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レビュー

53年ぶり有人月周回に成功 アルテミス計画、4飛行士が無事帰還

2026.04.14

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 「世界の希望を月に運んだ」――米国とカナダの飛行士4人を乗せた米宇宙船「オリオン」が月上空を周回し、地球に無事帰還した。有人月周回は、アポロ計画で最後の月面着陸だった1972年12月のアポロ17号以来、実に53年ぶりで、人類到達の最遠方記録を更新する歴史的な一歩となった。今回は米主導の国際月探査「アルテミス計画」の試験飛行「アルテミス2」で、2028年には有人月面着陸を目指す。その後、日本人が月面着陸することで日米が合意済みだ。米航空宇宙局(NASA)は月面基地建設に注力し、上空の周回基地建設を休止するとの、大幅な計画変更を発表している。

地球に帰還し、オリオンを後にした4人の飛行士。機体の右に横付けされたいかだに、オレンジ色の宇宙服を着て座っている=日本時間11日午前(NASAテレビから)
地球に帰還し、オリオンを後にした4人の飛行士。機体の右に横付けされたいかだに、オレンジ色の宇宙服を着て座っている=日本時間11日午前(NASAテレビから)

「私たちは月に戻った」

 日本時間11日午前9時7分、3つのメインパラシュートを開いた円錐(えんすい)台形のオリオンが、カリフォルニア州サンディエゴ沖の海面に、水しぶきを上げて着水した。待ち構えていたNASAと海軍の合同チームが複数のボートで急行し、4人を順次、オリオンに横づけした“いかだ”へと救出。4人はその後、ヘリコプターで引き揚げられて海軍の揚陸艦に運ばれた。NASAは、帰還時の全システムが設計通り作動したことや、9日間、112万キロの旅を終えた4人が健康であることを明らかにした。

 飛行したのは米国人で船長のリード・ワイズマン(50)のほかビクター・グローバー(49)、クリスティーナ・コック(47)、カナダ人のジェレミー・ハンセン(50)の各飛行士。コック氏は女性で電気技師、他の3人はいずれも男性で軍パイロットの経歴を持つ。

 トランプ米大統領はSNSに「旅全体が壮観で、帰還も完璧。これ以上誇りに思うことはない。次のステップは火星だ」と投稿し祝福した。

 NASAのジャレッド・アイザックマン長官は「4人が真に歴史的偉業を成し遂げたことをお祝いする。並外れた技能と勇気、献身を示した。今後は(次回飛行の)アルテミス3と月面への帰還、基地建設、そして月を諦めないという決意に向け、自信を持って取り組んでいく」と力説した。アミット・クシャトリヤ副長官は「4人は世界の希望を運んだ。私たちは月に戻った。未来は私たちの勝利のためのものだ」と成功を称えた。

亡き大先輩からのメッセージ

オリオンの想像図。後ろのエンジンが手前に描かれている(ESA、D・デュクロス氏提供)
オリオンの想像図。後ろのエンジンが手前に描かれている(ESA、D・デュクロス氏提供)

 オリオンは円錐台形の有人モジュール(区画)と円筒形の機械モジュールが連結した、長さ8.1メートル、幅5メートルの宇宙船。4人乗りで、形状は3人乗りのアポロ宇宙船と似ている。米航空宇宙大手のロッキードマーチン社が開発を主導した。欧州が製造を担当した機械モジュールからは、翼状の4枚の太陽電池パネルが延びる。アルテミス2での打ち上げ時の重さは、燃料を含め26トン。飛行士の居住空間はミニバン2台分に相当する9.3立方メートルで、アポロに比べ60%拡大した。

 元々、月探査を含む旧「コンステレーション計画」(2010年中止)などでの利用を主眼に開発が始まったが、アルテミス計画で日の目を見た形だ。米国人の発音に寄せて「オライオン」とも呼ばれる。

 日本時間2日午前7時35分、オリオンは大型ロケット「SLS」に搭載され米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられた。49分後、SLSの上段エンジンが点火し、地球上空の周回軌道に入った。オリオンがSLS上段機体から分離すると、飛行士らは操縦訓練や生命維持装置、通信システムの性能評価などを継続。翌日の3日午前には5分50秒かけてエンジンを噴射し、月に向かう遷移軌道に就いた。飛行5日目の6日午後1時41分、月の重力圏に突入した。

オリオンを搭載し打ち上げられるSLS=日本時間2日午前(NASA、ビル・インガルス氏提供)
オリオンを搭載し打ち上げられるSLS=日本時間2日午前(NASA、ビル・インガルス氏提供)

 翌6日目は、月の裏側に回り最接近する飛行のハイライトを迎えた。この日、4人が目覚めると、地球から特別なメッセージが贈られた。史上初の月周回を果たした1968年のアポロ8号に搭乗したジム・ラベル氏が、昨年8月に死去する前に収録した声だった。「ようこそ私の古巣へ。私はアポロ8号で初めて月を間近に見て、世界中の人々が感動し団結した。皆さんが月を周回し、火星探査の基礎を築くにあたり、このバトンを渡せることを誇りに思う。今日は歴史的な日で忙しいが、景色を楽しむことを忘れないで」。ラベル氏は70年、飛行中に酸素タンクの爆発を起こしながら生還したアポロ13号で、船長を務めた人物だ。

「この記録はすぐ破られるもの。次世代への挑戦状だ」

 7日午前2時56分、地球から40万170キロの距離を超え、ラベル氏のアポロ13号が樹立した記録を塗り替えた。この13号の記録は計画されたものではなく、爆発により月面着陸を断念したのを受けて経路を変更し、結果的に成立したものだった。オリオンは続いて午前8時頃、月面に約6545キロまで接近。その2分後、人類到達の最遠方記録を40万6770キロまで伸ばした。

月(左)の縁に沈む地球。オリオンが月の裏側を通過し、地球との通信が一時途絶する直前に撮影された(NASA提供)
月(左)の縁に沈む地球。オリオンが月の裏側を通過し、地球との通信が一時途絶する直前に撮影された(NASA提供)

 ハンセン氏は船内から地球に向け、こう呼びかけた。「記録を突破するにあたり、先人たちの並外れた努力と偉業に敬意を表する。何より重要なのはこの瞬間、記録がすぐ破られるよう、今の世代や次世代へと挑戦状を送りつけたことだ」。月への接近中、飛行士らは月面の多彩な地形のほか、月が太陽を覆い隠す日食、月の向こうへと地球が沈む“地球の入り”など実に7000枚以上の写真を撮影したという。

 翌8日午前2時23分、オリオンは月の重力圏を離脱。軌道変更のエンジン噴射を繰り返して帰路に就いた。11日午前8時33分、有人モジュールと機械モジュールを分離した。有人モジュールは同53分、地上122キロで大気圏に突入。予定された6分間の通信途絶や、減速用パラシュートとメインパラシュートの開傘を経て、サンディエゴ沖で旅路を終えた。

飛行中、オリオン船内で過ごす4人の飛行士(NASA提供)
飛行中、オリオン船内で過ごす4人の飛行士(NASA提供)

アポロ以来…単なる再訪ではない

 アルテミス計画は、米国が国際宇宙ステーション(ISS)に続く大規模な国際宇宙探査として主導。1972年のアポロ17号以来となる有人月面着陸を目指す。月面や月上空に建設する基地を拠点に探査や実験をして、将来の火星探査も視野に技術実証を進める。日本は2019年に参画を決定。欧州やカナダも参画している。

 今回のアルテミス2は2022年、オリオンが無人月周回飛行に成功した「アルテミス1」に続く試験飛行。アルテミス計画では初の有人飛行で、生命維持システムの実証が最大の目的だった。NASAは今年2月末、計画変更を発表。来年の「アルテミス3」では、それまで予定していた月面着陸をせず、有人のオリオンが地球上空で民間着陸船とのドッキング試験をすることにした。28年の「アルテミス4」で着陸に挑み、その後は年2回以上の頻度で着陸を目指す。

1969年、アポロ11号により月面に立つバズ・オルドリン飛行士(NASA提供)
1969年、アポロ11号により月面に立つバズ・オルドリン飛行士(NASA提供)

 アポロ計画では1969~72年の11~17号(13号を除く)の6回で計12人が月面に立った。アルテミス計画で再び月面を目指すが、これは単なる再訪ではない。アポロ計画は東西冷戦下で米国と旧ソ連(ロシア)が、国家の威信を賭けた宇宙開発競争の性格が強かった。68年にソ連は宇宙船にカメを載せて月の上空に送り地球に生還させたが、これが米国を焦らせてアポロ計画の進展を早め、有人月面着陸での米国勝利の要因になったともみられている。

 アルテミス計画のコンセプトはアポロとは大きく異なり、米国が主導しつつ、日欧などの参画を得る国際探査の位置づけだ。有人月面着陸を実現するのは同じだが、“行って生きて帰ってくる”という行為以上に、基地を構築するなどして探査や開発を持続的に進める狙いが大きい。NASAが2企業の月着陸船を採用するなど、民間の役割も大きくなる。

 月の極域の水を採取し、太陽電池で水素と酸素に電気分解すれば、燃料として月面開発や火星飛行に使えるとの期待もあり、月探査の意義の一つとされる。ただ実際に資源として利用できるほどの水があるかどうかは、今後の探査や研究を通じた解明が必要だ。

アルテミス2以降の新しい計画概要のイラスト。月面着陸はアルテミス4から実現する(NASA提供)
アルテミス2以降の新しい計画概要のイラスト。月面着陸はアルテミス4から実現する(NASA提供)

「トランプ氏任期中に着陸」月面基地に注力

 アルテミス2の飛行に先立つ先月24日、NASAはアルテミス計画の大幅な変更を発表した。予定してきた月上空の周回基地「ゲートウェー」の建設を休止し、月面基地の構築を優先する。2月末にも有人月面着陸の時期や宇宙船の運用計画、SLSの機体構成の見直しを発表したのに続き、さらに踏み込んで計画を再編する内容となった。一連の変更は、昨年12月の大統領令を反映したものだ。

 発表でアイザックマン長官は「トランプ大統領の任期(2029年1月まで)中に月に戻り、米国の先導力確立に取り組む」と述べた。「大国間競争で、物事の成否は年単位でなく月単位で決まる。NASAの資源を国家宇宙政策のために集中させ、パートナーの国と労働力や産業力を解き放つ」とも語り、同様に月面着陸や基地建設を目指す中国への対抗意識をにじませた。月面基地建設に7年間で200億ドル(3兆2000億円)を投じるという。

 月面基地計画は次の3段階で進める。【1 建設、試験、学習段階】商業輸送と探査車により月面活動の頻度を上げ、探査車や機器類、発電や通信、航法などの技術実証機を送る。【2 初期インフラ構築】ある程度の居住ができるインフラと定期輸送を構築する。飛行士が地表で定期的に活動する。日本の有人与圧探査車などの国際貢献も採り入れる。【3 長期滞在】大規模なインフラにより、定期的探査から恒久的月面基地へと移行する。

月面基地「第3段階」の想像図(NASA提供)
月面基地「第3段階」の想像図(NASA提供)

上空基地ゲートウェーは「休止」

 ゲートウェーは探査や実験、訓練の拠点、月面着陸の中継地などとして計画されてきた。建設休止が解除される時期は明らかになっていない。元々の計画では、月面に着陸する飛行士はオリオンで地球を発った後、いったんゲートウェーに滞在。そこから着陸船で月面に降り立つことになっている。ゲートウェーがない段階では、オリオンが宇宙空間で直接、着陸船に結合することになる。

 わが国はゲートウェーの居住棟の環境制御・生命維持機構や、地球から物資を届ける補給機などを提供することが決まっている。このほか、内部で飛行士が暮らせる月面与圧探査車を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車が開発中だ。2024年には、日本人が2回、月面に着陸することで日米が合意した。

オリオン(左)とゲートウェーの想像図(NASA、アルベルト・ベルトリン氏提供)
オリオン(左)とゲートウェーの想像図(NASA、アルベルト・ベルトリン氏提供)

 ゲートウェーへの物資補給機は、ISSに使われているJAXAの「HTV-X」の改良型を活用する計画だが、そのゲートウェーの建設が当分、進まないことになった。今回の変更はこれを含め、わが国の役割分担に影響を与える可能性がある。なおHTV-X改良型は、ISSの後継として建設される地球上空の民間基地へも向かう見込みだ。

 JAXAの山川宏理事長は「ゲートウェーに関しNASAは『pause(ポーズ)』の言葉を使っており、一時停止の意味合いだろう。そのタイミングは分からないが、少なくとも現時点でゲートウェーの技術開発、活用について引き続き取り組んでいる。われわれは定められたものに取り組み、有人与圧探査車を含め着実に開発していく。具体的には、NASAを含め関係機関と協議していくことになると思う」との見方を示している。

 NASAがゲートウェー構想を明らかにしたのが2017年。翌年には「ゲートウェーを通じ米国の優位を確立する」「(各国の)14の宇宙機関が月や火星、太陽系深部への進出のためゲートウェーが重要と合意した」との文書をまとめていた。その後の19年、ゲートウェーを含む国際宇宙探査を「アルテミス計画」と命名。トランプ氏が月面着陸の前倒しを求めるなどして、着陸を重視する性格が強まっていった。

 国際宇宙探査はこれまでも技術的要因のみならず、主導する米国の政局や国内事情を背景に変遷してきた。悪い言い方をすれば、世界が“振り回される”形ではある。とはいえ、人類が目指す次のフロンティアが隣の星、月であるという大局の方向性は、もはや揺るがないだろう。2024年の日米首脳共同声明で「アルテミス計画で、日本人が月面に着陸する初の非米国人になるとの共通の目標」を発表したことは、わが国の技術や人材への信頼の高さを物語る。今後も、計画がどう変わろうと強みを発揮して世界に貢献できるよう、得意分野をしっかり磨いていくことが大切だ。アルテミス2の成功は、そのことを改めて意識する機会ともなった。

 ちなみにアルテミスはギリシャ神話の女神で、男神アポロンとは双子の関係だ。アルテミスの純潔を望んだアポロンにだまされ、愛するはずのオリオンを死なせてしまう。こんな神話の内容に関わらず、アルテミス計画の目標が実りますように…。

NASAがアルテミス2の飛行前に公表していた行程の解説図。地球上空を2周し、8の字を描くように月との間を行き来する計画で、順調に推移した(NASA提供)
NASAがアルテミス2の飛行前に公表していた行程の解説図。地球上空を2周し、8の字を描くように月との間を行き来する計画で、順調に推移した(NASA提供)

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