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原発縮小と低炭素社会戦略を(飯田哲也 氏 / NPO法人環境エネルギー政策研究所長)

2011.04.15

飯田哲也 氏 / NPO法人環境エネルギー政策研究所長

研究会「3・11大震災」(2011年4月5日、日本記者クラブ主催)講演から

NPO法人環境エネルギー政策研究所長 飯田哲也 氏
飯田哲也 氏

 今、福島第一原子力発電所で起きている事故は、間違いなく世界史に残る最悪事故の一つだ。スティーブン・チュー米エネルギー長官は、ニューヨーク・タイムズ紙に原子炉内では間違いなくメルトダウン(炉心溶融)が起きている、と語っている。格納容器と圧力容器が、恐らく1、2、3号機すべてで破損しているだろうということも、相当確からしい。

 今、放射能汚染水の処理が最大の課題になっている。短期的には避けられないことだが、放水と汚染水の処理に時間をかけていくと、海洋や土壌の汚染を広げ、作業員の被爆総量をいたずらに増やしてしまうだけだ。出口戦略の方に、早急に移らないといけない。数年でいわゆる放射能垂れ流しという状態が収まったとして、その後の管理に数百年単位の時間がかかる。もうそういう事態になっているという認識に立つべきだ。

 方向としては、チェルノブイリ型の石棺にシフトすべきだと思う。人間が近づけないのだから水による放射能の閉じこめは無理。精密な工事はロボットではできない。ロボットでできる唯一の方法は石棺化しかないということだ。チェルノブイリのようなコンクリートではなく除熱が可能な金属による閉じこめやスラリー(泥状混合物)化などが考えられる。

 閉じ込めだけでも恐らく数年、その後の管理を考えると100年単位の仕事をするためには、新しい恒久的事故処理機関をつくり、原発震災管理官という全権を掌握した人を長にする必要がある。日本原子力研究開発機構を改組して、約2,000億円の予算はほぼすべてそちらに振り向けるべきだ。

 第2点目としては、原発震災の教訓をしっかりと洗い直す。原子力安全・保安院と原子力安全委員会はいわば被告の立場にあるので、こうした利害関係者から独立した事故調査委員会をつくる必要がある。事故の直接的原因だけでなく、原子力政策、エネルギー政策にもさかのぼった調査をやるべきだ。そして調査で得られた情報や知見は、少なくとも英語に翻訳し、国際社会が容易に利用できる国際公共財とする。

 次に原子力安全行政を抜本的に見直す必要がある。今回のような事象は石橋克彦・神戸大学名誉教授をはじめ、国会議員、地元の議員などから事前に指摘されていたことだ。そういったものを全く無視して、しかも4年前に柏崎刈羽原子力発電所で地震の直撃を受けながらも、ほとんどそれを一顧だにせずやってきた。まずすべきことは、浜岡原発に代表される今回と同じような地震リスクにさらされている原発の停止命令を直ちに出すこと。中部電力が自発的にとめるというよりは、国が停止命令を出すべきだ。

 今の原子力安全・保安院、あるいは原子力安全委員会の片方を切って、もう1個にくっつけても推進と規制が同じところになるだけ。米国の原子力規制委員会(NRC)は大統領の権限すら及ばない独立性をもっている。例えば80キロ以遠への退避という指示には、在日米大使館、米軍ですら従わないといけない。独立性の高い規制機関を新設して、実質的な安全性を担保できる新基準を確立し、完全に独立した評価機関による安全評価を実施することが必要だ。

 現在の原子力損害賠償法は原子炉1炉当たりの保険金額が1,200億円だが、今回の事故でそれが過小であることがはっきりした。さらに天災なら免責となっている。電力会社が暗黙のうちに無限責任を負う法体系とはいえ、電力会社がカバーしきれない場合には、結局は国、すなわち国民の税金で応対することになる。近年になり無限責任にすべきだという議論は相当あり、フランスは一度計算をした。保険料金を上乗せすると電気料金が3倍ぐらいになるという試算が出たとあって、実際に適用された例はない。しかし、実際にこういう事故が起きた以上は、原子力損害賠償法の保険料率は、天災に関しても免責がなく、しかも無限責任を保証できる保険料率に切り替えるべきだ。

 次に原子力・エネルギー政策の転換を提言する。まず原子力の新増設と核燃料サイクル事業は直ちに停止すべきだ。そもそも六ヶ所村の核燃料サイクル施設と敦賀市の高速増殖原型炉「もんじゅ」は全く無意味な事業で、しかも無残極まりない形で止まっている。これは停止して全く差し支えない。原子力委員会、資源エネルギー庁、総合エネルギー調査会という既存のエネルギー政策機関をすべて解体、新しいエネルギー政策機関として総合エネルギー戦略会議を内閣府の下に設けて、その下に環境エネルギー庁をつくるべきだ。

 では新しいエネルギー戦略はどうあるべきか。今回の大震災で今後、急速に原子力の設備容量は下がっていく。沸騰水型(BWR)である福島第一、第二、女川、浜岡、東通を直ちに止め、柏崎刈羽、島根を段階的に停止、残りを運転開始後40年で廃炉にするとして推計した。その結果、2020年には1,700万キロワット、全電力設備容量に占める原子力の割合は今の30%から10%ぐらいに下がる。こうした新しい現実を前提に、これからのエネルギー政策を立てないといけないということだ。

 今回、計画停電という名前の無計画停電に陥った幾つかの要因の一つに、西日本には電気があり余っているのに、100万キロワットしか送れないということがあった。これは50と60のサイクルの違いと思っている人が多いかもしれないが、実は北海道と東北の間も60万キロワット、東北と東京の間もわずか500万キロワットしか送れない。こうしたタコつぼ的な電力市場を、この機に見直す必要がある。電気事業法を改正し、送配電を分離した全国一体の送電会社を確立することを検討すべきだ。電力会社はすべて地域独占であるが故にいわば鎖国的な電力市場を形成してきた。さらに加えて、電力会社が送電を独占し、しかも自然エネルギーを排除してきたが故に日本は自然エネルギーの普及において、著しく立ち遅れてしまった。

 これからは送電線の集中工事というのが必要で、なおかつそれは自然エネルギー、再生可能エネルギーを爆発的に普及させるためのインフラ投資である。既に米国、欧州には高圧直流送電線で自然エネルギーの集中地帯と幹線を結ぶスーパーグリッドという構想があり、それに集中投資しようという動きがある。日本でも、ぜひそれをやっていくべきではないか。

 次の提言は原発国民投票をしてはどうかということだ。白か黒か決着をつけるというよりも、国民皆が当事者感覚を持って1年間なら1年間、その問題を徹底的に考え抜く。いわば国民教育的な意味でものすごく大きな意味がある。1年間徹底的に原子力と環境とエネルギーと、そして日本の未来を考え抜く。いわばそのツールとして国民投票があるのではないかということだ。

 次に緊急エネルギー投資戦略として東日本の復興を中心に自然エネルギーを充てていくことにものすごい意味があることを指摘したい。自然エネルギーは、大規模発電所に比べて極めて短期的に投資ができる。太陽光発電なら町の工務店や電気屋さんでできる。もともと地域金融は預貸率が非常に低いので、地域の投資先がない。例えば信用保証協会を活用して、地域のエネルギー事業には信用保証協会の保証をつけ、地域金融から回すということで数兆円、数十兆円単位のお金を動かすことができる。

 地域の経済、雇用、金融の投資に非常にプラスのメリットがあるという短期的な投資戦略、経済戦略として活用できるだけでなく、中長期的なエネルギーシフトにもつながる。今、自然エネルギーは水力、地熱、バイオマス発電を合わせ電力に占める割合は10%ぐらいだ。ドイツと同じペースで増やそうとすれば、2020年までに20ポイント増の30%にすることは不可能ではない。大胆な投資をしていけば、エネルギーコストとエネルギーリスクを回避し、なおかつ温暖化対策の京都議定書目標もしっかりと達成していくことができる。

 自然エネルギーによる電力の比率を2020年までに30%、さらに2050年には50%にし、併せて50%の節電を達成することで電力の100%を自然エネルギーとする。そのような段階的な原発縮小と低炭素社会は実現可能だ。

NPO法人環境エネルギー政策研究所長 飯田哲也 氏
飯田哲也 氏
(いいだ てつなり)

飯田哲也(いいだ てつなり)氏のプロフィール
1959年山口県生まれ。京都大学原子核工学専攻修了。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。大手鉄鋼メーカー、電力関連研究機関で原子力研究開発に従事した後に退職、現在、NPO法人環境エネルギー政策研究所長のほか複数の環境NGOを主宰。21世紀のための再生可能エネルギー政策ネットワークREN21理事、国際バイオマス協会理事、世界風力協会理事など国際的活動も。民主党政権で中期目標達成タスクフォース委員、行政刷新会議の事業仕分け人なども務める。主な著書に「北欧のエネルギーデモクラシー」(新評論)、「グリーン・ニューディール―環境投資は世界経済を救えるか」(共著、NHK出版)、『日本版グリーン革命で経済・雇用を立て直す』(共著、洋泉社新書)、など。

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