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プログラミングで創造的な人材育成を《福野泰介さんインタビュー》【未来を創る発明家たち】

2022.02.09

かにロボコンも推進する、jig.jp創業者の福野泰介さん

 特集「未来を創る発明家たち」の第3回は、ソフト開発会社jig.jp(ジグジェイピー、福井県鯖江市)の創業者であり、「こどもパソコン IchigoJam(イチゴジャム)」を開発した福野泰介さんにお話を伺った。自由な発想によるものづくりが、社会を動かし、変えていくパワーとなる。プログラミングから創造的な人材育成を目指し、実践の場も提供する。「一日一創」を掲げる福野さんの発想の源とは何だろうか。

「ラズベリーパイ」を意識した「イチゴジャム」

 IchigoJamはプログラミング専用の入門パソコンとして人気を集めている。手のひらサイズの小さなコンピューターで、テレビとキーボード、電源をつなげば、誰でもすぐにプログラミングをはじめることができる。かわいい見た目から、これがコンピューター? と思う人も多いだろう。作業領域やプログラミングの書ける領域は小さいながら、IchigoJamには、コンピューターとして最低限の機能が詰め込まれている。

 手のひらサイズのコンピューターには、英国の財団が開発した「ラズベリーパイ」があるが、動かすために必要なOSをインストールするなどの準備を必要とする。子どもたちには、こうした作業がハードルになると考えた福野さんは、IchigoJamには、よりシンプルな操作性を追求した。名前は、このラズベリーパイを意識したものだと話す。誰でも手に入れやすい、手頃な価格にもこだわった。同時に、プログラミングを実践する場の提供も行っている。

IchigoJamの基本キット。自分ではんだ付けして完成させる

 プログラミングとは、コンピューターが行う処理を、順に指示すること。IchigoJamでは、アルファベットの大文字が分かり、基本的なパターンを覚えれば、それをコマンドとして入力することで、コンピューターにさまざまな動作をさせることができる。

 例えば「LED1」と入力すれば、付属のLED(発光ダイオード)ライトを光らせ、「LED0」で消すことができる。「LED1:WAIT60:LED0」では、ライトを1秒光らせ、自動で消灯させるといった具合だ。コンピューターが思い描いた動作を実行してくれるよう、トライアルアンドエラーをくり返すことも楽しみの一つとなる。

 40年前に誕生した頃のパソコンのような幼さも特徴とするこどもパソコンIchigoJam。現在のパソコンのように、高機能、高容量のスペックは持ち合わせていないが、子どもたちは自由な発想と簡単な操作で、新しい発明を生み出すことができる。

 例えばIchigoJamには、外部の機材にコマンドを送り、指示を実行させる入力と出力の回路を6つつくることができる。これらを駆使すれば、自作のロボットを動かすことが可能だ。

北陸3都市で開催された「かにロボコン」

 2017年の福井市を皮切りに、19年に金沢市、そして21年に魚津市と、北陸3都市では、名産品であるカニにちなんだロボットコンテスト、「かにロボコン」が開催されている。子どもたちがおのおのつくったカニ型のロボットを動かし、与えられたミッションを時間内でどれだけ達成できるかを競い合う。

 脚を動かすモーターや、視覚の代わりとなるセンサーなど、ロボットに組み込んださまざまなしかけを、プログラミングで制御して動かす。うまくいかない時には、その場でプログラムを修正し、再トライもできる。デザインから動きの制御まで、全てオリジナルでつくり上げたロボットの技を披露する子どもたちは、真剣そのものだ。

21年11月に石川県金沢市で開催された「加能ガニロボットコンテスト」。コロナ禍でも子どもたちは元気だ
IchigoJamが使われているかにロボット(左)。アイデア賞やデザイン賞もあるコンテストの表彰式(右)

 参加した子どもたちからは、「微調整が難しいけれど、やりがいがあります」「もう無理かなと思ったけれど、やり直して成功できました。そういうところが楽しいです」と言った感想が聞かれ、会場は終始活気にあふれている。

ものづくりで社会を変える仲間を増やす

 北陸3都市で盛り上がりを見せた「かにロボコン」には、もうひとつのしかけがある。それは、地域企業と連携して活動を展開することだ。例えば、休日の会議室をプログラミング教室や練習の場として開放するなど、日々の活動に多くの大人たちが関わりを持つ。そしてコンテスト当日には、企業をあげて応援に駆け付け、子どもから大人までもが、熱中する取り組みとなる。

 こうした福野さんの活動には、「ものづくりを志す仲間を日本中、そして世界中に増やしていきたい」という思いがある。

 福野さんは、「つくりたいものは山ほどあり、一人では到底つくり切れません。みんなでいろいろな視点からものづくりに挑戦し、社会課題に貢献したり、世界中の人を楽しませたりしたい。みんなにクリエーターになってもらいたいのです」と語る。

 解決できない問題が山積している現代。大人は、これまでに築き上げてきた技術を手に取りやすい形で提供し、若い世代がそれらを活用し、次のステップへと進んでいく。IchigoJamが、誰にでも手に取りやすいデザインと機能、価格にこだわって発明されたことも、クリエーターへの第一歩をスムーズに踏み出せるようにとの願いが込められている。「ものづくりで社会を変える仲間」を増やしていくためのしかけなのだ。

不満イコール発明の種

 福井工業高等専門学校出身で、在学中からものづくりに取り組んできた福野さん。卒業後は、「自分のつくりたいものを自分で形にする」という意志を貫き、ものづくりの会社を立ち上げた。福井高専出身の卒業生が中心となり、子どもたちが楽しみながらITで課題解決力を身につけられるように、プログラミングのきっかけを広げる活動「プログラミングクラブネットワーク(PCN)」も推進している。

 そんな福野さんが、絶えず新しいものを生み出す原動力としているものは何か。

 福野さんは、不満、不快から創造が生まれると話す。何か不満があれば、何かをつくり出すことで解消できるかもしれない。何か不快に感じたときは、どのような状況が理想なのかを考え、そこへ一歩近づくためのものをつくり出せばいい。不満や不快に憤って終わらせるのでは、もったいないというのだ。

スマートフォンが発明される前、ほとんどの人はその利便性など想像すらできなかった。何も感じていない「不感」の中には、新たな創造が芽吹く種が潜んでいる。(福野さんの説明に基づき編集部が作成)

 例えば、「車いすでは、こうした所に行くのが大変だ」という不快の気づきがあれば、それを解決するためのものづくりがはじめられる。つくるもののイメージと動機が定まれば、次の一歩への動き方も変わっていく。

 問題にあふれた世の中だからこそ、それぞれが好きなテーマを拾い上げて取り組めばいい。そう考えて子どもたちの背中を押している。

 福野さんは最後に、「不満イコール発明の種、それは尽きることがありません。不満を感じる瞬間があれば、ラッキーと思ってほしいですね」と話し、笑顔を見せた。

プロフィール

福野泰介(ふくの・たいすけ)
jig.jp創業者&会長。こどもパソコンIchigoJam開発者。
福井工業高等専門学校電子情報工学科卒業。3社目の創業、jig.jpにてjigブラウザを開発。毎日何か創って発表する「一日一創」を開始。PCN共同創始者。政府CIO任命オープンデータ伝道師、総務省地域情報化アドバイザーなど、数々の職務を歴任している。

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