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「科学は性差や民族の壁を越え、多様な人々によって推進されるべき」-科学ジャーナリスト世界会議で3国の女性リーダーが提言

科学コミュニケーションセンター

掲載日:2017年11月14日

写真1 「科学を推進するのは誰か」をテーマにしたWCSJランチセッションの会場
写真1 「科学を推進するのは誰か」をテーマにしたWCSJランチセッションの会場

米国サンフランシスコで10月26日から30日までの5日間「第10回科学ジャーナリスト世界会議(WCSJ; World Conference of Science Journalists)」が開かれた。2日目の27日には「科学を推進するのは誰か」をテーマに、ランチセッションが開かれた。

世界各地から集まった科学ジャーナリスト約600人を前に、南アフリカ共和国のナレディ・パンドール科学技術大臣とヨルダンのスマヤ・エル・ハッサン王女、科学技術振興機構(JST)の渡辺美代子副理事(日本学術会議副会長)らが登壇し、それぞれの立場から意見を述べた。3人は組織のリーダーとしてそれぞれ国内外でジェンダーや貧困、教育など「持続可能な開発目標(SDGs)」の重要な課題でもある問題に積極的に発言している。性差や民族の壁を越え、多様な人々によって科学は推進されるべきと指摘する3人の女性たちの発言に、会場からは盛んな拍手が送られた。ここに3人の言葉を要約して紹介する。

「すべてのアフリカ人に質の高い教育を」-ナレディ・パンドール科学技術大臣(南アフリカ共和国)

写真2 南アフリカ共和国のナレディ・パンドール科学技術大臣
写真2 南アフリカ共和国のナレディ・パンドール科学技術大臣

アフリカにおける科学技術の現状をふまえると、21世紀の科学を担うべきは、多種多様な女性、特に若い女性であるべきと私は考える。さらに性別を問わず全てのアフリカ人が科学に関わるチャンスを獲得し、アフリカ人研究者が次世代の科学を先導する役割を担うべきだ。そのために必須なものは「教育」であろう。女性のみならず全アフリカ人に対して質の高い教育を提供し、次世代のリーダーを育成する必要がある。

アフリカではいまだに強い男尊女卑思想が残っている。また教育システムも極めて未熟だ。つまり社会的に有利な立場にいるアフリカ人男性でさえ、十分な教育を受ける事は難しく、まして女性がそれと同様またはそれ以上の質の高い教育を受ける例は稀なケースだ。

世界の科学コミュニティで活躍するアフリカ人研究者はいまだ限定的であり、プレゼンスは非常に低い。質の高い教育を性別、年齢問わず全てのアフリカ人に平等に提供し、アフリカ全体における教育レベルの底上げを図ることにより、次世代の科学を先導するアフリカ人研究者、女性研究者が輩出されるであろう。そして女性がレベルの高い教育を受け、質の高い教養を獲得する事が、大陸にいまだ残る男尊女卑思想の排除に直結すると私は確信している。

「日本社会の中に女性たちが活躍できる場を」―科学技術振興機構(JST)渡辺美代子副理事

写真2 JSTの渡辺美代子副理事
写真2 JSTの渡辺美代子副理事

誰が科学を推進するか。私は、科学に直接関与しない人々も含め、全人類が科学を推進すべきと考える。なぜなら科学への直接的関与の有無を問わず、既に全人類が科学技術によって生まれた製品やシステムを使い、その恩恵を受けると同時に負のリスクをも受けているためだ。

科学はアメリカや欧州の科学者によって確立され、世界中に浸透し、そして社会との調和が求められるようになった。私は、この状況下で科学を先導すべきはアジアの女性であると考える。アジアの女性は我慢強く柔軟性に富み、強いリーダーシップを備えているからだ。四季のある日本では、絶え間なく環境の変化が起こっており、我々はこの変化こそが生きる上での本質だと感じ、それを受け入れることが当たり前になっている。この寛容性、柔軟性こそがリーダーとして必要な要素であると考える。

今年の5月末に東京で「ジェンダーサミット10(GS10)」を主催した。この会議で、世界経済フォーラムが毎年調査公表するジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index : GGI)をはじめ、現在世の中にはジェンダー平等(Gender equality : GE)を測る数種の指標があるものの、アジアのGEに関しては、これら既存の指標では正確に表すことができないであろう、という議論がなされた。GGIでは上位のほとんどが欧州諸国で占められ、対してアジア諸国は下位を占めているが、実際には多くのアジア人女性が社会で活躍し、貢献をしている。

日本を例に挙げると、日本の一般的な家庭では女性(妻)が家計を握り、家庭内の意思決定権を持っている。日本の外においては、例えば国連における日本人女性職員の比率は63%を占めており、これは世界でもっとも高い割合となっている。アジアは貧困、飢餓、人身売買、児童婚といった深刻な問題を抱えているが、これらの問題解決に献身しているのは男性よりむしろ女性が多い。土木工学の阿部玲子博士は、多くの法規制がある日本ではなく、アジア諸国の土木建築現場で大成功を収めた。彼女はインドの建築現場における安全対策を根本から改善し、土木工学のあり方を変えた人物だ。

このように多くの優秀な日本人女性がSTEM(Science,Technology,Engineering and Mathematics)分野でリーダーとして活躍しているものの、その活動の場の大半が日本国外または家庭を通してのみに限られている。日本の社会の中で彼女達に活躍の場を提供できていない現状、これこそが我々の抱える最大の課題であり、これを改善することが、今求められている。

「世界に平和や繁栄をもたらす科学は、境界を越えて共有すべき」―スマヤ・エル・ハッサン王女(ヨルダン)

写真3 ヨルダンのスマヤ・エル・ハッサン王女
写真3 ヨルダンのスマヤ・エル・ハッサン王女

科学は平和、健康、繁栄を実現させるための鍵であり、それは一国に留まらず世界共通の事実であると考える。誰が科学を推進するか?という問いに対して私は「全ての人」と答えたい。私たち途上国の人々も科学を推進する一員だ。途上国を救済する為の科学技術ではなく、私たち自身も科学技術を推進する当事者であるのだ。

しかしながら今日、最先端の科学技術はほんの一握りの国、研究者のみによって扱われており、その他多くの科学者のポテンシャルが無駄になってしまっている。2004年には科学技術先進国であるトップ30カ国の論文が世界中で最も引用された論文の97.5%を占めている。

この不平等は近年少しずつ改善されており、南アフリカ、メキシコ、トルコ、インド、アルゼンチンの論文引用数は増加傾向にある。ただしいまだ全ての途上国がこのような発展を遂げられるわけではない。研究資金の不足により、国内外の優れた研究者を雇用出来ない事実も一要因だが、そもそもトップの研究者達はトップの研究所、研究環境に集まってしまい、不均等がますます拡大しているのだ。

この不平等な状況の打開策として最も有効なものが「指導(Mentorship)、教育」であると考える。トップの科学者による指導は世界中で行う事が可能だ。国境を越えた指導が必要とされている。

国境、時差、世代を超えた科学は地球規模課題の解決に資する。我々ヨルダン国が中東で初めてのWorld Science Forum 2017を開催する意義がここにある。「平和のための科学」をメインテーマに、ボーダレスで世界中の人々に利益をもたらす科学を議論していきたい。

固定観念の変化をめざして(ディスカッション)

写真4 ディスカッションの様子
写真5 ディスカッションの様子 (写真5 提供・瀧澤 美奈子)
写真4(上)、5(下) ともにディスカッションの様子 (写真5 提供・瀧澤 美奈子)

3人の意見発表の後、ランチセッションを提供したジョンソン・エンド・ジョンソン社のシーマ・クマ―副社長の司会により、フランクな意見交換の場が設けられた。ジェンダー平等が実現しない状況について聞かれたスマヤ王女は、「『科学は男性のもの』という固定観念が一番問題だ」と答えた。渡辺副理事も、母親たちの固定観念が科学に興味をもつ女子生徒たちの障害となっていることを指摘し、母親たちの理解が大切との見解を示した。またパンドール大臣は再び教育の重要性に触れて、「自身が受けることのできた質の高い教育を、多くの若い世代の女性に与えることが、ジェンダー平等にとって重要だ」と述べた。

既存の教育の改善点をたずねられたパンドール大臣は、「固定観念が残ったままでは有意義な改革はできない。国民全体の意識を変えるための教育、すなわち科学コミュニケーションが必要だ」と語った。渡辺副理事も、女性が参加した研究チームのほうがより多くの特許の取得や高い経済効果を上げているなど、「女性がSTEM分野で活躍することにより経済的価値などが高まる事実」をもっと知らせることが、固定観念の払拭に重要だとの考えを示した。スマヤ王女は「科学は社会に対して、とくに世界平和に貢献するもの。そのことを年齢や性別を問わず、みんなで共有することが大切」と結んだ。

国や環境の違う3人の女性リーダーたちの言葉はいずれも力強く、科学のもつ客観性や平等性により、人々の心のなかの固定観念が変えられていくビジョンを明確に示した。

(人財部ダイバーシティ推進室 川端賢/科学コミュニケーションセンター 平塚裕子)

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