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人工ホタルで作る立体ディスプレー

2018.01.16

 初夏を告げるホタルの舞は、なんとも幻想的で美しい。宮城県の蔵王の麓で見たヘイケボタルの乱舞。あちらこちらにほのかな光跡を残していた東京・多摩地区のヘイケボタル。富山県の川のほとりを飛んでいたゲンジボタルは、驚くほど強くはっきりした光を放っていた。

 彼らはもちろん、ほかの昆虫と同様に羽という動力装置を持っているわけだし、体内のルシフェリンという物質を分解して光を出しているので、発光のための重い装置もいらない。小さくても、光りながら宙を移動できる。自然の妙だ。これを人工的に作るのは、とても難しい。たとえば電池を内蔵させようとすると、とたんに重くなって飛ばなくなる。それを世界で初めて作ったのが、東京大学修士課程学生の宇野祐輝(うの ゆうき)さんらの研究グループだ。大きさがわずか4ミリメートル、重さ60分の1グラムの人工ホタルを宙に浮かせることに成功したのだ。名付けて「ルシオラ」。ゲンジボタルの学名だ。

 研究グループの高宮真(たかみや まこと)・東大准教授によると、このルシオラで狙っているのは3次元の立体的なディスプレー。ルシオラをたくさん浮かせてクマのぬいぐるみの形を作り、それが一瞬でネコに変身するような立体ディスプレーを目指したいのだという。

 ルシオラの誕生に必要な技術は、「浮かせる」「エネルギーを送る」「軽量化する」の三つだ。

 「浮かせる」ためには、音波を使っている。音波は空気の振動だ。太鼓をドンとたたくと、その音が向こうに伝わっていく。そのとき空気は、向こうに動いたり手前に戻ったりという小刻みな振動を、1秒間に何百回という速さで繰り返している。この振動が、秒速340メートルで音として向こうに伝わる。複数のスピーカーから上手に調整した超音波を出すと、その超音波が重なって、空気がまったく動かない点を作ることができる。「節」と呼ばれるこの点に、たとえば軽く小さな発泡スチロールの玉を置くと、玉は動かず浮いたままになる。「節」の位置を動かすと、玉も動く。

 超音波で小さな物体を浮かせる技術はこれまでにもあったが、よほど物体を軽くしなければ落ちてしまう。つまり、軽くて、しかも光り続ける物体を作ったことが、この研究のポイントだ。ルシオラは発光ダイオード(LED)で光る。そのためにはエネルギーが必要だが、電池は重くなるので使えない。そこで「無線給電」という方法を使った。電極を接触させなくても電気のエネルギーを送ることができる無線給電は、家庭用電動歯ブラシの充電などで、すでに使われている。ルシオラの近くに置いたコイルに電気を流し、ルシオラの中に組み込んだコイルにエネルギーを送る。これを、特別に設計したルシオラ内部の軽くて小さな回路を通し、発光ダイオードを光らせる。

 高宮さんは、ルシオラをもっと小さく軽くして、いちどに浮かす数を100個、1000個と増やしたいという。

写真1 小さく軽い人工ホタル「ルシオラ」。
写真1 小さく軽い人工ホタル「ルシオラ」。
写真2 超音波で宙に浮いた光るルシオラ。下の白い板に影が映っている。
写真2 超音波で宙に浮いた光るルシオラ。下の白い板に影が映っている。
写真3 点灯、消灯を繰り返しながらルシオラを動かすと、20秒間でこの範囲を光で埋めることができる。下のコイルで、ルシオラに電気のエネルギーを送る。コイルの直径は約3センチメートル。(研究グループ提供)
写真3 点灯、消灯を繰り返しながらルシオラを動かすと、20秒間でこの範囲を光で埋めることができる。下のコイルで、ルシオラに電気のエネルギーを送る。コイルの直径は約3センチメートル。(研究グループ提供)

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