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温暖化の影響アジアの沿岸都市で深刻

2009.11.13

 世界自然保護基金(WWF)が14、15の両日シンガポールで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)にあわせて報告書「アジアの巨大都市を襲う気候変動」を公表した。

 報告書は、アジアの沿岸地域や河川のデルタ地帯に位置する11の大都市を取り上げ、気候変動による影響の大きさを示している。各国の指導者たちにさらに危機感を持ってもらう狙いとも思われるが、各都市の気候変動に対する脆弱(ぜいじゃく)性を10段階でランク付けしているのが目を引く。

 最も弱いとされたのは、バングラデシュのダッカでレベル9。洪水や渇水による直接の環境被害に加え、社会資本の貧弱さによる社会経済的な被害、適応能力のいずれも最低ないし、最低ランクに近いと評価されている。

 次に脆弱な都市(レベル8)は、インドネシア・ジャカルタとフィリピン・マニラ。ジャカルタは、暴風雨、海面上昇、洪水や渇水による環境被害と適応能力の不足は、いずれもダッカよりややまし。しかし、人口過密による社会経済的被害が最低ランクの10を付けられた。また、マニラは社会経済的被害こそジャカルタ、ダッカより小さいとされたが、暴風雨と洪水・渇水の被害がいずれも最悪の10を付けられている。

 以下、レベル7がインド・コルカタとカンボジア・プノンペン。6がベトナム・ホーチミンと中国・上海、5がタイ・バンコク、4が香港、マレーシア・クアラルンプール、シンガポールの順となっている。

 気候変動による影響が沿岸部に集中している人口過密な大都市で深刻になるという予測は初めてではないが、WWFの報告書は貧しいために適応能力を欠く国が多いアジア地域の大都市が特に脆弱であることにあらためて警告を発したと言えそうだ。

 気候変動による環境影響として報告書が重視した暴風雨、海面上昇、洪水や渇水については日本の大都市もひとごとではない。10月9日に文部科学省、気象庁、環境省が合同で公表した報告書「日本の気候変動とその影響」は、全世界で追加的な温暖化対策を講じない場合、日本は世界平均を上回る気温上昇が予測され、その被害額が今世紀末に年間約17兆円に上るという予測を明らかにしている。年間17兆円という被害額のほとんどは、河川の洪水と高潮による被害だ。

 APECで気候変動対策がどの程度、具体的に話し合われるか分からないが、日本を含めアジア共通の最優先課題であることは明白、と言えるのではないだろうか。

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