閉経後もメスが長生きするのはヒトなど一部の哺乳(ほにゅう)類だけではなく、アブラムシの仲間にも見られることを、東京大学大学院総合文化研究科の植松圭吾氏(博士課程大学院生)、柴尾晴信助教、嶋田正和教授が発見した。
このアブラムシは、常緑樹のイスノキに虫こぶをつくりその中で集団生活をするヨシノミヤアブラムシ。単為生殖によって増殖するため、同じ虫こぶ内の虫たちはすべて同じ遺伝子を持っている。この集団の中に羽を持たない成虫がいて、腹部を刺激すると粘着質の液体を分泌する。さらにこの成虫が分泌液によって捕食者に張り付いているのが見つかったことから、植松氏らは成虫が虫こぶの中に侵入する捕食者に対して自己犠牲的な防衛行動を行うのではないかと考えた。
ヨシノミヤアブラムシの天敵であるテントウムシ幼虫を虫こぶ内に入れる実験を行ったところ、成虫が張り付くことで捕食者の侵入を防ぐことが分かった。いったん敵に付着した成虫は離れることができず、捨て身で虫こぶ内の仲間を守っていることになる。
ヒト、クジラなどの知能の高い哺乳類で閉経後のメスが長生きするのは、蓄積した子育て経験で血縁者の繁殖を助けるためと考えられ、進化学では「おばあちゃん効果」として知られている。
ヨシノミヤアブラムシも加齢によって体内に蓄積された粘着物質が血縁個体を守っていることになり、繁殖終了後の利他行動の進化が知能の高い哺乳類に限らないことを示すものだ、と植松氏らは言っている。