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人を引きつける国に-日本の地域『新生』ビジョン

三菱総合研究所 理事長、前 東京大学 総長 小宮山宏 氏

掲載日:2011年4月7日

日本記者クラブ主催記者会見(2011年4月6日)から

三菱総合研究所 理事長、前 東京大学 総長 小宮山宏 氏

小宮山宏 氏

 

今日、「日本の地域『新生』ビジョン」を菅首相に提出してきた。今回の大震災を教訓に日本社会を再生するには、東北地方を単に復旧するのではなく、2050年を見据えた長期的な復興ビジョンが必要で、さらに日本全体が世界の人々を引きつけるような国に新生できるビジョンをつくることを提言したものだ。それはできると私は考えている。その根拠は、今回の地震が起きる前から始めている地域から日本を活性化するわれわれの取り組みにある。この「プラチナ構想ネットワーク」には全国105の自治体が会員となっており、地震の被災地である宮城、青森、秋田、山形の県知事や市長も参加している。

太平洋戦争後、さらにさかのぼれば明治維新以降、日本は欧米の産業技術を導入し、GDP(国内総生産)を増やすことで自分たちの生活もよくなるということでやってきた。明治維新のちょうど100年後、1968年に日本のGDPが世界2位となった時点で、それは達成されたといえる。「坂の上の雲」を目指している時代から「坂の上の雲」の中に突入したのだから、その先は自分たちで考えて新しい国をつくり出す時代に入った。それはそれまでの途上国型ではなく、自分たちの暮らしをよくすることを目指し、その結果として新しい産業が強くなる国へということだ。

中央が産業導入して国を豊かにしようという時代から、地域、市民が主になって自分たちの暮らしをよくしたいとする時、何が必要とされているか。それを示したのがプラチナ社会構想だ。プラチナ社会を目指していくには、固定観念にとらわれず社会の仕組みを大きく変える必要がある。大震災を機会に、被災地域を快適で魅力的な地域として新生することで世界に誇る日本をつくるのだ。今回の震災で応急の措置が必要になっているのは当然だが、長期を見据えた投資、2050年を見据えた復興ビジョンが必要だと考える。

民主党政権が掲げたキーワードは「コンクリートから人へ」だった。この大震災によって、再びコンクリートの大量投入にならないか、と心配している。それはカンフル剤でしかなく、雇用の需要も数年で終わってしまう。このところ関東大震災後の東京復興にあたった後藤新平の評価が上がっている。後藤は確かに偉かったが、後藤にはロンドンやパリといったモデルがあった。われわれにはない。日本の人口構成は65歳以上が23%になっている。各先進国も20%に近づいており、中国も2014年には生産年齢人口といわれる15-64歳の人数が減り始める。中国もすぐに高齢社会に入ることになり、中国が高齢社会になるということは世界がなるということだ。高齢化社会は安定な社会であって、悪いことではない。少子高齢化が進む被災地の「新生」を日本の「新生」につなげればよい。

福島第一原子力発電所事故の教訓を生かしたエネルギー戦略の新生も重要だ。元々、私は原子力エネルギーは20世紀後半から21世紀半ばまでのつなぎのエネルギーと考えていた。自然エネルギーの利用を加速させるよいきっかけになる。太陽エネルギー、風力、バイオマスが3つの柱になると考えているが、例えば日本の林業の自給率は25%にすぎない。森林国である日本で林業が成り立たないはずはなく、できないのは社会的な理由しかない。パルプ材、木材の利用を増やせば間伐なども増え、大量のバイオマスも出てくる。大量の雇用を生み出す可能性も大きい。

エネルギーを考える時に私が主張し続けていることは、快適な生活をしながらエネルギー効率を上げることができる、ということだ。これが重要なメッセージだと思っている。

歴史を顧みるとエジプト、唐、スペイン、英国などそれぞれの時代に文明の先端にいた国々があった。だから夏目漱石はロンドンに留学した。私が若い研究者だったころそれは間違いなく米国だった。なぜ米国へ行ったかと言えばポスドクの給料を豊かな米国が払ってくれたからだが、同時に米国が文明の先端にいたからだ。それぞれの時代にある国が文明の先端にいたというのは単に経済的な理由からだろうか。中国が将来GDPで一位となった時に、文明の先端にある国になれるだろうか。同じような物をたくさんつくってGDPが世界一になっても世界の中心にはなれない。それは、文明が次にどこへ向かうかを実践している国でないと人を引きつけることはできないからだ、と私は思う。

日本がどういう国を目指すかはこれから議論すべきことだろうが、今のところわれわれが考えるのはプラチナ社会だ。エネルギーとか環境とか、高齢社会といった新しい課題を抱える社会を、人類がいかに生き生きとしたものにつくり変えていくか、がこれからの競争ではないだろうか。課題先進国日本が課題解決先進国となって世界に足跡を残すチャンスが訪れている、と私は考えている。

三菱総合研究所 理事長、前 東京大学 総長 小宮山宏 氏
小宮山宏 氏
(こみやま ひろし)

小宮山宏(こみやま ひろし)氏のプロフィール
東京都立戸山高校卒。1967年東京大学工学部卒、72年東京大学大学院化学工学専門課程博士課程修了、88年 東京大学工学部教授、2000年工学部長、大学院工学系研究科長、03年副学長、05年総長、09年三菱総合研究所理事長。09年12月科学技術振興機構が設立した低炭素社会戦略センターの初代センター長にも。自宅を太陽光発電やヒートポンプを取り入れたエコハウスとし、温室効果ガス削減を実生活でも実践していることでも知られる。著書に『Vision 2050 -Roadmap for a Sustainable Earth』(Steven Kraines)、「サステイナビリティ学への挑戦」(岩波書店)、「『課題先進国』日本:キャッチアップからフロントランナーへ」(中央公論新社)など。

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