池の水を抜いて底のヘドロや土砂を取り除く「かいぼり」は池の環境をリフレッシュする。東京都三鷹市と武蔵野市にまたがる「井の頭池」で2014年1〜3月に行われた「かいぼり」の成果の一つとして、現地で絶滅したと思われていた水生植物が復活した。東邦大学理学部の西廣淳(にしひろ じゅん)准教授(保全生態学)と千葉県立中央博物館の研究チームが確認し、10月6日発表した。
井の頭池はもともと、武蔵野台地の湧き水によって清らかな水をたたえた池で、江戸時代から貴重な水源や憩いの場として活用されてきた。水生動植物の生息・生育場所としても重要だった。しかし、戦後、周辺の住宅開発に伴う湧き水の枯渇、外来種の導入、水質の悪化などで、貴重な水生植物の多くは姿を消していった。
自然再生の試みとして井の頭池の「かいぼり」が市民の参加で今年1〜3月に実施された。その効果は予想よりも早く大きかった。夏には池の水の透明度が大幅に向上し、井の頭池で絶滅したとみられていた水生植物の シャジクモやヒロハノエビモなどの絶滅危惧種や希少種が約半世紀の時を経て復活した。これらの植物は、かつて水草が豊かだった時代に実った種子が池に堆積した泥の中で休眠しており、「かいぼり」による環境改善に応答して発芽したと考えられる。
このように土の中で生存力を保っている種子の集団を「土壌シードバンク」と呼ぶ。研究チームは東京都西部公園緑地事務所の水生植物の保全と調査に協力して、井の頭池の底泥を採取した。東邦大学理学部4年の白土智子(しらつち さとこ)さんが土壌シードバンクの発芽実験を行うなど詳細に調べたところ、現地でまだ復活していないハダシシャジクモ、ホッスモ、コウガイモなど、特に希少性の高い種が発芽して育つことを確かめた。
研究チームの西廣准教授は「井の頭池の環境がさらによくなれば、これらの植物も復活する可能性がある。伝統的な管理手法でもある『かいぼり』は環境改善の有効な手段だ。長く確認されていなかった水生植物の復活は自然再生に希望の灯をともす。今後も調査を継続し、かつて豊かだった環境に少しでも近づけるよう尽力したい」と話している。
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