日本最東端の南鳥島沖の深海底から回収したレアアースについて、総量の半分以上がハイテク製品などに有用で貴重な元素類の「中重(ちゅうじゅう)レアアース」であることが確認された。内閣府と海洋研究開発機構(JAMSTEC)が7月24日、地球深部探査船「ちきゅう」による採鉱試験での回収物の分析結果として発表した。今回の中重レアアースはイットリウムなどで、回収した総量は明らかにされていない。2027年2月から同じ海域で本格的な採鉱試験を実施する予定という。
日本はレアアースの供給の多くを中国に依存しているため、より安定した供給元の確保が経済安全保障上の重要課題となっている。今回の試験結果を受けて国産化への期待が膨らむが、商業ベースで採算に乗せるには大量の泥を継続的に回収し、輸送・分離・精製・精錬に至る生産システムを構築する必要がある。多大なコストをかけても採算が取れるのかなど、国産化の実現に向けては解決すべき課題が多い。

内閣府プロジェクト「SIP」の一環で実施
ちきゅうを活用した一連の採鉱計画は、内閣府の研究プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の第3期海洋課題「海洋安全保障プラットフォームの構築」(石井正一プログラムディレクター)の一環だ。SIPでは第2期の2022年、茨城県沖の海底から堆積物を揚泥する試験に成功。23年度に始まった第3期5カ年計画では、南鳥島沖海底での採鉱の実証と採鉱後の分離・精製・精錬までの生産システムの検証を盛り込んでいる。
南鳥島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)にレアアース資源が存在することは、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授らによる先駆的な調査で明らかになっていた。加藤教授らは太平洋中央部や南東部の海底の泥にレアアース資源が存在することを2011年に発表。翌12年に南鳥島周辺のEEZ内海域の海底にも存在することを報告し、大きな話題となった。

2013年には、JAMSTECの深海調査船「かいれい」が深さ最大5800メートルの海底で採取した泥から高濃度のレアアースを検出したとJAMSTECと加藤教授らが発表した。この成果を受けて資源量評価や採鉱技術などの研究が進み、その後のSIPによる国家研究プロジェクトにつながった。
ちきゅうによる今回の採鉱計画の正式名称は「レアアース泥採鉱システム接続試験」。これまでの調査結果の蓄積を生かし、国産化を目指した大量採鉱のための試験という位置付けだ。並行して海底設置型観測装置「江戸っ子1号」などを海中に配置して、採鉱に伴う影響などを調べた。
また、今回の試験は、石油・天然ガス掘削用の「ライザー掘削方式」に新たな独自技術を加えた「閉鎖型循環方式」の実証実験の意味もあった。この方式は、採鉱時に発生する浮遊物質(懸濁物)の漏れや拡散を抑え、海洋環境への負荷を低減することを目指すものだ。


半導体製造に必要なイットリウムが約30%
JAMSTECによると、ちきゅうは今年1月12日に静岡県の清水港を出港。17日に南鳥島沖に到着し、閉鎖型循環方式の作動確認とともに31日から2月2日の3日間、ちきゅうから海底に向けてパイプを延ばし、水深5569メートル(揚泥管の長さ)の海底に採鉱機を下ろした。海底下のレアアース泥を解きほぐし、船上まで連続して引き揚げる試験を実施した。
2月1日、レアアース泥を船上に引き揚げたことを確認した。揚泥の重量は作業の過程で加えた海水を除いて約50トンだった。採鉱システムが安定して稼働するのかを確認する作業も終え、ちきゅうは14日に帰港した。
その後、JAMSTECが中心になって泥の成分を分析した結果、レアアース総量の29.9%がイットリウム、4.9%がガドリニウム、4.6%がジスプロシウム。その他を合わせて53.9%が中重レアアースだった。残りはネオジムなどの「軽レアアース」だった。

中重レアアースは、レアアースのうち原子量が比較的重いグループの名称で、幅広い分野で欠かせない。イットリウムは発光ダイオード(LED)や半導体製造装置の部材などに、ガドリニウムは中性子吸収材として原子炉の制御などに、ジスプロシウムは電気自動車(EV)の駆動モーターなどに、それぞれ使われている。
このように先端産業で重要であるにもかかわらず、現在、中国への依存度が高い元素が多い。分析結果を発表した際に記者会見した内閣府プログラムディレクターの石井氏は、貴重な中重レアアースを日本のEEZ海域から採取できたことについて「大きな価値があると思っている」と述べた。


来年2月から生産プロセスの本格試験
石井氏によると、今後、大規模な採鉱試験の準備を加速する予定で、経済性・採算性を含めた総合評価が可能になるという。政府は昨年11月に閣議決定した「『強い経済』を実現する総合経済対策」で「エネルギー・資源安全保障の強化」を掲げ、「南鳥島周辺海域でのレアアース生産に向けた研究開発等、国内外における資源開発の推進」を打ち出している。
つまり、レアアースの国産化は、経済安全保障上のサプライチェーン確保という「国策」でもある。こうした政府の大方針の下、内閣府とJAMSTECは採鉱から分離・精製・精錬までを含む一連の国産化プロセスの構築を進める。2027年2月には南鳥島を拠点とする国産化・産業化を見据えた一貫した生産プロセスの実証試験を始める予定だ。
この実証試験は1カ月ほど続け、1日当たり約350トンを目標に泥を採取する。南鳥島に運んで脱水し、国内で精製を試みる。本格的な採鉱に向けて、航空機を利用した人員輸送の方法も検討するという。

「国産化へ欧米との国際連携も必要」
レアアース国産化への道を開いた加藤教授は、海底鉱物資源開発の視点から南鳥島沖EEZ海域の深海底に大量に存在するとみられるレアアースに期待を寄せる。日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)が2025年12月に開いた「月例会」で加藤教授は、これまでの調査で放射性物質をほぼ含まないことが分かっていることなど、資源としての特長を紹介した。
加藤教授は、中国が既に南鳥島のEEZに近接する公海上で海洋資源の調査・開発を加速させているとして、日本も開発を急ぐ必要があると強調した。今後はレアアース資源開発に意欲を示す米国や、石油開発などを通じて高度な深海揚泥技術を持つ欧米諸国との連携も必要になるとの見方を示している。
これまでの講演や公表資料によると、加藤教授はレアアースを「日本を資源大国にする貴重な資源」と捉え、探査や揚泥、分離・精製・精錬、監視などを一体化した新たな海洋産業の形成に期待を寄せている。

ただ、国産化の実現はそう簡単ではなさそうだ。「水深6000メートルで設備を長期間安定稼働できるか」「大量の泥を引き揚げる際の手間とコスト、特に中重レアアースを低コストで分離・精製できるか」「採鉱現場付近で脱水、一時処理するための施設建設の可否」「採鉱による海洋環境への影響評価」「採鉱後の残土処理の問題」など大小さまざまな課題が残る。

「巨額投資の経済性、慎重に見極めを」
加藤教授らとともにレアアース研究の第一人者である東京大学生産技術研究所の岡部徹教授は、精錬や資源循環の視点から経済性を慎重に見極める必要があるとの立場だ。南鳥島沖のレアアース泥採鉱の成功に関して共同通信が岡部教授にインタビューして3月に配信した記事によると、岡部教授は「基礎研究としては重要」としながらも、巨額の投資には慎重な姿勢を示している。
その上で岡部教授は、オーストラリア産のレアアース原料をマレーシアで分離・精製して日本に運ぶルートやベトナムで分離・精製する取り組みを挙げ、供給源の多角化を進める必要性を指摘した。そして、国家戦略としてレアアースが安価な時に10年分を備蓄することも提案している。
日本のレアアース研究の「双璧」と言える加藤教授と岡部教授は、レアアースが日本の産業に極めて重要で、関連するさまざまな技術を国内で開発する重要性については一致している。ただ、南鳥島沖のレアアース泥に含まれる貴重な中重レアアースを、ただちに国産化できるわけではない。採鉱から輸送、分離・精製・精錬、残土処理までの総コストを明らかにし、その上で、備蓄と調達先の多角化やリサイクルなど他の供給安定化策とも比較する必要がある。
中重レアアースのように貴重な資源を開発する価値は、供給の途絶に備える経済安全保障上の意味合いもあり、単純に採算性だけでは測れない面がある。SIP第3期の最終年度である2028年3月までに行われる総合評価では、技術的な実現可能性と経済性をそれぞれ検証した上で総合的に検討することが求められる。
関連リンク
- JAMSTEC「南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について」
- SIP「海洋安全保障プラットフォームの構築」