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大学変革に企業の役割は?

2015.09.02

 大学、アカデミアの変革は公的資金だけでは限界があり、民間企業が主導しない限り無理—。8月28日都内で行われた文部科学省主催のシンポジウム「産学官による未来創造対話」で、上山隆大(うえやま たかひろ)政策研究大学院大学教授の基調講演が参加者の関心を集めた。

 米国には、有力大学が各地に数多く散らばって存在する。この実態は、それほど古い時代からのものではない。まず多くの参加者が意外に思ったのは、こうした氏の指摘ではないだろうか。さらに、1980年代以降、米国の多くの大学が目覚しい変貌を遂げた原動力は民間からの資金の投入によるところが大で、こうした動きを主導したのが明快な考えを持つ少数の人間だった、ということも。

 最初に紹介された人物は、ハーバード大学教授(政治学)、ケネディ、ジョンソン両大統領の国家安全保障担当補佐官を歴任した後、1966〜79年にフォード財団の理事長を務めたマクジョージ・バンディである。「最高の研究と学術を有すること、その基盤である大学を健全ならしめることこそ国家的な利益である」「『エクセレンス』を追究する伝統とそれを保証する自由が結合しているのが米国の大学であり、その組織こそがわれわれの社会のさらなる自由を実現する要である。一流の学術が衰退するようなことがあれば、米国人の精神はより荒廃し、彼らの財布の中身も乏しくなってしまうに違いない」—。1977年のフォード財団レポート中に示されているバンディ理事長の言葉だ。

 実際にフォード財団は、大学に対しどのような支援、てこ入れをしたのか。「米国という国のあり方に、今後重要な役割を果たすと予想される地域を特定し、そこに存在する多くの大学機関の中で突出したリーダーとなる可能性のある大学を少なくとも一つ選び出して、その一群の大学機関が新たな地位と競争力を獲得するよう支援する」。こうした明確な考えに基づき、大学基金への出資を続けたことが紹介された。

 産学連携の強化を求める声は、日本でも年々強まっている。文部科学省の6月16日付文書「国立大学経営力戦略」の中にも「大学が持つ強みのある研究分野やその研究成果についての組織的、積極的な情報発信と、民間に対する『提案型』の共同研究や大学本部のイニシアチブによる組織的な産学連携の推進」を国立大学に求める記述が盛り込まれている。これは自己収入の拡大を求めた国立大学への注文でもある。

 6月1日に公表された経済財政諮問会議(議長・安倍首相)の「財政健全化計画等に関する建議」では、「研究開発効率は低下傾向にあり、科学技術予算の費用対効果の向上が急務」と指摘された。併せ読むと、国立大学に対する産官の目が厳しくなっていることがうかがえる。

 ただし、産つまり民間からの大学てこ入れ策というのは、日本でどれほど議論されているだろうか。上山氏によると、民間からの支援に応じ米国の有力大学は、研究成果の提供を通して、企業との人的、知的交流を通じて力を強めていった。氏が強調したのは、大学の特許収入も増えたが、大学側は収入より、企業との交流が深まったことを喜ぶ傾向が強いという事実だ。

 日本の場合、大学(アカデミア)と企業との関係は個別の研究者にとどまり、組織としては弱い。企業の側にも、いくつもの地域に分けて旗艦となるような大学を選び、大きな資金を投入し、競争を促し、力強いアカデミアを形成するという戦略はなかった…と上山氏は見ている。

 日本の科学技術政策のかじ取り役である総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍首相)には、学界の指導者と共に産業界の指導者も議員として加わっている。かつて議員を務めたことがある元国立大学トップによると「日本の企業の多くは大学に金を出したがらない」という。さらに、「大学のアクティビティ—は国力の源泉の大きな柱だ、という考えが、そもそも日本には弱い」とも。

 産学官がお互いを見る目も日米では相当異なる、ということだろうか。

(小岩井忠道)

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