レビュー

「目に見える研究拠点」のすべり出しは

2008.06.25

 優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指す。第一線の研究者がぜひそこで研究したいと世界から多数集まってくるような—。こうした目標を掲げ昨年度にスタートした「世界トップレベル研究拠点」(World Premier International Research Center Initiative; WPI)について、1年目の活動を評価したフォローアップ結果が、23日文部科学省から公表された。

 発表文書には、率直な記述も含まれており、なかなか興味深い。

 「世界トップレベル研究拠点」は、日本が世界に誇る強い分野で傑出した研究を行っている、ということが選定の条件になっており、大学あるいは研究機関全体が拠点として選ばれたわけではない。とはいいながら、選ばれた5拠点をみて、大学、研究機関全体の実績も考慮されたのでは、と感じた人も多いだろう。

 5拠点とは、東北大学・原子分子材料科学高等研究機構、東京大学・数物連携宇宙研究機構、京都大学・物質-細胞統合システム拠点、大阪大学・免疫学フロンティア研究センター、物資・材料研究機構・国際ナノアーキテクトニクス研究拠点である。理化学研究所や東京工業大学などを入れるかどうかという議論があったことは想像できるが、東北大学、東京大学、京都大学、大阪大学はいずれにしてものぞくことはできなかっただろう。COE(センター・オブ・エクセランス)やスーパーCOEといったこれまでの拠点づくりが、数ばかり増え、COEのない大学を探すのが大変というのが実態だから、真の拠点作りが必要になったという背景は想像できる。

 マックスプランク研究所に代表されるように、伝統的に大学より国立研究機関の研究レベルが高い。こんなドイツでも、大学を強化しなければならないという政策が導入され、9大学が強化の対象拠点に選ばれたという。ある独立行政法人理事長によると、多くの有力大学がひしめいているように見える米国も、もっともいい大学となると10程度に絞られる。国力から考えると、日本はとりあえず10年くらいかけて5大学程度を世界に通用する大学に育て、その後、一つ二つと増やしていくやりかたは妥当だろうという。

 さて、昨年選ばれた5拠点のフォローアップ結果はどうか。スタートして1年目だから性急に立派な成果を求めなくても、と思うが、厳しい指摘だけ引用する。

 「すべての拠点は海外の主任研究者を招聘しているが、世界的な拠点の研究者集団形成という意味では、その質と数において不十分である。拠点は一流の主任研究者を招聘するよう模索しているが、それは容易ではなく、もう数年かかるかもしれない。プログラムの10年という長い時間を考えれば、将来性のある優れた研究者を招聘することも積極的に考えるべきである」

 大物研究者を1人、2人集めようとするだけでなく、将来性のある若手研究者を海外から集めることにもっと力をつくせ、ということだろうか。「それぞれの拠点は、ポスドクの国際公募を行っており、応募者は多い。しかし、優れたポスドクを見つけ、雇用することは必ずしも簡単ではない」という指摘もフォローアップ結果の中に見られる。

 「国内の主任研究者は、それぞれ前の所属との兼務を続けている場合が多く、そのため教育、運営などの義務から完全に自由にはなれないでおり、拠点への貢献の妨げとなる恐れがある」

 「拠点の目的達成のためには、拠点長への期待と責任は大きい。拠点長が十分に能力を発揮できるよう、ホスト機関および拠点メンバーからの積極的な支援が必要である。同時に、分厚い書類など、運営に対する要求は最低限にとどめるようにすべきである」

 「プログラムは複数の基礎分野にまたがる融合領域を研究対象としている。…融合を促進するためには、さまざまな領域で、さまざまな興味を持つ研究者たちが意見を交換する場を設定するのが大事である。…いくつかの拠点の中には、若い研究者間のコミュニケーションがほとんど見られないところもあった」

 古くからいわれていることが、この意欲的なプログラムでも問題になっているということだろうか。

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