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高強度レーザーで微小なスペースデブリ除去

2015.04.23

 1950年代から人類が打ち上げた人工衛星は、通信や観測などさまざまな分野で大きな利益をもたらした。一方、地球の衛星軌道には、今や3,000トンものスペースデブリ(宇宙ゴミ)が存在し、制御不能となった機体や、機体同士の衝突が生んだ破片など、大小のスペースデブリが、秒速10キロメートル以上の相対速度で個別の軌道上を移動している。そのため、現在活動中の人工衛星は、常に衝突や損傷の危険にさらされている状態だ。

 そんな中、高強度レーザービームを使い、これまで不可能だったセンチメートル(cm)サイズのスペースデブリを地球周回軌道から除去する技術が発表された。考案したのは、国立研究開発法人理化学研究所和田智之(わだ さとし)グループディレクターらの共同チームで、パリ第7大学(フランス)のエコール・ポリテクニークと原子核研究所宇宙物理センター、トリノ大学(イタリア)、カリフォルニア大学アーバイン校(米国)との共同研究の成果だ。

 高強度レーザービームの照射装置は、1,000本以上の光ファイバーを並列させて光の輝度を増幅させるもので、平均パワー500キロワット、パルス幅約1ナノ秒のレーザービームを放つ。これがスペースデブリに命中すると、強い輝度がデブリの表面を破壊し、プラズマを噴出させる。アブレーションと呼ばれるその噴出力の反力(反作用)を利用してスペースデブリの軌道を変え、地球大気に突入させて大気の摩擦熱で消滅させる。

図. レーザービームによるプラズマの噴出力(アブレーション)と反力のイメージ図。この反力を利用して、もともとV方向に進んでいたスペースデブリの向きを制御する

 微小な標的を捉えるのには、超高エネルギー宇宙線を検出するための宇宙望遠鏡(EUSO)計画のために理化学研究所と国際チームが開発してきたEUSO型超広角望遠鏡を使う。この望遠鏡は、100キロメートル遠方で5ミリサイズのスペースデブリが反射する太陽光を検知する感度を持つ。

 以上の技術を使うと、スペースデブリを捉えた後、照射装置がレーザービームを照射、その衝撃でスペースデブリの軌道を制御するまでにかかる時間は、たったの1秒程度以下という。

 共同チームは、今後、国際宇宙ステーションで技術を実証し、人工衛星が密集する高度約700〜900キロメートルの軌道付近に、スペースデブリ除去専用の宇宙機を打ち上げると提案している。その環境で今回の除去技術を5年程度運用できれば、現在70万個以上存在するcmサイズのスペースデブリを大部分除去できると意欲的だ。

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