レポート

「科学と社会の架け橋をめざして」−科学ジャーナリストの国際会議がサンフランシスコで開催

2017.11.21

科学コミュニケーションセンター

写真1 「第10回科学ジャーナリスト世界会議」の一場面。セッションなどを通じて各国参加者間で意見交換が活発に行われた(写真:瀧澤美奈子)
写真1 「第10回科学ジャーナリスト世界会議」の一場面。セッションなどを通じて各国参加者間で意見交換が活発に行われた(写真:瀧澤 美奈子)

 米国サンフランシスコで10月26日から30日にかけて、「第10回科学ジャーナリスト世界会議(World Conference of Science Journalists:WCSJ)」が開催された。70以上の国・地域から、科学ジャーナリスト、科学コミュニケーター、研究者など約1,400人が参加。「科学と社会の架け橋(Bridging Science & Societies)」をテーマに、5日間にわたり100以上のセッションやワークショップが展開された。

 この会議は隔年開かれ、各国の科学ジャーナリスト組織の連合体である「世界科学ジャーナリスト連盟(WFSJ、事務局・カナダ)」と開催国の加盟団体との共催で実施されている。ジャーナリストの視点から、様々な問題を国際間で共有し、科学と報道のあり方を考える機会だ。今回は米国の2つの科学ジャーナリスト団体(Council for the Advancement of Science Writing : CASW、National Association of Science Writers : NASW)が中心となって企画、多くの会員がボランティアとして運営に参加した。さらにジョンソン・エンド・ジョンソンなど30以上の企業がスポンサーとなり、地元のカリフォルニア大学バークレー校、サンフランシスコ校がプログラムや会場の提供などで協力し、実現した。

全体が俯瞰できた質の高いプログラム

 「我々の仕事の影響力の大きさを考えたとき、これまでの仕事の方法を見直し、社会における科学ジャーナリストの役割をさらに価値あるものとしなければ」とメキシコからの参加者イワン・カリーリョ氏が語っているが、急激な科学の進歩や社会の変貌と共に、科学ジャーナリズムも時代に沿った変化を求められる。WCSJ組織委員会は、取り上げるべき質の高い情報(話題)提供に注力。「300以上のプログラム候補から膨大な時間をかけて吟味した」とNASW会長のローラ・ヘルムート氏は胸を張った。

 多くのセッションは主会場のマリオット・マーキースホテルで開かれたが、日曜日を利用してカリフォルニア大学バークレー校、サンフランシスコ校も使われ、研究施設の見学や大学の研究者たちによる直接講義も行われた。プログラムの内容は最先端トピックだけを見ても、医療系、理学・工学系、環境・生物系などほぼ全分野をカバーするボリュームがあり、そのほかに、科学の信頼性、地域的な問題の理解と共有、多様性、ジャーナリズムのあり方など、きわめて多岐にわたった。

初日の全体講演は気候変動と遺伝子操作

写真2 「気候変動には差し迫った対応が必要」とホルドレン氏。
写真2 「気候変動には差し迫った対応が必要」とホルドレン氏。
写真3 気候変動の取り組みの必要性は多くの場面で語られた。UCバークレーでの気候変動のセッション(左)、科学館エクスプロラトリウムでの展示(右)。
写真3 気候変動の取り組みの必要性は多くの場面で語られた。UCバークレーでの気候変動のセッション(左)、科学館エクスプロラトリウムでの展示(右)。

 この中でも最も関心が高かったトピックは「気候変動」だったと言える。プログラムをざっと眺めても、全セッションのうちの2割程度が何らかの形でこのテーマに触れており、聴講者からの質問も多かった。初日の全体講演には、オバマ前米大統領の下で科学技術担当大統領補佐官を務めたジョン・ホルドレン氏が登壇し、温暖化に関する数々の科学的エビデンスを示した。「今後の気候変動の不確定性は科学ではなく、社会の側の選択にある」と述べ、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」などで示された予測が信頼できるものであることを強調し、差し迫った対応が必要だ、などと語った。

写真4 「遺伝子編集技術の開発は社会で議論されるべき」とダウドナ氏。
写真4 「遺伝子編集技術の開発は社会で議論されるべき」とダウドナ氏。

 もう一人、初日の全体講演を務めたのは、ノーベル賞受賞の分野で有力候補と目される遺伝子編集技術クリスパー・キャスナインの発見者、ジェニファー・ダウドナ氏。どのような生物を生み出すことも不可能ではないと言えるほどになった今、「この技術の開発については国際的な議論がなされるべきで、してはいけないことは明確に規制されなければならない」と強調した。ヒトラーから「君が開発した素晴らしい技術の利用法を知りたい」と言われた夢を見たという同氏のエピソードに、発見者としての重圧がうかがえた。講演後、質問者の列は絶えることがなく、15人以上も続いたところで打ち切られた。

目を引いた科学の検証に対する関心の高さ

 「科学の検証」に対する関心の高さも目を引いた。科学者側から提供されたデータや結果をうのみにすることなく、ジャーナリスト自らが納得し、その確からしさを伝えようとするならば、データや解析方法に対する検証は必要だ。データ解析やデータジャーナリズムのワークショップはいずれも満席。オープンデータやデータベースに関するもの、データの可視化、データの再現性などについてのセッションが開かれ、解析結果をどう評価、理解したらよいか、それをどう伝えるべきか、活発な議論が行われた。

 中でも2011年に加速膨張宇宙の発見でノーベル賞を受賞したソウル・パールマッター氏による「批判的思考法(Critical Thinking)」に関するセッションは、ユニークなものだった。データの検証にとどまることなく、心理学や哲学にまで踏み込んで科学の方法そのものを考える。5年前からバークレー校で社会的事項の選択や決定までを視野に入れた講座、“感覚・感性・科学”を心理学の教授らと共に開設。科学者だけでなく、社会全体で考えるべきテーマだとして文系にも門戸を開き、人気の高い講座だという。セッション後には聴講者がパールマッター氏を囲んで輪を作り、熱心に質問をする姿が見られた。

写真5 データに関する話題は数多く。
写真5 データに関する話題は数多く。
写真6 セッション後もパールマッター氏を囲んで熱心な質疑が続いた(右)。
写真6 セッション後もパールマッター氏を囲んで熱心な質疑が続いた(右)。

地域の問題をグローバルに共有

 「ダイバーシティ(多様性)」も重視されていた。南米、アフリカ、中東、アジア、北欧などの国の登壇者たちが、ほとんど知られていない、近代科学以前に継承されてきた独自の科学文化や、現在抱えている地域的な事情や問題などについて多様な発言をした。当事者の声の訴える力は大きい。ジェンダー問題を扱ったランチセッションも注目され、多くの聴衆を集めた。

写真7 難民の健康状態から地域文化の歴史まで、グローバルな話題が取り上げられた。
写真7 難民の健康状態から地域文化の歴史まで、グローバルな話題が取り上げられた。

活発に展開されたコミュニケーション

 今回のメーンテーマ「科学と社会に“橋をかける(bridging)”」に対するサブテーマは、「科学ジャーナリズムに世界的コミュニケーションを“作り上げる(building)”」。期間中、「カリフォルニア科学アカデミー」と「エクスプロラトリウム」の2つの科学館で開催された夕食会は、恰好のコミュニケーションの場となった。オープンな雰囲気の中、気軽に名刺交換をして親交を深めた参加者たち。小さな子どもを夫に預けて参加した母親たちが、子どもの写真を見せ合う姿も見られた。次回の開催はスイスのローザンヌ。参加国数も人数もさらに増え、新たな話題が展開されることだろう。

写真8 展示ブースで熱心に質問をする参加者(左)。交流が深められた科学アカデミーの夕食会(右:写真 瀧澤美奈子)。
写真8 展示ブースで熱心に質問をする参加者(左)。交流が深められた科学アカデミーの夕食会(右:写真 瀧澤美奈子)。

 今回日本からは、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)のメンバーを中心に20人ほどが参加。科学技術振興機構(JST)渡辺美代子副理事がゲストとして登壇したほか、理化学研究所や沖縄科学技術大学院大学(OIST)など複数の大学や研究機関が展示ブースに出展した。

(科学コミュニケーションセンター 平塚裕子)

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