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評価難しい研究開発投資効果

掲載日:2015年8月24日

「総じてみれば2000年代を通してわが国の企業においてイノベーションの創出が十分に行われてこなかった可能性を指摘できる」。14日の臨時閣議で報告された2015年度の年次経済財政報告(経済財政白書)の中にこんな記述がある。

「2000年代を通じて、官民合わせGDP(国内総生産)の3%程度と、他国と比較して多くの研究開発投資を行ってきた一方、そうした投資に応じたTFP上昇率が必ずしも実現されていなかったとの見方もできる」とも、書かれている。TFP(全要素生産性)とは、生産性のうち労働や資本といった生産要素の増加で説明できない部分を指し、「技術進歩の進捗率」を示すものともいわれる。研究開発投資に見合うほどの技術進歩があったか疑わしい、と経済財政報告は見ている、ということだろう。

一方、報告は次のように付記している。「ただし、2015年版科学技術白書(6月16日閣議決定)では、わが国における製造業企業の TFP上昇率の要因分析を行うことで、政府の研究開発投資が、この20年間、景気に左右されることなく、一貫して企業のTFP上昇率にプラスの影響を与えていることを示している」

同様にTFPに触れながらこうした見方の違いは、何に起因するのか。科学技術白書の方は、「公的R&D(研究開発)資金の投入が、社会的に影響があると考えられる環境や情報通信技術などの特定分野への企業のR&D活動を促進することを示している」とする内閣府経済社会総合研究所の報告書を根拠の一つにしている。大学など公的研究機関の研究開発が民間企業の工場の生産性を高める効果がある、とする文部科学省科学技術・学術政策研究所の調査研究報告も紹介している。こちらは、この20年間で企業のTFP上昇率にどのようなR&D資金がより貢献したかを分析した結果から導き出した結論だ。

他方、経済財政報告の方は、内閣府、文部科学省、OECD(経済協力開発機構)などの資料を基に、イノベーションの取り組みについては「長期的な経済の停滞にもかかわらず、代表的なインプット指標でみる限り積極的に行われてきた」と評価している。「近年、官民合わせた研究開発費は対名目GDP比3.5%程度と諸外国と比べても高水準で推移している」、「2013年の研究者数は65万人(フルタイム換算値)と中国、米国に次ぐ第3位の規模となっている」、「各国から生み出される発明の数を国際比較可能な形で計測したパテントファミリー数を用いてみると、わが国のシェアは2000年代に入り米国を抜きトップ のシェアとなった」など、と。

ただし、アウトプットで見ると「そうした取り組みに応じた生産性や営業利益の向上、企業における イノベーションの創出が必ずしも実現されていなかったと考えられる」とも。不十分なアウトプットとして示されているのは「米国や英国、またスウェーデンやフィンランド、韓国といった国では、日本と同水準のTFP上昇率をより少ない投資により、もしくは日本と同水準の投資でより高いTFP上昇率を実現している」ことや、「製造業、非製造業別にみると、わが国では、累積研究開発費が大きいにもかかわらず累積営業利益が低い傾向が示され、諸外国に比べても相対的に企業部門における研究開発効率が低くなっている」という現状だ。

こうした評価の違いは、今に始まったことではない。例えば科学技術振興に熱心な政治家から「予算確保でこれだけ応援しているのにそれに見合う成果が出ていないではないか」と、国立研究開発法人の理事長が厳しく追及された、といった話は前から聞く。つい最近では、6月1日に公表された経済財政諮問会議(議長・安倍首相)の「財政健全化計画等に関する建議」の中で「研究開発効率は低下傾向にあり、科学技術予算の費用対効果の向上が急務」と指摘されたのに対し、文部科学省が「投資に見合う社会還元は実現している」とする反論文書を公表するなどの応酬があったばかりだ。

どちらの見方が、より的を射ているのか。容易に軍配を上げにくい理由の一つは、評価に当たっての時間的物差しに加え、成果の捉え方自体にも、資金を出す側と研究開発する側でだいぶ違いがあるためではないだろうか。科学技術白書には次のような記述もある。

「研究開発のTFP成長率に対する効果については、さまざまな要因が複雑に関与しているため、研究開発費とTFP成長率といったマクロな指標だけでは、他の要因の影響を除いて直接的な関係性を特定するのは難しい」

(小岩井忠道)
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