)関連の位置測定衛星だ。ほとんどの人がカーナビで位置測定しながら車を運転している。あれはGPSの技術に依存しているわけで、地球を取り巻いている24個の米国の軍事衛星につないで自分の位置を測定させてもらっている。米国はただで使わせてくれているわけだ。一時、私がワシントンを去る前後だったが、金を取ろうとしたこともある。しかし、しばらく様子を見ようということで今日に至っている。欧州は、米国の軍事衛星に位置測定情報を過剰に依存するのは危ない、とガリレオという自前のGPS衛星を打ち上げる流れを今どんどんつくっていっている。隣の中国は、ガリレオに入ると言っていた時代もあったが、自前の位置測定衛星を打ち上げるということをことしに入って決めた。そういう状況になっている。

日米同盟を大事にして、米国の衛星に頼り続けるやり方もあるが、幾つか問題がある。位置測定情報が必ずしも正確ではないという部分があるからだ。仰角が浅く、斜めから入ってくる情報になるので、正確ではない。これから話す海洋資源の探査には位置測定がリンクしていかなければならず、準天頂という真上に上げる衛星でもって位置測定情報を補完することが非常に重要になる。来年に向けて最初の予算がついた。3発ぐらい打ち上げようかという議論が進んでいる。位置測定衛星の技術を高度化していくことが、もう1つ日本の抱えている資源探査という課題を突き破っていく上で、大変大きな意味を持っていることが理解できると思う。

「『国土の狭い資源小国』という固定観念からの脱却」のためには、技術をもって日本は日本の弱点に立ち向かわなければいけないということを申し上げたいからこういう話をしている。エネルギーと食糧、資源を外部に依存し続けているというのが、日本経済のバルネラビリティー(虚弱性)の大きな要素の1つだということは皆さんもお分かりになると思う。

米国は、マネーゲームに狂奔して、サブプライム問題に象徴されるようにウォールストリートが腐り切っているような国という印象を与えるが、実は、エネルギーと食糧と資源に対して盤石の戦略的な展開力を持った上でマネーゲームに突っ込んでいるイメージが私の中にはある。ワシントンで一番大きな官庁の建物は農務省だ。世界最大の食糧輸出国米国と、世界最大の食糧輸入国日本という姿が好対照といえる。エネルギーについても、中東に対するエネルギー依存が2割を割っている米国と、9割という日本のコントラストがまた見えて来る。外部にエネルギーと食糧と資源を依存しているという弱点が、世界経済が同時不況のような状況になると、必要以上の過剰な自信喪失というか、過剰な反応を示し始める。自虐的な空気が漂う理由の1つも、そのあたりが安定していないからだということがよく見えて来る。

そういう中で、例えば食糧自給率を上げるということが盛んに言われている。私は、洞爺湖サミットを迎え撃つ内閣府の地球温暖化懇談会にも入っていた。大変こだわったのが、食糧自給率の向上という問題だった。食糧自給率(カロリーベース)40%、日本の一次産業への就業比率わずか4%、しかも就業人口に占める一次産業、食の分野に携わっている人は、100人のうち4人しかいない。その4人の中身も、65歳以上の人が6割を超すというものすごい高齢化が進んでいる。そんな分野に補助金を打ち込み、ものすごい高関税で守っても食糧自給率は高まらないだろう、という問題意識が盛り上がってくるけれど、だからこそ、農業生産法人というプラットホーム、つまり株式会社農業のようなシステムとしての農業の基盤をつくって、先端的産業技術の注入によって食をよみがえらせる。これが可能かどうかが日本の将来にとってものすごく重要になってくる。ここでもまた技術だ。

既に昨年、1万を超す農業生産法人が日本でもできている。先端的な農業分野の試みに目を配ると、ものすごく高度な技術が要る。それが保冷であれ、瞬間冷凍であれ、輸送にかかわる技術であれ、エネルギーにかかわる技術であれ、日本の食を再生しようとするならば、技術の注入というのがものすごく重要になって来る。これまで産業力を高めて、食べ物というのは外貨を稼いで外から買えばいいんだという国をつくった。今度は産業力で蓄積してきた技術を注入して食をよみがえらせるのかどうかが、日本の実験としてこれからものすごく重要になってくる。

事実、日本は今、6兆円食糧を輸入しているが、昨年、食料品輸出が5,000億円を超した。近隣のアジアを動いていても感じるが、要するに先端的技術を注入したものすごく高度な米、果物、水産食材など、日本の食料品がどんどん海外に出始めている。しかも、ドバイあたりの中東のものすごく暑いところに行っても、瞬間冷凍した刺身が運び込まれてくるような時代になっている。つまり、すべてそれを支えているのは、ロジスティクスを支える技術革新だ。食糧自給率を高めていくという方向の中でも技術がものすごく重要になってくるということだ。

さらに、海洋資源についていうと、日本は国土の狭い資源小国だというイメージが絡みついている。確かに国土の面積では世界61位だが、領海および排他的経済水域では世界6位という世界に冠たる海洋国家だ。海洋工学の先生たちのタスクフォースの資料を束ねながら感じていることだが、海底熱水鉱床という大変有望な海底火山の出口のようなものが日本の領海の中にある。その周りに潜在している希少金属からエネルギー資源まで、探査技術と採鉱技術の高度化によって、日本を世界に冠たる資源国家に変えていくという可能性は大いにある。

これからわれわれは間違いなく資源ナショナリズムとか資源争奪という言葉に向き合わざるを得なくなる。瞬間風速的には資源価格が落ち、エネルギー価格が落ちているが、過剰流動性が行き場を見失ってエネルギー価格をつり上げていたのが去って価格が下がっただけ。超金融緩和と財政出動で過剰流動性がじわりじわりとまた膨らみ始めている。それの向かう場所によっては、資源の反転高、今67億人の世界人口が2050年には92億人になるという国連の予測、さらには、BRICsのような開発志向の国が続々と離陸してくると、間違いなく資源ナショナリズムや資源争奪というゲームにさらされるだろう。そういう中で、自らの技術力をもって日本の外交基盤を強くしていくこと、自分の足の下を見るということが大変、重要になってくると思う。

2月に麻生首相がサハリンに行って調印したサハリン2というプロジェクトは、91年にワシントンにいたときに、ワシントンのロシア大使館で調印に立ち会った思い出がある。スタート時点はスリ-Mといって、当時私が働いていた三井とマクダーモット、マラソンという3つのMで推進していくプロジェクトだった。ところが、途中で米国の2社が去り、シェルが出てきてうまく行きかけたら、今度はロシアのガスプロムが株を51%押さえてしまうということになって紆余(うよ)曲折を経た。20年かけてようやくプロダクトが出てくる局面になったということだ。戦前、樺太と言われていたサハリンであれだけのエネルギー資源が眠っているということにもし気がついていたならば、戦争とか南進とかというシナリオも変わっただろうなという思いがある。いずれにしても、技術をもって制約に立ち向かっていくということは、日本の立ち位置を安定させていく上では重要だということだ。

大きな環境の中に取り囲まれている存在として科学技術というものをもう1回考えながら戦略的にそれをとらえ直していく必要がある、ということを申し上げた。

(完)

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日本総合研究所 会長、三井物産戦略研究所 所長 寺島実郎 氏
寺島実郎 氏
(てらしま じつろう)

寺島実郎(てらしま じつろう)氏のプロフィール
北海道札幌旭丘高校卒、1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産入社。米国三井物産ニューヨーク本店情報企画担当課長、同ワシントン事務所長などを経て、99年株式会社三井物産戦略研究所所長、2001年財団法人日本総合研究所理事長、06年日本総合研究所会長。早稲田大学アジア太平洋研究センター客員教授。09年4月から多摩大学学長も。文部科学省中央教育審議会委員、経済産業省情報セキュリティ基本問題委員会委員長、内閣官房宇宙開発戦略本部宇宙開発戦略専門調査会座長なども兼任。「二十世紀から何を学ぶか」(新潮選書)「能力のレッスンⅡ-脱9.11への視座」(岩波書店)など著書多数。

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