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【コラム】校外にも学びはたくさん 第2回 海と私たちの暮らし

2023.09.04

 足を運ぶことで得られる校外での学び。第2回はレジャーでも楽しめる「海」にまつわる学習の場を紹介する。

札幌市豊平川さけ科学館(北海道札幌市)

 石狩川の支流で札幌市内を流れる豊平川では、高度成長期の人口増加で川の環境が変わり、サケがいなくなってしまった。1972年の札幌五輪の頃には下水道の整備が進み、環境が改善されたため、「もう一度サケを呼び戻したい」と、市民による『カムバックサーモン運動』が起こり、サケの遡上が回復。1984年に豊平川のサケ遡上の継続と水辺の環境教育の拠点として開館した。近年は、年間5万人が来館し、サケの成長に合わせた飼育展示と、サケ観察会、採卵実習や稚魚の体験放流などの行事を行う。

水槽で飼育しているサケが美しく見えるように、展示室の光の当て方や見せ方を工夫している(札幌市豊平川さけ科学館)
地元の児童や生徒に人気の人工授精体験会の様子。毎年10月、11月に開かれており、週末は親子での参加も多い(札幌市豊平川さけ科学館)

 サケは産卵のために海から生まれた川に戻る。メスは尾びれで砂利を掘って約3000個の卵を4~5カ所に分けて産む。サケが産卵する場所は「産卵床」と呼ばれ、川の流れも手伝って大きな砂利の山のようになる秋の風物詩だ。そこにオスが集まり体に傷が付くような争いをし、「ベストポジション」で産卵の時を待つ。産卵・放精後、メスは卵を埋め戻し、寿命まで産んだ場所を守る。サケは海の栄養を川に運ぶ役割があり、寿命がきたサケはキタキツネやオジロワシのエサとなるだけでなく、分解されて山や川の栄養となる。このようなサケの一生と、北の大地の生態系を展示で学ぶことができる。

サケの一生。ふ化したサケの赤ちゃんには卵黄嚢と呼ばれる栄養の袋があり、稚魚になるまで砂利の中で育つ(札幌市豊平川さけ科学館提供)
受精して1ヶ月後の「眼」が見えるようになった卵。発眼卵(はつがんらん)といい、一つ直径7ミリメートルほどのサイズで、自然界では砂利の中でふ化を待つ(札幌市豊平川さけ科学館提供)

 市民の声でできた博物館で、川の生態系で起きている課題に取り組み、札幌の水辺の環境保全の要としての役割を担っている。ホームページにはサケの遡上の目撃情報を共有する「みんなでサケさがそ!」があり、市民が川をのぞいてサケを見つけたときに、場所と写真を投稿する。サケを見守り続ける人々の熱意に支えられた博物館である。

 ここの人気の一つは「標本ガチャ」(1回300円)。サケにつく寄生虫をレジン(樹脂)で固めたストラップや、昔アイヌの人々が靴や服に使っていたサケ表皮を詰めたものが出てくる。職員手作りの小さなカプセルトイは、月に何十個も売れている。

サケに寄生するアニサキスやサルミンコーラをレジンで固めたカプセルトイ。数が少なくなると職員で手作りして補充しているという(札幌市豊平川さけ科学館提供)

札幌市豊平川さけ科学館
札幌市南区真駒内公園2-1
入館料無料
午前9時15分~午後4時45分
休館日は月曜日(ただし、月曜日が祝日の場合は火曜日休館)と12月29日~1月3日。
011・582・7555

ぱれ・らめーる(東京都大島町)

 東京23区の港から120キロメートル離れた離島、大島町にある貝に特化した博物館だ。「パレ・ラメール」はフランス語で「海の宮殿」のこと。名前の通り、色鮮やかで華やかな貝、小さな貝、不思議な形の貝などを展示。東京都水産試験場に勤務していた故・草苅正氏のコレクションが9割ほどを占めており、オキナエビスやショウジョウガイなどの珍しい貝や、アワビやサザエなど食事でおなじみの貝、アンモナイトといった化石まで様々な海や陸地で採れた貝を観ることができる。

潜水服で貝を採る様子のジオラマ。日頃食卓にのぼる貝の一部はこのように人の手で一つずつ漁師が採っている(東京都大島町提供)

 貝と一言でいっても多種多様な生き物であることを再認識させられる展示となっている。国内のみならず世界中から集められた4500種5万点の収蔵物のうち、現在は2400種1万点を公開し展示している。草苅氏は初代館長も勤めた。

島を訪れる外国人観光客にも人気の世界中の貝の展示(東京都大島町提供)

 貝の標本にとどまらず、あまりなじみのない貝の一生や、貝類を使った民芸品や装飾品など、人類がこれまで貝とどのように共生してきたのかを見ることができる。

「くさかりコレクション」の展示品。草苅氏は仕事の傍ら、世界中の貝をコレクションした(東京都大島町提供)

 実は、ぱれ・らめーるがあるのは勤労福祉会館の中。草苅氏が館長を勤めていた頃は独立した建物だったが、時を経て、町の財政の問題から一時期は閉館も危ぶまれた。だが、町民の存続への要望により勤労福祉会館を「間借り」する形で存続したという経緯がある。現在は館長はおらず、町職員が管理しているアットホームな博物館だ。

古くは工芸品やネックレスなどの装飾品としても重宝された貝。形や色は千差万別で、見ていて飽きない(東京都大島町提供)
一番人気の「リュウグウオキナエビス」の展示。沖縄で採集された(東京都大島町勤労福祉会館 河野俊男さん提供)

 ここの人気は貝殻を使ったストラップやマグネットなどの小物作りの体験学習だ。美しい貝を選んで自分好みの思い出を作ることができる。大島は夏の海と冬の椿が有名で、国内外から観光に来た人がふらりと立ち寄ることもあるという。大島には東京と熱海(静岡県)、久里浜(神奈川県)などから船でアクセスでき、博物館の付近にはいくつかの海水浴場や釣り場もある。館内は営利目的を除く写真撮影は可能で、商用でなければ展示品を個人のSNSに投稿することも自由に認めているという。港から車・バスで30~40分で到着する。

ぱれ・らめーる
東京都大島町差木地字クダッチ
大島町勤労福祉会館内
入館料 大人400円 小中学生200円
午前9時~午後5時
休館日は水曜日
04992・4・0501

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