人工知能(AI)やロボットが発展する世の中で、何を学び、身につけていけば良いのだろうか。今、災害や戦争で家をなくした人たちに科学は何を提供できるだろうか。このような不確実で物事が移り変わるサイクルが早い世界で、できることを考え、見つけようという「サイエンスアゴラ in 愛知」が2025年12月14日に名古屋工業大学で開催された。今回のテーマは「ものづくり」。昨年の大阪・関西万博で『null²(ヌルヌル)』パビリオンを作った落合陽一氏の講演から始まり、6つのワークショプが開かれた。

ロボットもAIも結び目「ノード」でつながる
筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター長の落合教授は、応用物理学が専門だ。だが、この専門にとらわれない学びを「計算機と科学の融合」と表現している。落合教授が手がけるパビリオンという建築物も、クラウドファンディングで作っている映画も、動画も、神社の禰宜(ねぎ)やDJをしているのも、全てが計算機科学の延長線上に存在するという。
そして、スマートフォンなどデジタルが普及している現代では、「自然」の定義が変わるのではないかと落合教授は指摘した。いま、「自然」というと生き物や山々、大海を指すが、デジタルの人工物が増えるに従い、「何万年後か、スマホが地層から出てくるかもしれない」。確かに、石器時代に「この石器や土器が地層から出てくる」と思いながら使っていた人はほぼいないだろう。
デジタルはここ最近の30年間で誕生したものが多いが、「デジタルネイチャー」の新時代では、ヒトだけでなく、ロボットも、ペットも、AIも、あらゆるものがネットワークやシステムを構成する結び目「ノード」によってつながっていると説く。

そのノードも、用語の定義も時代と共に移り変わる。自然崇拝の祭りの在り方も変わり、これまで豊作や疫病の根絶を願った祭りは、デジタルをあがめるものになる。そうして、宗教までもがアップデートされるというのが自説だ。ゆえに、落合教授は科学者という立場のみならず、禰宜にもなるし、DJにもなるのだという。
一見飛躍しているように思えるが、仏教の説話にも「網の目」というものがある。網は1つだけでは成り立たず、いくつもの網目がないとできないものだから、人との縁を大切にすべきだという教えだ。
なるほどそう考えると、文化、歴史、風土といった概念に、知覚や触覚といった人の感覚やデジタルの要素が加わり、「デジタルネイチャー」として、網の目のようにあらゆる項目が関連性を持つというのも、無理のない考え方といえるだろう。
既存の学問は窮屈 寺田寅彦の教え
落合教授がこの境地に至ったのは、物理学者で随筆家の寺田寅彦氏の逸話に依る。アブが乗ったツバキの花が落花するときの様子を描いた夏目漱石の俳句について、「ツバキは伏せたまま、アブを閉じ込めるように落ちるのか」と寺田氏は疑問を持った。この答えを得ようと植物学者に聞いたところ、「花が落ちた後は我々の研究対象でない」と答えられたというエピソードがあり、落合教授が「学問は窮屈だな」と感じたことへのアンチテーゼなのだ。

窮屈な学問よりも、自由な学問を求め、小学生の頃から計算機(パソコン)に親しんだ。大学、大学院でも研究を続け、2010年頃には、空中に絵を描き、ホログラムとして動かす方法を確立。自由で、真面目な物理学に取り組んできた。
その一つが「(人気ゲーム)『ポケットモンスター』のモンスターボールは物理的に何なのか」を議論したこと。モンスターボールから、質量6キログラムのピカチュウが出てくる現象から「ポケモンはデータじゃないと言われそうだが、高速にエージェント(触れられるデータの一種)を出力できる3Dプリンター」と結論づけるなど、面白さと学問を両立している。
その上で、今の小学生が大学生になる頃には「大学や学校が何のためにあるのか」という問いが浮上するだろうとした。来場した小学生には、今できることとして「Unity(ゲーム開発ツール)で、CGで遊ぶといいんじゃない」と呼びかけた。
何をAIがして、何を自分で行うか
では今後、大人や学生は何を学べば良いのだろうか。落合教授は「AI搭載のスマホはIQ150くらい。センター試験(大学入学共通テスト)を突破できる。スマホで解決できる時代にセンター試験やる意味あるんですか」と疑問を投げかけると、会場の大学関係者らは苦笑い。
そして、「ここに大学院生いますか」と尋ね、ちらほら手が挙がる中、「以前は論文を書くのは大変な技能だった。でも今は論文書くのはチャットGPTでしょ。どうですか、先生の前では言いにくいですか。『眠くて論文書けない』なんてないでしょ。論文のための実験データは取って、ハルシネーション(AIによる創造)はチェックしてね」とたたみかけると、学生らは笑いながらうなずいていた。
他方で、大学1年生には読書を勧めていた。大学院に進むと時間が取れないため、学部生の時に乱読の習慣を身につけるべきだという。落合教授は、古典から官僚向けの国会答弁に関する手引き書、ネコの辞典や日本の民話岡山編まで、手当たり次第本を読んでいるという。
大学の教員向けには、「大学教員に板書が多いのは、1時間チョークと黒板と向き合えば、1時間の労働ですむから。でも、パワポを睡眠中、AIに作らせるようにして、7~8時間寝て、120枚のスライドを作ってもらう。その中から20枚を使い、グーグル検索でAIと対話しながら授業進めていく方がライブ感あるでしょう。大学教員は漫談師みたいな仕事。ライブは喜ばれる。DJイベントだって、AIが作った音楽と映像に合わせて人間が跳ねる。AIがものをつくる時代ですよ」と述べた。
「かしこさ」がヒトの主たるものであることを認めつつ、デジタルを使いすぎる時代になって、「どうしようもない人が育つ」という意見もある。
落合教授は「例えば、筋肉の働きを考えたとき、現代では狩猟時代の筋肉は使っていない。(効率的に、簡便に仕事を進められる)スマホもメールも、将来漢字を使わなくなったとして、『今とどっちがいいですか』、というのはポピュリズムで、『手書きはなくならないほうが良い』という大衆に迎合しているだけ。効率化は予算を減らすことにつながるので、手書きをしない『コンビニ化』した社会でもいいんじゃないですか」と楽天的に話した。

今後については、「趣味っぽい研究がしたいですね。人工気候室っていうのがあって、気温や温度が一定の室内でワインを飲むとか。気温、温度の調整といえば、(ドラえもんの)どこでもドアがあればエネルギー問題は解決しますね。暑い・寒い場所を行き来できるから、暑いときは寒い場所に、寒いときは暑い場所に行けば良いので」と飄々(ひょうひょう)と語った。
講演を聞きに来たという60代の無職の男性は「デジタルの進化で、翻訳が瞬時に行えて、他の言語の人とでも会話できるようになったのは良い面だと思う。だが、デジタルに没入しすぎて、相手の気持ちを考えられないような人たちが、ネット上で他人を攻撃するのは困る」と課題を挙げていた。
自由な発想 磁石で遊ぼう

落合教授の講演のあとは、グループに分かれてワークショップを行った。「柔らかい磁石」を使って、どのような未来が実現できるかというアイデアを出し合うイベントを主催したのは、名古屋工業大学電気・機械工学科の岩本悠宏准教授(磁性流体力学)。岩本准教授は、石のように硬くない、グニャグニャと曲がる磁石や、粒状になった磁石を紹介し、参加者に実際に触ってもらった。
そして、磁石が単に何かをくっつけるものではなく、速度の測定やセンサーなど、幅広く使われていることを解説。その後、大人と子どものグループに分かれて、磁石の物理的な性質などは問わずに、自由な発想で活用法を話し合った。

大人のグループでは、「リカバリーウェアにして、磁力でコリをほぐす」や「骨折や関節が動かなくなったときのリハビリに活用する」「食事やお酒がより美味しくなる」といった実用的なアイデアが浮かんだ。子どものグループからは「翻訳機として動物の言葉を翻訳する」や、「昔の偉大な作曲家に、楽器演奏の方法を教えてもらえる」「遠くの人と目の前にいるようにして話せる」といったアイデアが出た。

岩本准教授はその一つずつに「面白い」「できるといいですね」とコメントし、とりわけ子どもたちが描いたイラストを見て「すごくたくさんのアイデア」と褒めると、子どもたちは保護者の方を見ながら照れた顔で応じていた。
家がない人に住まいを提供 インスタントハウス
別のワークショップは、建物の内外で行われた。名古屋工業大学社会工学科の北川啓介教授(建築学)が取り組む「インスタントハウス」の中に入ってみたり、使えそうな素材を考えたりするというもの。インスタントハウスとは、2011年の東日本大震災の際に被災地の子どもたちがすぐに使える家がほしいと要望したことに着想して開発した家のこと。屋内外で異なる素材を使っており、簡単に組み立てられ、インスタントといいながらも保温性や強度があり、撤去も容易な構造となっている。

北川教授が「今日はみんなで、壊れず簡単なお家を作るためのアイデアを出しあいます」と呼びかけると、参加者はワクワクした顔で未来のインスタントハウスについて考え始めた。
そのアイデアのヒントとして、学生らが膨らませた風船を大きな袋に詰め、北川教授が「乗ってみる」と尋ねると、子どもたちは「割れないの」と半信半疑で腰を下ろしていく。子どもが全員腰掛けても割れないことに驚き、「一つの風船では割れてしまうけれど、集めると割れない。こういう軽くても丈夫な素材が世の中にたくさんあります」と解説すると、子どもたちは「布で家を作る。洋服を使った家」「ビニールを有効活用する」などのアイデアを出していった。


屋外に設置された、気球のように空気で膨らませた防炎シートに断熱材を吹き付けたインスタントハウスに入った参加者は、その快適さに「ここに住みたい」「電気が引いてあるので生活できそう」と感激した様子で壁などを触っていた。北川教授は「世界にはお家がなくて困っている人がいっぱいいる。戦争や災害などで家がなくなることがあるから、そういう人たちに温かくて、プライバシーに配慮した家があるといいですよね。簡単に誰でも作れて、安心できるような家づくりをこれから先もやっていきたい」と結ぶと、参加者たちからは大きな拍手が沸き起こった。
関連リンク
- 名古屋工業大学 サイエンスアゴラ in 愛知
- 落合陽一公式サイト
- 名古屋工業大学News&Topics 2026年2月25日 「「サイエンスアゴラ in 愛知 〜ものづくりと私たちの未来〜」を開催しました」