想像を絶する質量(重さ)が破格の重力を生み出し、あらゆるものを引き付けて飲み込んでしまう。その強烈な重力からは光さえも逃れ出ることができない暗黒の天体。それがブラックホールだ。「ブラックホールって何ですか」。この不思議な天体は、子供向けの講演会でも質問の定番だ。
ブラックホールには、大きく分けて二つのグループがある。ひとつは、太陽の数倍からせいぜい数十倍くらいの質量の小ぶりなブラックホール。もうひとつは、太陽質量の百万倍から百億倍くらいの「巨大ブラックホール」だ。
巨大ブラックホールは、私たちが住む銀河系をはじめ多くの銀河の中心にあると考えられている。宇宙には無数の銀河があるから、巨大ブラックホールも、ごくありふれた天体ではある。だが、これほど巨大化するには、相当な量の物質を吸い込まなければならないはずだ。時間もかかる。巨大ブラックホールは、宇宙が138億年前に誕生してからどの段階で、生まれ始めたのだろうか。
愛媛大学宇宙進化研究センターの松岡良樹(まつおか よしき)准教授らは、最近の研究で、宇宙誕生からまだ8億年くらいしかたっていない時点で存在していた巨大ブラックホールを大量に見つけた。その数は83個。こんな宇宙の初期に大量の巨大ブラックホールがあるとは考えられていなかったという。
松岡さんらが探したのは、明るく輝くクエーサーとよばれる天体。その中心には巨大ブラックホールがあり、あらゆるものを飲み込む過程で激しく光る。だが、明るいといっても、今回は、130億年も昔に出ていま地球に届いている光をとらえるのだから、じつはとても微弱で暗い。その暗いクエーサーを広い宇宙から探し出し、それが本当にクエーサーなのだと確認しなければならない。そのためにまず、ハワイにある「すばる望遠鏡」の超広視野主焦点カメラでクエーサー候補を選び出した。次に、その色合いを、すばる望遠鏡、北大西洋のスペイン領カナリア諸島にあるカナリア大望遠鏡、チリのジェミニ望遠鏡で精密に計測して、求めているクエーサーであることを確認した。
こうして新たに発見した宇宙初期の巨大ブラックホールは83個で、このほか、すでに報告されている17個の巨大ブラックホールも確認した。合計100個。これまでは例外的に大きく明るいものしか見つかっておらず、今回の発見で、確認されたブラックホールの数は5倍ほどに増えたという。新発見のうちでもっとも古いのは130.5億年前のブラックホール。いま確認されている古い巨大ブラックホールには131.1億年前、130.5億年前のものがあり、今回の発見は2位タイの記録になる。
松岡さんは、「周囲の物質を多量に吸い込んで巨大ブラックホールになるには、10億年くらいかかるはずだ。それなのに、宇宙誕生から8億年くらいで、これだけたくさんできていた。その理由は、まだわからない。どれくらい宇宙の初期にさかのぼれば巨大ブラックホールが見つからなくなるのか、そこを知りたい」と話している。
関連リンク
- 愛媛大学ホームページ「超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」