大型ロケット「H3」6号機が近く、打ち上げられる。国産大型機で初めて、固体ロケットブースターを装備しない機体構成となる上に、昨年12月に8号機が打ち上げに失敗しており、復活フライトの成否がかかる。まさに二重の正念場だ。政府の基幹ロケットでは、小型の「イプシロン」も改良型の開発中に爆発を繰り返し、難航している。関係者は「危機的状況からの再起をかけた、負けられない戦い」と緊張を語る。

「これを乗り越えねば未来はない」
「6号機は元々『30(さんぜろ)形態』試験機として、新技術のチャレンジの場と考えていたが、再起の挑戦も合わさり、ハードル(の高さ)が倍になった。これを乗り越えないとH3の未来はない。本当に気を引き締め、打ち上げ成功に向けて携わる皆が緊張感を持って進めている」

先月13日の会見で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のH3責任者を務める有田誠プロジェクトマネージャは切々と語った。30形態はH3の最小の機体構成で、数字は主エンジンが3基、固体ロケットブースターが0本であることを意味する。国産大型ロケット史上初となるブースターなしの形態は、2023年のH3初号機打ち上げ前の時点では2号機でデビューする計画だったが、開発に時間がかかり、6号機として予定した昨年度の打ち上げも断念。搭載する衛星などの事情も踏まえて打ち上げ順を変更し、7、8号機を先に打ち上げた。ところが昨年12月、その8号機が失敗し、6号機に再発防止策を施すことになった。
4日時点の計画では、6号機は10日午前、鹿児島県南種子町のJAXA種子島宇宙センターで打ち上げる。大型衛星を載せず試験機とし、代わりにダミーの金属の重り1.6トンを採用。ただし打ち上げ機会を生かすため、大学や国内外の企業の超小型衛星6基を搭載する。
危機打開の転換点となるか
H3は2段式の液体燃料ロケットで、主エンジンは液体水素を燃料、液体酸素を酸化剤として燃焼する。昨年6月に運用を終了した先代の「H2A」と、2020年に終了した強化型「H2B」の共通の後継機で、JAXAと三菱重工業が開発している。政府は固体燃料の小型機「イプシロン」と共に、わが国が他国に頼らず、自律して宇宙開発利用を進めるための「基幹ロケット」に位置づける。6号機は全長57メートル、衛星を除く重さ271トン。

初号機は2023年3月、電気系統の異常で2段エンジンに着火できず失敗し、地球観測衛星を喪失した。対策を講じ、その後は昨年10月の7号機まで5回連続で成功した。安定運用の道筋が見えた矢先の8号機失敗に、関係者のショックは大きかった。
JAXAはイプシロンの改良型「イプシロンS」も開発中だが、2023年7月と24年11月に2段機体の燃焼試験で爆発を起こした。計画を見直し、2段機体をいったん従来型とほぼ同じに戻し、今年度の打ち上げを目指す。つまりわが国は現時点で、安定運用中と言える基幹ロケットを持ち合わせていない。宇宙開発利用の危機を打開する転換点となるか。H3の6号機は重責を負っている。
“苦しい時の助っ人”ブースター
大型ロケットの本体の両脇に、2本や4本付いている小さなロケットが、固体ロケットブースターだ。打ち上げ直後に重力を振り切って上昇するための“苦しい時の助っ人”となる。本体の主エンジンは液体燃料を使い、燃費が良く燃焼の調整もできるが、仕組みが複雑で、打ち上げの瞬間から単独で十分な推力を出すのは大変だ。重力が大きく、機体が燃料を満載した地上付近では、能力が不足しがちになる。そこでブースターが打ち上げ後の数分にわたり、飛行を援助する。

ブースターは固体燃料を使い、打ち上げ花火と同じ原理で仕組みが簡単だ。一気に大きな推力を出し、いったん着火したら燃料が果てるまで止まらない。液体燃料とは違い、燃料の合成ゴムや酸化剤などを練り固めており、扱いやすい。衛星の重さや投入軌道などに応じてブースターの数を加減すれば、主エンジンを無駄に大型化しなくて済む。H2AやH3だけでなく、米国の「アトラス5」や「SLS」、かつてのスペースシャトル、欧州の「アリアン6」など、世界の多くの大型機もブースターを採用している。
国産大型ロケットはこれまで、全てブースターを装備。H3も打ち上げ済みの7機のうち6機が2本(22形態)、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給機「HTV-X」を搭載した1機が4本を装備(24形態)した。30形態の登場により、H3の基本ラインナップが出そろうことになる。なお、H3のブースターは相乗効果を狙い、開発中のイプシロンSの1段機体と同じ物だ。
基本型、低コスト化の切り札
一方、能力が小さくて済む打ち上げでは主エンジンを1基増やし、ブースターをなくしてコスト低減を図る。これが30形態だ。地球を南北に回る太陽同期軌道に4トンの打ち上げ能力を持ち、主に政府の地球観測などの衛星を搭載する。先代のH2Aの基本型(ブースター2本)の半額を目指すとしたH3の基本型であり、低コスト化の切り札だ。なお、H3の開発当初、30形態の打ち上げ費用は50億円程度とされた。これはあくまで当時の物価や為替水準による価額だが、「H2Aの半額」の目標は変えていないという。

6号機の昨年7月の地上燃焼試験では、燃料タンクの圧力が十分に上がらない問題が発生。原因は主エンジン3基のうち1基の系統で、コスト削減のため、タンクの加圧ガス弁を取り付けなかったことだった。ガスの流量を調整する対策を講じ、今年3月の再試験で対策の有効性を確認したという。こうして、いよいよ6号機の打ち上げに踏み切る。
ブースターのない打ち上げについて、有田氏は「エンジン3基がきちんと働くことが大事。それができない場合に備え、(主エンジンが十分な推力を出すまで、機体を発射台に押えつける)ホールドダウンシステムもある。打ち上げ後は初速が小さいため、風の影響を受けやすい。より繊細な判断が必要になるので、頭を悩ませるだろう」と説明する。
失敗原因のアダプターに対策
H3ロケット8号機は昨年12月22日、政府の準天頂衛星を載せて打ち上げられたが、失敗した。原因は、2段機体に衛星を載せるアダプターの内部で製造時に生じた剥離が、飛行中の衝撃で広がったことだった。
検証の結果、次のような現象が起こったとみられると判明した。アダプターの製造時、部材を貼り合わせた部分の周辺で、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の表面と、アルミ製の内部との間が想定以上に剥離した。この剥離は、貼り合わせの工程で部分的に高温になって接着力が弱まり、かつアダプター内の空気が温まって膨張したことで発生した。打ち上げ時に機体が真空に近づき、圧力差などで剥離が拡大。フェアリング(衛星カバー)分離時の振動で破壊が広がった。それが2段燃料タンクの配管の損傷を引き起こしたようだ。

衛星搭載アダプターの組み立ては、H2Aではボルトで固定する方法を採用していた。H3では軽量化や低コスト化のため、CFRP製の部材で貼り合わせる方法に変更した。しかし製造時の高温や接着力低下、内部の空気の影響による剥離を、開発段階に想定できていなかったという。
再発防止のため、今後の打ち上げでは当面、H2Aで採用していたボルト固定に補強策を加えることにした。ただし今回の6号機は試験機のため、製造済みのアダプターを補修して使用する。補修により強度が十分であることを確認済みといい、8号機失敗の原因究明の正しさの検証やデータの取得に役立てる。
打ち上げはどんな姿に
さて、気になるのは30形態の打ち上げの光景だ。物事が当初から勢いよく進むことを意味する「ロケットスタート」という言葉とは裏腹に、実際に種子島でロケットの打ち上げを見ると、発射台からゆっくりと持ち上がる姿が印象的だ。ブースターがないと、体感的にさらに緩やかな上昇になるのだろうか。
JAXAは30形態の打ち上げシーンを予想した動画を制作し、公開している。有田氏に予想を求めると、この動画に触れつつ実に慎重に語った。「炎が透明になると思い、ロケットだけが浮くようなCGにしてもらった。ただ実は、主エンジンの燃焼試験では意外に、メラメラとしたオレンジ色の炎が見えた。これは(燃料の水素のごく一部をノズルの冷却に使う)フィルム冷却の水素が見えたのだと思う。これが(実際の打ち上げで)大空を背景にした時、全く見えないかもしれないし、ややオレンジがかって見えるかもしれない。(エンジンから排出される高温ガスの)プルーム噴流は水蒸気が主成分で、冷えると雲のようになるので、飛行機雲のような白い航跡が出る可能性はある」
では、音は? 「予想が非常に難しい。理論的には比推力が大きい(燃費が良い)エンジンの方がうるさいが、感覚的にはブースターの方が、激しく燃えるなどして音が大きい気がする。30形態は今までのブースターを主とした音とは違い、スマートな音を立てて飛んでほしい。何らか、音色が違っていてほしい」
6号機の1段機体が種子島に運ばれてから、実に3年5カ月が経とうとしている。ロケットの開発者はもちろん、宇宙開発利用の命運を懸けて祈る関係者、搭載する衛星6基の当事者、光景が気になるロケットファン…この日を待ち焦がれた多くの人が、さまざまな思いで見つめる打ち上げとなる。

関連リンク
- JAXA「H3ロケット6号機(30形態試験機)特設サイト」
- ユーチューブJAXAチャンネル「H3ロケット6号機(30形態試験機)フライトシーケンスCG」