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次世代スパコンの目標達成困難は昨年7月に評価済み

2010.01.27

 文部科学省は次世代スーパーコンピュータプロジェクトに対する科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会による中間評価報告書を26日、ホームページで公開した。同報告書は昨年7月に一度公表されている。今回はその時点で公表されていなかった個所も含めて公開されており、2011年6月に世界一の性能を達成という目標が「困難と見込まれる」と評価されていた。14人の委員中、目標達成の可能性がある、あるいは高いとする評価作業部会委員は1人もいなかったことも明らかになった。

 次世代スーパーコンピュータは第3期科学技術基本計画で国家基幹技術に位置づけられている。LINPACK性能(注1)10ペタフロップスという世界最高の処理速度(2011年6月のTOP500でランキング1位を奪取)とHPCC Award 4 項目において最高性能を達成することを目標に2006年に開発計画がスタートした。スカラ型とベクトル型の複合システムとなっているのが大きな特徴だったが、昨年5月、ベクトル型の開発担当メーカーであるNECと日立がそろって研究開発費負担に応じられないことを理由に撤退し、大幅な設計変更を余儀なくされた。

 一部を未公表にした昨年7月の中間評価結果は、NECと日立の撤退が決まった後で公表されたが、開発主体である理化学研究所のスカラ型単一のシステム変更案について「プロジェクトの目標達成を念頭に置いたシステム構成としては妥当である」など前向きの評価を印象づけるものだった。

 この時点で伏せられ、今回初めて公開された記述の中には「米国のスパコン開発状況」が含まれている。米国防総省が2010年末に10ペタフロップスの能力を持つプロトタイプを開発、米科学財団(NSF)が2011年に10ペタフロップス、米エネルギー省(DOE)が2012年に20ペタフロップスのスパコンをそれぞれ調達する計画などが明らかにされている。

 さらに、こうした米国の動きを受けて、「TOP500でランキング1位、HPCC Award 4 項目において最高性能を2011年6月に達成」という当初の目標について「達成することは困難と見込まれる」としていた。その上で、理化学研究所から出された「2011年11月にスカラ型単一のシステムで10ペタフロップスを達成する」という新たな開発スケジュールについては「妥当」と評価している。一方、このスケジュールでも「第1位を奪取できる可能性は確実とはいえず」として計画前倒しの検討も求めた。

 次世代スパコンは昨年末に行われた政府の事業仕分け作業で厳しい評価を受け、学術界が猛反発するなど大きな論争を巻き起こした。結局、来年度予算案では完成時期を2011年11月に前倒しするという計画を見直し、元の2012年6月とし、さらに、これによって40億円の予算を圧縮、加えて文科省予算全体から50億円を削減するという条件付きで227億8,000万円の予算計上が認められた。

(注1) LINPACK=米国のテネシー大学のJ.Dongarra博士によって開発された行列計算による連立一次方程式の解法プログラムで、スーパーコンピュータの世界的な順位を示すTop500リスト(毎年6月と11月に発表)を作成するためのベンチマークとして用いられている。(理化学研究所のプレスリリースから)
(注2) HPCC Award 4 項目=HPCC は米国防総省高等研究計画局(DARPA)のHPCS(High Productivity Computing System)プログラムで開発されたベンチマーク。HPCC Award 4 項目は、システムの全体性能を評価するもので、これらの性能値が最高位のシステムは、毎年米国で開催されるスーパーコンピューティング国際会議で表彰されている。(文部科学省説明資料から)

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