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大学中心の拠点づくりで日本は立ち遅れか

掲載日:2015年10月19日

日本の企業が共同研究の相手に海外の大学を選ぶのは、大学を拠点とするグループが既に出来上がっているため…。15日都内で開かれた「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)シンポジウム」で、プログラムディレクター(PD)の一人から、興味深い指摘があった。

SIPは、「府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト」とされている。昨年スタートしたばかりだ。こうしたプロジェクトが必要とされるのは、「府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメント」が、これまでうまくできていないということだろう。

首相を議長に関係閣僚、学界と産業界の指導的人物を議員とする総合科学技術・イノベーション会議が司令塔の役割を発揮して、なんとか壁をぶち破ろう。そうした試みの一つがSIPといえる。初年度の昨年、10の課題を選定し、5年計画のプロジェクトが動き出した。「次世代海洋資源調査技術」「自動走行システム」「レジリエントな防災・減災機能の強化」など、科学技術立国を目指す資源小国、自然災害多発国の日本にとって不退転の決意をこめたようにも思える課題が並ぶ。PDの顔ぶれを見ると、産業界、学界から5人ずつと産学どちらにも偏っていないことが分かる。

岸 輝雄 氏
写真.岸 輝雄 氏

冒頭の発言の主は、軽量、耐熱・耐環境性に富む「革新的構造材料」課題に挑むPDの岸輝雄(きし てるお)氏だ。東京大学先端科学技術研究センター長、物質・材料研究機構理事長、日本学術会議副会長などの経歴が示すようにマネジメントの経験も豊富な学界指導者の一人である。物質・材料研究機構理事長当時は、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」に採択され、同機構の国際化を推進した実績も持つ。今回はSIPのPDとして、航空機・発電機器産業の躍進をもたらすような成果を狙っている。

SIP課題の一つ「自動走行システム」のPDを務めるのは、トヨタ自動車顧問の渡邊浩之(わたなべ ひろゆき)氏だ。ITS(高度道路交通システム)による先読み情報などを駆使して、「2017年に交通事故死者数2,500人以下、2020年までに世界で最も安全な道路交通社会を実現する」ことを目指している。トヨタ自動車は、「革新的燃焼技術」課題のPDにも、同社エンジン技術領域 領域長の杉山雅則(すぎやま まさのり)氏を送り込んでいる。産学連携や産学官連携にもとりわけ熱心な企業ということだろう。杉山PDに課された目標も、現在40%程度である内燃機関の最大熱効率を50%に高めるという挑戦的なものだ。

その杉山氏も、岸氏の発言を受けて「大学の研究成果がそのまま製品になるわけではない。成果と製品をつなぐ橋渡しの機能が必要だが、日本には欠落している」と指摘していた。

パネルディスカッションで発言する杉山雅則氏(マイクを握っている人)
写真.パネルディスカッションで発言する杉山雅則氏(マイクを握っている人)

SIPシンポジウムに先立つ1カ月前の9月12日には、都内で「ACCELシンポジウム」が開かれている。ACCELは、重要研究成果を技術として成立させることを目指す科学技術振興機構のイノベーション創出プログラムである。こちらにもトヨタ自動車の技術統括部主査である岡島博司氏(おかじま ひろし)氏が、ACCEL研究開発運営委員としてパネルディスカッションに参加していた。「米国の大学と共同研究するということだが、なぜ日本の大学ではなかったのか」という司会者の問いに「適任者が米国の大学にいたから」という趣旨の答えをしていた。

ちょうど、米国のスタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)に研究センターを設け、人工知能(AI)と自動運転技術の開発に取り組むというトヨタ自動車の発表が、ニュースになったばかり。司会者が早速これを取り上げた質問に対する答えである。グローバル化時代に国際競争でしのぎを削っている企業としては、産学連携の相手探しもまた、グローバルにならざるを得ない、ということだろうか。

SIPシンポジウムで岸輝雄氏は、大学を中心とするグループが出来上がっている海外で共同研究すると成果が得やすいと日本企業は考えている、との見方を示し、「日本もこうした拠点化を図らないと、SIPのようなプロジェクトが終わると産学の関係が途切れ、離れてしまう。プロジェクトができるたび拠点をつくるようにしないといけない」と提言していた。

氏が理事長を務めていた物質・材料研究機構が、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」に採択されたのは、2008年。初年度に採択されたほかの4機関は全て国立大学で、独立行政法人(現 国立研究開発法人)は、物質・材料研究機構だけだった。選ばれた理由を氏は、当時次のように語っている。

「2003年に『若手国際研究拠点』というものを始め、5年間で27カ国80人の優秀なポスドクを集めました。高給を払いましてね。世界から集まった若手研究者が自立して研究活動を行い、斬新な研究を生み出してもらうのが狙いでしたが、優れた研究成果を数多く発信することができたと考えています」(インタビュー「世界トップレベルの材料研究拠点を」第2回(2008年5月12日)「基礎研究に国境なし」参照)

当時は、基礎的な研究レベルで国際拠点となるような大学、研究機関をつくろうというのが、国のプロジェクトとして大いに意味があった、ということだろう。しかし、現在は、基礎研究の成果をいかに社会に実装できるかが、喫緊の課題となっている。SIPシンポジウムでの岸氏の発言は、研究機関、大学だけの研究拠点ではなく、企業も加わった産学連携の拠点を産学官であちこちにつくらないと、国際的には立ち遅れてしまう、ということではないだろうか。

(小岩井忠道)

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