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レビュー

AI普及で環境負荷が拡大 「軽減策が必要」と国連大学研究所が報告書

2026.06.16

内城喜貴 / 科学ジャーナリスト

 人工知能(AI)の進歩はめざましく、特に生成AIの利用拡大で私たちの暮らしや働き方は急速に変わりつつある。18世紀後半からの産業革命に匹敵する「AI革命」との見方もある一方で、膨大な情報処理を支えるデータセンターの電力消費が新たな課題となっている。国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターの電力消費量が2030年までに現在の2倍以上に拡大すると予測している。

 こうした中で、国連大学の水・環境・健康研究所(UNU-INWEH)は、電力消費による温室効果ガスの増加だけでなく水や土地の使用量も増えるとして、環境負荷対策の重要性と電力を節約する生成AIの使い方などを訴える報告書をまとめた。AIの進化と利便性の傍らで見落とされがちな環境への影響にも目を向ける必要がありそうだ。

製造業や産業構造の歴史的進化の4段階。今や「インダストリー4.0」の次の「AI革命」の段階に入ったとの見方もある(UNU-INWEH提供)
製造業や産業構造の歴史的進化の4段階。今や「インダストリー4.0」の次の「AI革命」の段階に入ったとの見方もある(UNU-INWEH提供)
AIの急激な普及に伴う電力消費増と、環境負荷の問題・対策などを提言したUNU-INWEHの報告書(UNU-INWEH提供)
AIの急激な普及に伴う電力消費増と、環境負荷の問題・対策などを提言したUNU-INWEHの報告書(UNU-INWEH提供)

世界の電力需要は年4%増

 IEAは2025年、AIの急激な普及・利用拡大と電力需要に関する2つの報告書を公表した。1つは2月14日付の「Electricity 2025」で、世界の電力需要は27年までに年に約4%のペースで増加するとの試算を紹介している。25年から3年間の増加総量は合計で約3500テラワット時(テラは1兆で、1テラワット時は10億キロワット時)に達し、27年の電力需要は3万2542テラワット時になると予測した。

 その背景として報告書は、AIや電気自動車(EV)の普及が大きいほか、5G通信網や電化された産業設備の増加、エアコンの需要増などもあり、世界中の社会が電気をより多く必要とする「電気の時代」が到来しつつあると指摘した。例えば、電力需要が大きく増える中国では、EVや太陽光パネル、バッテリー、半導体の製造のほか、エアコンやデータセンターでの電力消費も増えるという。

 報告書は、こうした電力需要の伸びの85%は中国やインドなどの新興国によるものだとの見通しを示した。一方、日本を含む先進国は全体の伸びの15%。近年、先進各国の省電力の推進などにより需要が伸びていなかったが、再び拡大するとみている。特に米国は、AI普及によるデータセンターの需要が大きな要因との見方を示した。

 2027年までの需要増は、ほぼ「低炭素電源」でまかなわれるとみられる。太陽光や風力といった再生可能エネルギーが拡大するほか、フランスなどで原発利用が復活するからだという。25年には再エネが石炭火力を上回り、21世紀で初めて石炭火力の比率が33%未満になる一方で、中国やインドが完全に脱炭素を実現するには、まだ時間がかかると指摘した。

IEAの報告書「Electricity 2025」で使われた電力需要増のイメージ画像(IEA提供)
IEAの報告書「Electricity 2025」で使われた電力需要増のイメージ画像(IEA提供)

「AI革命」を支える電力

 もう1つのIEA報告書は、2025年4月10日に公表された「Energy and AI」だ。AIとエネルギーの関係を包括的に分析した初めての報告書として注目された。その冒頭で「AIはかつての電気のような汎用技術として台頭しつつある」「学術研究の対象だったAIが、ここ数年で数兆ドル規模の市場価値とベンチャー投資を伴う巨大産業に変貌した」と指摘した。

 AIモデルの学習や運用には、膨大な計算能力が必要だ。そのために、多くのサーバーを集積し、データ保存装置やネットワーク機器などを収容するデータセンターが必須となる。報告書は、データセンターの電力需要は2030年までに2倍以上も伸びて945テラワット時になると予測した。

 こうした増加分の大半は米国が占めてトップ。次いで中国が続く。米国では、2030年までの電力需要の増加分の半分はデータセンターが占めると指摘している。米国だけでなく先進各国を中心に35年の世界のデータセンター電力需要は、約1200テラワット時に達するとのシナリオが有力だという。

オランダ・エームスハーベンにあるグーグルのデータセンター。風力発電施設に囲まれている(UNU-INWEH提供)
オランダ・エームスハーベンにあるグーグルのデータセンター。風力発電施設に囲まれている(UNU-INWEH提供)

 また、AIの急速な普及の背景にはスーパーコンピューターの性能の飛躍的な向上や、データ量の爆発的な増加、アルゴリズムの革新があるとし、特に大規模言語モデル(LLM)の登場により、AIは社会実装の段階に入っていると明記している。既に「AI革命」は進行しているともいえ、それを支える電力の需要が増えるのは必然となる。

 報告書によると、例えば、文章の生成には1~2ワット時程度、高度推論モデルは数ワット時、短い動画の生成に数十ワット時の電力を消費するという。こうした利用が拡大するのに伴い、大型データセンターは1つで約10万世帯分に相当する電力を消費し、先進国で建設中の超大型のセンターの電力消費量は最大200万世帯分にもなると指摘している。

 この報告書の特徴は、AI革命は単なるデジタル革命ではなく、電力革命にもつながるとの視点を示していることだ。AIが今後どれだけ発展し、進歩するかは、半導体の新たな研究開発に加え、電力網や発電設備といったインフラ政策によっても左右されるとし、AIとエネルギーは切り離せない関係にあると強調している。

IEAの報告書「Energy and AI」に掲載された地域別データセンター電力消費量の実数と2030年までの「基準シナリオ」による見通し(IEA提供)
IEAの報告書「Energy and AI」に掲載された地域別データセンター電力消費量の実数と2030年までの「基準シナリオ」による見通し(IEA提供)
データセンターの基本構成の模式図。UPSや送電網接続、非常用発電機、冷却設備、通信回線などが配置されている(IEA提供)
データセンターの基本構成の模式図。UPSや送電網接続、非常用発電機、冷却設備、通信回線などが配置されている(IEA提供)

温室効果ガス、水、土地の問題も

 IEAの2つの報告は国内外の多くのAIの専門家が引用し、AIの利用がエネルギー・環境問題と関連づけて論じられる機会が増えている。そうした中、UNU-INWEHが6月3日、AIの環境への影響が見落とされていると警鐘を鳴らす報告書「AIのエネルギー利用がもたらす環境コスト-炭素・水・土地フットプリント」を発表した。

 この報告書の特徴は、AIとエネルギー・環境との問題は電力消費だけではなく、発電に伴って排出される温室効果ガスのほか、AIの爆発的拡大に必要な巨大インフラを支える水や土地の利用、廃棄物の問題も忘れてはならない、としている点だ。

 この報告書も、AIとデータセンターの電力消費に触れている。2025年の段階でもフランスの年間消費量に匹敵する推定448テラワット時(4480億キロワット時)を消費し、30年には945テラワット時を上回ると予則した(IEAの予測値と同じ)。その上で、発電で排出される温室効果ガスはCO2換算で約4億トンに上ると見積もっている。これは英国全体の年間排出量に相当するという。

 AI関連の電力需要を支えるために使われる水は9兆3000億リットルになるとした。これは東京都の年間配水量の6倍近い量に当たる。また、2030年には発電設備などの土地が1万4000平方キロメートル以上も必要になるという。北アイルランドの面積とほぼ同じだ。AI関連のインフラは30年までに、年間最大250万トンの電子廃棄物を発生させる可能性があるとも指摘している。

スペイン・バルセロナに設置されているスーパーコンピューター「マレ・ノストルム5」。AIの急速な普及の背景にスパコン性能の飛躍的な向上がある(UNU-INWEH提供)
スペイン・バルセロナに設置されているスーパーコンピューター「マレ・ノストルム5」。AIの急速な普及の背景にスパコン性能の飛躍的な向上がある(UNU-INWEH提供)

生成AIで省エネするには

 生成AIは、利用者のスマホやパソコン内から応答するわけではない。端末からの要求に応じ、事業者がそれぞれ世界各地に設置した巨大なデータセンターのサーバー群が膨大な処理をして、端末に返答している。あなたの端末のAIがあなたの質問に答えるたびに、データセンターでGPU搭載のサーバーが稼働している。当然、電力を使う。

 UNU-INWEHの報告書で注目されるのは、生成AIへの不要な入力を減らすことも省エネにつながる一例として「ありがとう」「お願いします」といった付加的文言を減らした場合の省エネ効果を試算している点だ。対話型生成AI「チャットGPT」は世界で1日当たり推計25億回も利用されているとし、1回当たりの電力消費が0.42ワット時とすると年間383ギガワット時の電力が消費されているとした。

 簡潔に回答するようチャットGPTを設定するだけで、年間87~98ギガワット時の削減につながるという。これはアフリカのサハラ砂漠以南に住む約76万人が1年間に使う電力量に匹敵する。生成AIのやり取りを丁寧にしたい場合も、「不要な文言や必要以上のやり取りをできる限り減らす努力は環境負荷の軽減につながる」と考えた方がよさそうだ。

 報告書の公表に際し、UNU-INWEH所長のカブェ・マダニ氏は「技術の進歩が環境の限界を尊重しつつ人類の幸福を向上させることを確実にする、という国連の決意を示す報告書だ」とコメントした。

 AIは電力・エネルギー消費を増やすために「環境を悪化させる」との見方もある。ただ、AIの急拡大に歯止めをかけることは現実的ではない。ならば、環境負荷の軽減や環境対策にAIの力を利用することだろう。例えば、再生可能エネルギーの運用に際してAIをフルに活用し、気象データを解析して天候により変動する発電量を調整したり、発電設備・送電網の運用を最適化したりするなどだ。地球環境に限界がある中で、未来社会の省エネ化にAIの驚異的な力を借りることは理にかなっている。

カブェ・マダニ氏(UNU-INWEH提供)
カブェ・マダニ氏(UNU-INWEH提供)

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