コラム - オピニオン -

生活者起点のサービスイノベーション

フューチャーアーキテクト株式会社 取締役副社長 碓井 誠 氏

掲載日:2009年3月18日

フューチャーアーキテクト株式会社 取締役副社長 碓井 誠 氏

碓井 誠 氏

 

サービス産業の生産性向上とサービスイノベーションの重要性が様々な方面で語られるようになった。発端は政府の「経済成長戦略大綱」(2006年7月)や「骨太の方針2007」である。ここでは、GDPと就業者数の約7割を占めるサービス産業の生産性の向上を、高い生産性を誇る製造業のノウハウも取り入れつつ、これと並ぶ経済成長の双発のエンジンへと育てて行く事が述べられている。

この流れは、経済産業省を中心とした各省庁での、サービス研究や実証実験の推進、社会経済生産性本部へのサービス産業生産性協議会の設置、産業技術総合研究所でのサービス工学研究センターの設立など具体的な推進母体を形成しつつ進行している。又、アプローチの方法も、サービスに対して、科学的・工学的手法を適用して、その研究・実証を企業活動の現場で行い、方法論の整理と効果的事例のノウハウ化と共有を目指している。

そうした中でサービス産業自身が産官学の連携を深めつつサービスイノベーションを進めて行くためには、その視座と視野、視点の整理が必要な側面も見えつつある。それは一言でいうと「サービスとは何であり、サービスはどこへ向かうのか」といった課題である。これらの整理のたたき台として、まずサービスとは何かを考えてみたい。私はサービスとは「人・物・金・情報を対象とし、これらを目的に応じて取り扱うに当り、その支援とこれに伴う付加価値を提供する機能である」と定義しており、提供者・受給者間の相互作用と非営利活動も含むものと考えている。付加価値とは品質、機能、利便性、健康、効率性、コストベネフィット、安心・安全、好感度、満足感、信頼感、幸福感、節約、エコ等といったものであり、サービスの視野を非常に広く捉えている。

従ってサービスとは経済の対象、なかんずく産業の生産性として語られるのではなく、社会的価値実現の営みであり、生産性は企業でなく社会の生産性として捉えるべきだと考えられる。この事は又、サービスがどこへ向かうかの答えは、人々の価値観や社会の課題解決と方向を一にするものであり、前述のサービスが生み出す付加価値の実現という広い視野の中でその方向を考えるべきである。少子高齢化や格差社会の問題も、生活そのものの課題であり、これと密接に連動するサービスの在り方を考える中で展望が開ける。

これまでサービスを考える視座は、今迄の工業化社会の延長であり、サービス提供者とサービス受給者の一方向の関係でデザインされていた。これからは産業分類や行政機能の縦割りの構造を超えて、生活者の視座でデザインされるべきである。そして、又、製造業とサービス産業の間に敷居を設けるのではなく、その連携の中に両者の革新も生まれるとの考え方も重要である。今、世界が抱える、金融資本主義の崩壊と多極化、格差世界に変わるグローバル新ルールの再構築や、環境・資源・エネルギー問題を克服する持続的発展社会の構築を考えた時、これからの大きな基軸は生活者起点への転換であり、企業・行政・社会の活動に生活者が参加し、共生協労型の価値共創を図ることである。ここには、大量生産・大量消費から適量生産・適量消費への転換と循環型社会のデザインが必要である。これを実現する為には、生活者起点で価値共創を図る為のサービス・イノベーションが必要となる。

生産性の議論でも同様である。米国を100とした日本の労働生産性は71と言われている。又、日本の製造業とサービス産業の生産性は、100:60程度と言われサービス産業の生産性は非常に低い。しかし、労働生産性は前述の付加価値には言及していない。例えば日本の小売業の労働生産性は、52程度といわれるが、日本人の買い物頻度は毎日が40%、週2~3回が36%と米国の週1~2回71%を上回り、人口一万人当たりの店舗数も91店舗と同59店の米国を上回る。又、商品回転率も年26回と米国の14回を上回り、商品鮮度や新商品の提供レベルの高さが表れている。ウォルマートやカルフールが日本では成功していない様に、サービスの成果は労働生産性ではなく、付加価値とコストのバランスから考えることが重要であり、生産性の議論もその国の文化や習慣に根ざした生活者起点が重要となる。

それでは、こうした議論の一方で、サービス産業自身の状況はどうであろうか。実はサービス産業はその構成比の高まりのみならず、製造業の中間投入の30%をサービス部門が占め、新規開業率も製造業の1.9%から見ると2~3倍の水準にある。又、サービス産業による製造業の統合や連携の強化も、コンビニエンス業界やアパレルの製造小売業界では非常に進んでいる。

実はサービス産業にも科学的・工学的・システム的な経営も多い。技術や設計仕様を軸に標準化や、技術共有が進んだ製造業に対し、サービス産業は、そのノウハウ・技術の標準化と共有は遅れている。しかし、顧客との接点を生かし、顧客ニーズに対する変化対応力とサプライチェーンの最適化を図った企業は大きく成果を上げている。例えば、セブン-イレブンを例に取れば、戦略の柱の一つは、購買代理型小売業であり、扱い商品を限定しない、顧客の今欲しい商品やサービスを提供する利便性提供ビジネスを展開している。米飯類や惣菜などファストフードの売上が28%を占め、商品での差別化を図り、サービス面でも、銀行子会社設立や各種料金収納代行により、実に一日210万人、530億円の小口決済を店頭で行うに至っている。

戦略の2つ目は、メーカーの作った商品を売る小売業ではなく、顧客ニーズに対応して商品やサービスを開発する生活者起点のサービス展開である。取扱い商品の55%がオリジナル商品であり、パートナーメーカーと密接な連携での商品開発力が特筆される。そして3つ目の戦略は、顧客・店舗サイドのディマンドチェーンとサプライチェーンの連動であり、ここに徹底した業務プロセスの一気通貫とIT活用による効率化と情報共有を組み込んでいる。そのシステムは、工場の生産管理や物流システム、銀行ATMシステムやネットワークビジネスを、システムパートナーと共に自前で作り上げる事で、一層使い易くコスト競争力の高い仕組みとなっている。

サービス産業にも、こうしたシステム的、工学的の成功事例も多い。コンビニエンスストアは、生活者起点と業務プロセス・システムのデザイン力を発揮すると共に、店舗のフランチャイズ化とSCMパートナーとの連携と言う、モジュール化社会の最適活用化も図り大きく成長して来た。コンビニエンスチェーンの2008年度の売上高は、7兆7800億円と百貨店を抜き、小売業売上ベスト10の内、4社を占めるに至っている。又、海外展開においても、日本のセブン-イレブンの米国セブン-イレブンの買収・再建や、ファミリーマートの2009年度の店舗数が国内7600店、海外8300店と内外が逆転する予測もある。こうした事例は、サービス産業の対外直接投資残高がGDPの4%程度と欧米の1/3~1/9に留まる日本の中にあっては、大きな成功モデルとも言えよう。

サービスの未来には大きな可能性があり、これからも注力を図りたい。

 

フューチャーアーキテクト株式会社 取締役副社長 碓井誠 氏
碓井 誠 氏
(うすい まこと)

碓井 誠(うすい まこと) 氏のプロフィール
1978年セブン-イレブン・ジャパン入社。96年5月取締役情報システム部長、2000年5月常務取締役情報システム本部長、04年1月フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)入社、同3月から現職。05年9月上海用友幅馳信息諮詢有限公司、副董事長、08年9月独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問(サービス工学研究センター)も兼務。

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