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《JST共催》「ひかり×ひと」-「情報ひろばサイエンスカフェ」で大学院生と中高生らが語り合う

「科学と社会」推進部

掲載日:2018年4月13日

「ひかり×ひと」をテーマにした「情報ひろばサイエンスカフェ」〔主催・文部科学省、共催・科学技術振興機構(JST)〕が3月30日、東京都千代田区霞ヶ関の同省内にあるラウンジで開かれた。「情報ひろばサイエンスカフェ」は、科学者らさまざまな分野の専門家と市民が科学や科学技術にまつわる話題や課題について自由に語り合う場として企画されてきた。「越境する」をテーマに掲げる「サイエンスアゴラ2017」(JST主催)の連携企画の一つでもある。

今回の講師は、電気通信大学の美濃島薫教授研究室に所属する大学院修士課程2年(※4月より博士課程1年)の内田めぐみ(うちだ めぐみ)さん。光の研究の素晴らしさを通じて「科学の面白さ」を中高生たちに伝えたいという内田さんの熱意により、「中高生向け春休み特別企画」としてこのサイエンスカフェが実現した。参加者は約30人。8人の中高生も参加した。

写真1 講師の内田めぐみさん
写真1 講師の内田めぐみさん

ファシリテーターは、フリーランスの科学コミュニケーターとして活動する本田隆行(ほんだ たかゆき)さん。その軽妙な語り口が内田さんのフレッシュさと融合し、笑いの絶えないサイエンスカフェとなった。

本田さんは最初に、参加した中高生たちの緊張を見抜いたようだ。本田さんの呼びかけで全員がまず深呼吸。内田さんは、各テーブル内での自己紹介を促した。活発な対話のための下地作りだ。こうするうちに参加者の緊張も解け、和やかな空気のなかでこの日の本題へと入っていった。

写真2 ファシリテーターの本田隆行さん
写真2 ファシリテーターの本田隆行さん

「1メートルを作ってみよう」

内田さんが最初に提案したグループワークだ。8組に分かれた参加者が、力を合わせてマスキングテープを1メートルの長さに切るというもの。指の長さを参考にしたり、靴のサイズから推測したり、手段はさまざま。各テーブルでは活発に意見が飛び交い、早くも会場の盛り上がりはほぼ最高潮に。

最も1メートルに近かったチームの記録は97.5センチ。普段慣れ親しんでいるはずの1メートルという長さ。ものの長さを測る「単位」にもなるこの大切な長さでさえも、結果は長短さまざまだった。人の感覚がいかにあてにならないかを、みんなが実感した。ものの大きさや長さに対する人の感覚は、あてにならない。これは、実社会ではよくあることだ。これがきちんと共有されないと、人々の公平性や秩序の崩壊を招き、ひいては大きな社会問題へとつながることも。200年前に「ある国で実際にあったこと」としてこんな史実が紹介された。共通の単位がなかったため商取引には混乱が生じ、そのほかにもさまざまな弊害が出ていた。その後に起きた革命を契機に、「全世界共通の新しい単位を作ろう」という機運が高まったという。

「ある国」がどこなのかは伏せられたまま、話は進んだ。ひと段落したところで、各グループが「1メートル」に切り取ったマスキングテープが貼られているホワイトボードをよく見ると、テープの色は「青」「白」「赤」。フランスの国旗のトリコロールカラーだ。「ある国」とは、フランスだったのだ。さりげない工夫に、参加者から感嘆の声が上がった。

写真3 「1メートルを作る」の結果、チーム8の優勝。マスキングテープの色をよく見ると…
写真3 「1メートルを作る」の結果、チーム8の優勝。マスキングテープの色をよく見ると…

「では、みんなも『単位』を作ってみよう」

独自の単位を考案する2つ目のグループワークだ。ルールは「何かを基準にして決めること」「単位の名前もつけること」の2点。「1富士=3776メートル」「1タク=タクシー1メーター分の距離」など、ユニークな単位が次々と生まれた。

「単位を作るとき、みなさんは基準をどうやって選びましたか?」。内田さんが問い掛けた。200年前のフランスの人々も、同様の悩みに直面したはずだ。そして彼らは、「全ての人々のため」の単位は「全ての人々にとって平等に存在するもの」という理念のもと、基準として「地球」を選んだのだという。

こうしてフランスで始まった「平等な単位」づくりは、困難を極めたという。革命の混乱期にあって、当初7カ月で完了する予定だった測量には7年もの歳月を要したという。研究者が何度もスパイの嫌疑をかけられるなど、苦難の連続だったそうだ。そうした苦難を乗り越え、とうとう誕生したのが「メートル」だった。普段私たちが何気なく使っている「メートル」は、平等と秩序を求めた民衆の思いと、研究者たちの人生をかけた研究によって生まれた汗と涙の結晶―。内田さんがそう解説すると、多くの参加者がうなずいた。

1メートルの基準として作られたのが「メートル原器」。断面がX字形の金属の棒で、硬く変形しにくい合金製だ。1885年にメートル条約へ加盟した日本には、全30本中22番目のメートル原器が配布され、2012年には国の重要文化財にも指定された。現在は産業技術総合研究所で保管されている。このメートル原器は、1960年まではメートル単位の世界基準として使われていたが、現在は使われていない。目盛りの太さの分だけ精度が落ちるという、決定的な弱点があったからだ。わずかな誤差でも、長い距離を測る場合には、それが積み重なって大きな誤差となる。月にロケットを飛ばすことを考えると、月面に到達したときには、予定着陸地点から40メートルもの誤差が生じかねないという。この弱点を解消するために、不変でより精密な基準として選ばれたのが、今日のテーマでもある「光」だ。

今日のテーマは「ひかり×ひと」。いよいよ核心に入っていった。光は1983年にメートル単位の国際基準として採用され、今日に至っている。私たちのよく知らないところで、光は日常と密接につながっていたのだ。内田さんの専門分野は、光の一種であるレーザーの研究だ。内田さんは、もともとものづくりに関心があったという。しかし、超精密なレーザーである「光コム」の研究に情熱を燃やす美濃島教授と出会い、精密さを極めることは新しい世界の扉を開く鍵になると感じ、この道を選んだそうだ。

「光コム」とは、レーザーを発射する時間間隔とその色(周波数)を高い精度で制御する技術で、「光のものさし」として様々な測定の場面で活用されている。発射されたレーザーを周波数別にグラフに描くと、短い縦の線が等間隔に密に並ぶ「櫛(くし)」のように見えるので、「光の櫛(=comb(コム))」と呼ばれている。このレーザーを当てれば物体の形状を測定することができ、近年では人の呼気にレーザーを通し、その成分を特定することで病気を診断するといった応用分野の研究も行われている。内田さんはこうした話を紹介しながら、「光コム」の応用の幅広さを分かりやすく解説した。

写真4 会場の様子
写真4 会場の様子

内田さんは、その光コムを用いた「写真を撮るだけで形を測ることができる」手法の開発に取り組んでいる。端的に言うと、平面の写真に、対象物の奥行きの差を色の違いとして表すもので、この日のサイエンスカフェでも、参加者はクロマデプスメガネという特殊なメガネを装着してその立体感を体験した。この手法では、物体の像をスキャンすることなく一瞬で測定できるため、連写していくことでその変化を捉えることも可能だという。

「一瞬で形を測ることができる技術があったら、何を測ってみたいですか」。内田さんが再び問い掛けた。光コムの技術を使えば、非接触・非破壊、かつ高速・高精度な測定が可能で、その対象は建築物からバイオの世界まで、非常に幅広い。「さくらんぼの大きさを一度に大量に測定できたら選別作業が楽になる」「病気と同様に呼気の成分を測定すれば、味覚も視覚化できるのではないか」。参加者からはユニークなアイデアが、たくさん出た。「この中から将来の研究テーマが生まれるかもしれない」と内田さん。その可能性に大いに期待したようだ。

この光コムは最先端の研究分野だが、原理自体は約20年前に開発されていたという。近年になって発展した背景には、光源のコンパクト化などの周辺技術が進歩したことなどがあり、ようやく実用化レベルの研究が活発化するフェーズに至ったそうだ。内田さんは、自分が生まれた年に誕生した技術の研究に、今こうして取り組んでいる。このように科学技術の発展には長い時間が必要で、研究者の人生をかけた研究に支えられていることを知ってほしかったという。

この日のサイエンスカフェでは、「光」と「人の生活」が密接に関わっていることを知ることができた。メートルも光コムも、時代や背景こそ違うものの、研究者の人生をかけた研究によって支えられてきたという点で共通している。「知らずに過ごすこともできるが、調べてみると普段の生活がもっと面白くワクワクしたものに変わるということを、伝えたかった」「光の技術を少しでも身近に感じたり、『面白いな』と思ってもらえたりしたら嬉しい」。内田さんは、そう中高生の参加者に語りかけ、この日のサイエンスカフェを締めくくった。レーザーの研究では、体操競技の判定への応用研究なども進んでいるそうで、早ければ2020年の東京オリンピックでの実用化も見据えているという。私たちの生活と密接に関わる光の今後から、目が離せない。

「ギジログガールズ」による今回のサイエンスカフェのまとめ

ギジログ1
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ギジログ5
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(「科学と社会」推進部 関本一樹、写真は石井敬子)

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