ネギから箸置きやリバーシなどプラスチック製品を作る取り組みが、埼玉県深谷市の埼玉工業大学で行われている。ネギは風邪を引いたときに体を温めるなどの作用があり、とりわけ旬の冬に食卓にのぼる野菜で、深谷はその産地として知られる。だが、収穫したネギは規格により、出荷時に伸びた緑色の部分をカットする必要があり、その部分の再利用法がないという課題があった。アップサイクルした製品を市のふるさと納税返礼品に採用するよう働きかけるなど、産官学連携による地域活性化に寄与したい考えだ。

花から繊維、『峠の釜めし』からタイル 不要品を必要な品に
JR高崎線岡部駅から、野菜畑に囲まれた道路を進むと、埼玉工業大のキャンパスが現れる。周辺の冬の畑ではネギやブロッコリー、白菜などが生産されている。工学部生命環境化学科の本郷照久教授(環境物質化学)は、「捨てられて利用されなくなるものを、価値あるものに変える」をテーマに研究を続けてきた。

これまで、米のもみ殻の灰を揮発性有機化合物(VOC)の吸着材に、ユリの花の繊維を和紙にするなどしてきた。面白いものでは群馬の有名駅弁「峠の釜めし」の容器が1000度を超えて加工された益子焼であることに着目し、フタと本体を一緒に混ぜてタイルにする技術を発表している。
その一環で、2022年の春に地元の農機具業の関係者から「直販所以外ではネギは切って売られる。切れ端を再利用できないか」という話が持ち込まれた。ネギは折れないように、小売店まで段ボールに入れて運ばれる。この段ボールの規格により、農家はネギの緑色の部分を切りそろえて詰めている。
なお、ネギは白い部分を土で覆い、緑色の部分が光合成することによって育つ。関東では白い部分が好んで食べられるが、緑色の部分がなければすぐにしおれてしまう。その関係者は「切り落とす部分を燻製用のチップにしてみる」というアイデアを試したが、いぶされた食材がまずくなり、失敗に終わっていた。
本郷教授が様々な関係者に課題を聞いたところ、この切れ端の処分について「くさいと苦情が出る」などの声があった。硫化アリルなどの硫黄を含む化合物が含まれており、強い腐敗臭が漂うことが原因だ。
ペレットに加工 におい問題解決
企業が再利用に八方塞がりだったところで、本郷教授は、これまでの知見を生かして研究を始めた。まず、2022年夏に「ネギのセルロースだけを取り出す」という実験を行った。セルロースができれば、繊維や薬剤など様々な用途に加工できるためだ。ユリのように強い茎がないので、紙には向かないと思い、プラスチックの原材料へ変えられないかと考えた。
生のネギをアルカリ溶液に浸けて、ヘミセルロースとフェノール性化合物であるリグニンの一部を取り除く。この段階ではまだ「ネギだ」と分かる状態だが、次の漂白とリグニンを完全に除去する工程を経ると、白い繊維状の物質になって、もはやネギとは分からない。ほぐれた繊維を集めることで、純度の高いセルロースができる。
取り出したセルロースは、大手電機メーカーの関連会社によって複合樹脂ペレットとして戻ってきた。なお、複合樹脂ペレットは茶色で、ネギのにおいはせず、長期保管しても変質しない。ペレットの55パーセントがネギ由来の物質で、残りの45パーセントはポリプロピレンとなっている。

学内の金型による成形を研究している研究室に協力を仰ぎ、複合樹脂ペレットを約190度の高温にして金型に流し込み、ネギの形をした箸置きを作った。色はエアブラシで吹き付けて着色し、遊び心のある「小さなネギ」にした。

この吹きつけによる着色方法ではなく、ペレットに着色剤を混ぜれば他の用途でも使える。「におわず役立つ」ネギが呼び水となり、おもちゃ用に加工してリバーシを作った。駒はネギから作ったもので、ボードは地元で採れた米のもみ殻を再生して作った。駒の表裏は白と黒ではなく、白と緑色に。着色剤を使ったため、落ち着いた緑色の駒ができた。
このリバーシは深谷市の目にとまり、2026年度の市のふるさと納税返礼品になるように検討されているという。25年11月にあったリバーシの発表会には、小島進市長の姿もあった。カモがネギをしょってくるということわざがあるが、鴨鍋を食べる際に使う箸置きがおもちゃをしょってくることになった。

農家に利益を還元 研究の原動力
本郷教授は埼玉県越生町(おごせまち)出身で、越生の名産品である梅に着目し、梅の種を使った黒い皿、剪定した枝を使った活性炭を作る取り組みを今年2月に発表したばかりだ。今後もアップサイクルによって、より環境にやさしい「変化」を起こしたいという。

これまでの研究を振り返り、「不要なものであっても、利益が出るようにすれば経済が回る。コンポストでは肥料に分解されにくいものをよみがえらせるところに楽しみがある」と本郷教授は目を輝かせる。今は、ブロッコリーの可食部を除いた大きな葉を生かして別のものにできないか考えているところだという。
「農家の方々は暑い日も寒い日もきつい作業を行って私たちの食卓を支えてくれているが、消費者は安いものを求める。研究で生まれたものが、農業に利益として還元されていくと良いなと思う」としている。「ねぎ」られた農家の方を「ねぎ」らう研究といえそうだ。
関連リンク
- 埼玉工業大学プレスリリース「本学の「環境物質化学研究室」×「経営企画研究室」による深谷ねぎ残渣問題解決への社会実装・世界初「深谷ねぎリバーシ」を発表!」
- 埼玉工業大学プレスリリース「埼玉工業大学、循環経済社会に対応し、陶器製弁当容器の再利用技術を開発 環境に優しい技術により「峠の釜めし」の釜から、建築用タイルの製造を可能に」
- 埼玉工業大学プレスリリース「生命環境化学科 本郷照久 教授が越生の梅を有効利用する資源化技術を開発!」