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レポート

デジタル関連と自然免疫の3博士に日本国際賞 授賞式と記念講演会

2026.04.27

長崎緑子 / サイエンスポータル編集部

 世界の科学技術分野において独創的で飛躍的な成果を挙げ、人類の平和と繁栄に著しく貢献した科学者に贈る日本国際賞(Japan Prize)の授賞式が4月14日、天皇、皇后両陛下を迎え、東京都渋谷区の新国立劇場で開かれた。15日には記念講演会があり、受賞者がそれぞれの研究について話した。

天皇、皇后両陛下(中央右側)も出席された日本国際賞の授賞式(東京都渋谷区)
天皇、皇后両陛下(中央右側)も出席された日本国際賞の授賞式(東京都渋谷区)

 授賞式と記念講演会は、日本国際賞の事業を担う国際科学技術財団が開いた。「エレクトロニクス、情報、通信」分野の受賞者であるハーバード大学コンピュータサイエンスのシンシア・ドワーク教授と、「生命科学」分野の受賞者である大阪大学先端モダリティ・ドラッグデリバリーシステム研究センターの審良(あきら)静男特任教授、テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンターのジージャン・チェン教授の3博士が参加した。

日本国際賞を授賞したハーバード大学のシンシア・ドワーク教授(左)と、大阪大学の審良静男特任教授(中央)、テキサス大学のジージャン・チェン教授(東京都渋谷区)
日本国際賞を授賞したハーバード大学のシンシア・ドワーク教授(左)と、大阪大学の審良静男特任教授(中央)、テキサス大学のジージャン・チェン教授(東京都渋谷区)

「科学技術を最良の形で活かす方法を模索する努力を」

 授賞式では、天皇陛下が「受賞者の皆さんが、それぞれの研究を通じて、人々の暮らしの安全と利便性の向上、また、医療や予防の発展に大きく貢献されてきたことに深く敬意を表します」と述べ、「今回の授賞対象分野を始め、近年、世界が地球規模で直面する課題は、ますます多様化し、複雑化してきており、そのような中で科学技術が果たすべき役割は一層重要になってくるものと思います。私たちが、より広い見識の下、様々な分野の叡智(えいち)を結集し、互いに力を合わせることにより、地球の未来のために、そして、人類の持続的な発展に向けて、科学技術を最良の形で活(い)かす方法を模索する努力がなされることを願っています」と語った。

おことばを述べる天皇陛下(東京都渋谷区)
おことばを述べる天皇陛下(東京都渋谷区)

大谷翔平選手を例に「差分プライバシー」を説明

 記念講演会では、最初にドワーク教授が登壇。受賞業績「差分プライバシーや公平性などの倫理的なデジタル社会構築に向けた先導的な研究への貢献」のうち差分プライバシーを取り上げ、「Differential Privacy: Public Methods for Private Data(差分プライバシー:個人情報の保護とデータの公共的活用を両立する方法)」と題して講演した。

 「差分プライバシー」とは、「ある1人の情報が入った集団と入っていない集団から得た統計処理結果の差分を取り出せなければ、その人の情報は漏れない」という発想を元にした理論計算機科学の難しい概念だ。ドワーク教授は、身近な歯科衛生とロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手を取り上げ、「『ドジャースの選手のうち何人がデンタルフロスを使っていますか?』という質問への回答データと、『ドジャースの選手は大谷翔平選手以外に何人がデンタルフロスを使っていますか』という質問への回答データの違いから大谷選手がデンタルフロスを使っているかどうか分かりますよね」と説明した。

 また、米国の2010年の国勢調査データについて公表されているデータと、市販されている個人名が入っているデータをリンクさせることで個人が特定できた例などを示しながら、どのくらいデータを守りたいかに合わせて計算で導いたノイズをデータに加えることで、プライバシーが守られる過程を紹介。輪郭がハッキリした写真と少しぼけた画像を並べたスライドを示し、「差分プライバシーの考え方は、プライバシーを守るために少し絵を不鮮明にする感じです。モネの描く睡蓮なども想像して下さい。鮮明、不鮮明どちらが本物と決められない」と、統計データにノイズを加えることでどうプライバシーが取り出せなくなるかを説明した。

パトロールする「警察」、侵入を感知する「泥棒アラーム」

 続いて審良特任教授が受賞業績「自然免疫システムにおける核酸認識メカニズムの解明」におけるTLR(Toll-like Receptor=Toll様受容体)の発見に至るまでの研究過程から、最近、力を入れている研究成果について「From Nucleic Acid Sensing TLRs to Endoribonuclease Regnase-1(核酸認識Toll様受容体からエンドリボヌクレアーゼRegnase-1へ)」と題して講演した。

 インターロイキン6など免疫応答や炎症反応の調節を担うサイトカイン(情報伝達物質)に関する発見をもとに、特定の遺伝子を破壊したノックアウトマウスの作製を繰り返すうちに、体内に入り込むウイルスや細菌といった病原体由来の核酸を感知するタンパク質を発見したことを紹介した。

 最近は核酸分解酵素であるレグネース-1(Regnase-1)の研究に力を入れており、TLRの活性化のような情報伝達経路を明らかにするとともに、自己免疫疾患の治療などへの応用を目指しているという。

 審良特任教授とともに受賞したチェン教授は「Igniting a Flame with cGAS -How DNA triggers Inflammation and many diseases?(炎症の引き金となるcGAS-DNAはいかにして炎症を誘発し、多くの疾患を引き起こすのか?)」と題して講演した。自身が発見した酵素cGASを介してDNAが引き起こす「炎症(inflammation)」と、研究に対する自分の「情熱(flame)」を掛詞にしたタイトルだ。

 cGASがあることで低分子cGAMPとタンパク質STINGが結合し、自然免疫が活性化するという細胞内での情報伝達経路を説明。ウイルスや細菌などの体内への侵入をいち早く感知し、防御反応を開始する重要な役割を担っていることを紹介した。一方、自己の核酸も認識することで自己免疫疾患を起こしてしまうといい、治療薬への応用にも取り組んでいるとした。

 審良特任教授が多く発見したTLRとチェン教授が発見したcGASは、ともにDNAやRNAなどの核酸を感知するセンサーとして働く。チェン教授は、「TLRは警察のようなもので、家の外をパトロールする。でも悪者は家に入ってくる。それを検知するcGASは泥棒アラームみたいなものだ。泥棒アラームによって警察が呼び出されるように、cGASによって免疫が活性化していく」と例えた。

記念講演会で講演を終えたハーバード大のドワーク教授(中央)と、大阪大学の審良特任教授(右)、テキサス大学のチェン教授(東京都港区)
記念講演会で講演を終えたハーバード大のドワーク教授(中央)と、大阪大学の審良特任教授(右)、テキサス大学のチェン教授(東京都港区)

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