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農学系ポスドクへの期待と現実

2008.04.10

 日本学術会議の生産農学委員会農学教育分科会が、社会の期待にこたえる農学教育の在り方について報告をまとめた(4月9日ニュース「農学教育体制の見直し提言」参照)。地球規模の問題解決に対する期待が大きくなっているのに対応し、農学教育も分野横断型の教育体制に再構築する必要がある、と提言している。

 共感する人は多いと思われる。同時に農学系の博士課程修了者の置かれた厳しい現実などから、提言を実現することは相当、難しそうだという印象を持った人も多いのではないだろうか。

 農学系の大学院修士課程から博士課程に進学する人の割合は約20%で、全大学の博士課程進学率(13.2%)に比べて高い。専門志向が平均より高いということだろう。博士課程修了者の身の振り方はどうか。文部科学省の「平成18年度学校基本調査報告書」によると、博士課程修了者1,056人のうち、就職できたのは51.6%(550人)で、修了時に就職先が決まっていない人が37.4%(395人)に上る、という。

 別の調査(科学技術政策研究所「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の雇用状況調査−平成18年度調査−」)によると、平成17(2005)年度の「ポストドクター等」は15,496人おり、このうち農学系は1,618人と10.4%を占めている。

 ここでいう「ポストドクター等」というのは、「博士の学位を取得後、(1)大学等の研究機関で研究業務に従事しているが、教授・助教授・助手等の職にない人 (2)独立行政法人等の研究機関において研究業務に従事しているが、任期付きで、かつ所属する研究グループのリーダー・主任研究員等でない人(博士課程に標準修業年限以上在学し、所定の単位を修得の上退学した人を含む)」を指している。研究活動に従事しているものの身分が不安定な博士課程修了者ということだ。

 これら厳しい就職状況に置かれている「ポストドクター等」を雇用しているのは、大学と独立行政法人が合わせて96.4%を占めており、民間企業はわずか0.2%でしかない。

 そもそも「平成18年度学校基本調査報告書」で就職できた農学系の博士課程修了者とされている550人のうち8割以上は、大学教員(19.0%)と科学研究職(62.2%)で占められている。農学系博士課程修了者は、理学系、工学系などと同様、あるいはそれ以上に専門志向が強いということだろう。

 「(大学院は)これまでは、博士論文の内容を国際基準に合わせるために、各分野の国際専門学術誌での発表を半ば義務化してきた。わが国の社会が問題としている具体的な研究課題は等閑視され、…大学教員用の人材養成に偏りすぎ、企業、団体や行政機関等が求める博士の資質や能力になじまず、社会的な活動の範囲を狭くする結果になっている」

 日本学術会議・生産農学委員会農学教育分科会報告に盛り込まれたこうした指摘とともに、「今日、農学系の博士に求められている能力はそれぞれの専門分野の研究推進能力だけでなく、地球規模での困難な課題を解決するための新たな学術を創造的に構築する科学力であり、新たな職業や産業の開発・展開に参加する実力」という期待にも共鳴する人は多いのではないだろうか。

 報告は「博士のための労働市場を確保、拡大するために、産業界、官界と大学院が連携して具体的な検討を始めるべきである」と、いくつかの具体的な提言をしている。

 大学院側が速やかな意識改革と体制の見直しができるかどうか、がまずは問われそうだ。

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