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コラム - オピニオン -

緊急寄稿「“想定外”と今後のエネルギー開発」

理化学研究所 研究顧問 和田昭允 氏

掲載日:2011年4月22日

理化学研究所 研究顧問 和田昭允 氏

和田昭允 氏

 

今回の東日本大震災でよく使われる“想定外”- 例えば10メートルの津波は想定外だった - について考えてみたい。

サイエンスは“想定外”を追い求める。一方、エンジニアリングはモノ造りに当たって、費用・効果のバランスから、境界条件-例えば台風や津波など自然の猛威のレベル - を“想定”しなければならない。

でも外れたときの、言い逃れのニュアンスを持った「想定外だったから」はやめてほしい。「想定が甘かった」と過ちを認め、謝らなければならない。

この思いは多くの方々が共有しておられるようで、事実、建設関連のいくつかの学会が「“想定外”という言葉を使うとき、専門家としての言い訳や弁解であってはならない」との声明を発している。

しかしここで「責任は当事者だけ」としたら大きく間違う。サイエンスとエンジニアリング全体の共同責任だ、と私は以下のように考える。

エンジニアリングの歴史は、技術が“想定外”の大小さまざまな出来事に学びながら進歩してきたことを雄弁に語っている。「“想定外”はあり得ない」とする発想は、技術の本質に疎い、あるいは人間のおごりである。科学も技術も、森羅万象に対峙(たいじ)して誠に未熟・幼稚であることを、一般市民の方々や若い学生諸君に知っていただきたい。

アイザック・ニュートンの『私は自らが世間の目にどう映じているかを知らない。けれども私自身としては、時々、普通より滑らかな石や美しい貝を見つけて楽しんでいる子供にすぎないように思われる。しかも、真理の大洋は、全く発見されずに私の眼前に横たわっている』は、智の巨人はおしなべて謙虚である好例として、私がよく引用する言葉だ。

今後世界人類、特にわが日本の健全な繁栄の基盤は、科学技術をおいて他にありえない。その科学技術はこれまで多くの人命の犠牲に学び、先人たちはその悲しみを乗り越えて今日を築いてきた。しかし、いまだ道半ばなのである。ここでわれわれが降参してしまったら、それは祖先の努力に対する裏切り以外の何物でもない。

私は前向きに考える - 天が『この国家的試練に耐え学んだ日本人こそ、科学技術の世界的リーダーになれるだろう』と考え、試しているのだと。

近代になってから日本は、明治維新と昭和敗戦の二度の国難を、国民の高い教育レベルと優れた科学技術で乗り越えてきた。そして今度は三度目の正念場だ。

今日人類が、今や世界にまん延してしまった「エネルギー・物質重視」価値観から脱して「精神重視」価値観にかじを切り直すことは必要(注)だが、もはや原始時代に戻ることは誰も望んでいない。

従って安全で再生可能なエネルギーは、高い精神性とともに人類社会にとって不可欠である。しかし、新エネルギー源の迅速な開発 - 「科学技術日本」が負けてはならない世界競争 - を担保するためのエネルギーは、当分は原子力も含めて、現在のエネルギー源を高度の安全性を確保しながら使わざるを得ないのは自明だ。人類の将来にわたって不可欠な、安全・安心エネルギーの確保にこそ、今回の教訓を学んだ日本の出番がある。

「最先進国日本」が、冷静かつ現実的な現状認識に立って頑張ることこそ、いま必要なのだ。それが今回犠牲になられた方々への最大のご供養であり、被災された皆さんへの励まし、そして、子孫の安寧・幸福に対するわれわれの責任である、と信ずる。

 

理化学研究所 研究顧問 和田昭允 氏
和田昭允 氏
(わだ あきよし)

和田昭允(わだ あきよし)氏のプロフィール
学習院高等科(旧制)卒。1952年東京大学理学部卒、71年同教授、89年同理学部長、98年理化学研究所ゲノム科学総合研究センター所長、お茶の水女子大学理事を歴任。現在、理化学研究所 研究顧問、(公益財団法人)よこはまユース顧問、横浜市立サイエンスフロンティア高校(YSFH) 常任スーパーアドバイザー、東京理科大学 特別顧問、順正学園 相談役などを務める。生物・生命の研究に物理学的手法を導入し、生物物理学という新しい学問分野を切り開く。1981年には科学技術庁(当時)の振興調整費による「DNAの抽出・解析・合成」プロジェクトの委員長として、その後、激しい国際競争となった「ヒトゲノム解析」を世界に先駆けてスタートさせた。横浜市が開港150周年を記念して設立したYSFHで「サイエンスの考え方」を基盤とする、新しい理念に基づいた若者教育にも力を注ぐ。著書に『物理学は越境する―ゲノムへの道』(岩波書店、2005年)、『生命とは?物質か!- サイエンスを知れば百考して危うからず』(オーム社、2008年)、『理系にあって、文系にない「シンプル思考法」』(三笠書房、2011年)など。

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