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放射能影響予測システム(SPEEDI)を活用しなかった責任

掲載日:2011年10月31日

福島第一原子力発電所事故の政府対応で、いまだにはっきりしていないことの一つに、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の果たした役割がある。端的に言えば、放射線防護措置のために用意されていた手段が、なぜ肝心の目的である緊急時の迅速な対応に活用されなかったのか、ということだ。

原子力安全委員会は、事故発生(3月11日)から12日もたった3月23日になって、初めてSPEEDIによる原子力発電所周辺の放射線ひばく量予測地図を公表した。事故発生翌日には、大気中に放射性物質を含む空気の放出措置(ベント)がとられており、さらに15日までに1、3、4号機で相次いで水素爆発が起き、放射性物質が大量に周辺環境に放出された、というのにである。

原子力安全委員会は次のように説明していた。

「3月16日からSPEEDIによる試算のために、試算に必要となる放出源情報の推定に向けた検討をしてきた。3月20日から陸向きの風向となったため、大気中の放射性核種の濃度が測定でき、限定的ながら放出源情報を推定できたことから、本システムの試算を行うことが可能となった」(3月23日原子力安全委員会プレス発表「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算について」)

一読して何のことか理解しにくい上に、だれに責任があるか分からないような書き方だ。そもそも16日まで何もしていなかった理由の説明がない。10月19日に日本記者クラブで記者会見した中川正春文部科学相の話から、事情は幾分明らかになる。

「SPEEDIによる放射性物質拡散予測結果は、文部科学省として原子力安全・保安院と原子力安全委員会に届けた。残念ながら事故直後の時点では、現場に近づけず、モニターも壊れていることから、放出された放射性物質について精度の高いデータは得られなかった。そこで、放射性物質の放出量については推測されるデータを基にして、その時に実際に観測できた気象データなどを入れ込んで算出した。どのくらいの濃度で拡散しているかについて大体の推測値を出したと認識している。原子力安全・保安院と原子力安全委員会は、基本データが正確でなく推測だということのためらいがあって、(事故直後に)公表しなかったのではなかったか、と聞いている」(10月24日ハイライト・中川 正春氏・文部科学相「放射性物質拡散予測はすぐ公表すべきだった」 参照

しかし、これでもよく分かった、と納得する一般国民は少ないのではないか。一部推測のデータが入ろうと、SPEEDIの目的からすれば、無視するというのはどうにもおかしい。前述の原子力安全委員会プレス発表)も、SPEEDIの役割として次のように付記しているのだ。

「大量の放射性物質が放出されたり、あるいはその恐れがあるという緊急時に、周辺環境における放射性物質の大気中濃度や被ばく線量などを、放出源情報、気象条件および地形データを基に迅速に予測する。国・地方公共団体は、この予測情報により周辺住民のための防護対策の検討を迅速に進めることができる」

朝日新聞の29-31日朝刊に、これまでの政府の説明よりはるかに分かりやすい記事(連載記事「プロメテウスの罠(わな)-研究者の辞表」13-15回)が載っている。要点を引用すると、次のようだ。

事故の約6時間半後の3月11日午後9時12分「経済産業省原子力安全・保安院のERC(緊急時対応センター)は、独自に行った1回目のSPEEDI予測図を受け取った。12日午前1時12分に2回目の予測図を得た。その時点でまだ実施していなかったベント(排気)をした場合、放射性物質は南東の太平洋へ飛ぶ結果が得られた。原子力災害対策本部が置かれた首相官邸の地下に各省実働部隊が詰めるオペレーションルームの専用端末に送られたのはこの1、2回分だけ。その後、16日までに原子力安全・保安院が独自に実施したSPEEDI予測43回分は保安院のERC(緊急時対応センター)に留め置かれた。

原子力災害対策本部長(菅首相)の最初の避難指示(3キロ以内の住民は避難、3-10キロ圏内は屋内退避)が出たのは、11日午後9時23分で、2回目の予測図が得られる前。放射性物質は風に流されるので同心円状には広がらないというのが常識だが、官邸中枢が独自の判断で同心円状の避難区域を決めた。

以後、原子力安全・保安院のERC(緊急時対応センター)は、一時やりかけた避難区域案づくりをやめてしまう。結局、16日までに原子力安全・保安院が独自に実施したSPEEDIの予測は、官邸中枢が決めた避難区域について検証するための資料としてだけに使われた…。

この記事は、本来、SPEEDIの予測を行うのは文部科学省の役目だとも書いている。さらに、放出量を1ベクレルと仮定した文部科学省より「さまざまな情報を集めて放射性物質の放出量を推測した」原子力安全・保安院の予測の方が、精度が高かった、とも。主に原子力安全・保安院側からの情報を基に書かれた記事という印象を与えるが、いずれにしろ、これまで政府、原子力安全委員会などから明らかにされたことと比べるとはるかに詳しい。

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